【インタビュー】超学生とヴィラン。そして新たな試行錯誤

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2023年8月に始動した“超学生×ボカロPプロジェクト”。これは超学生がVOCALOIDクリエイターとタッグを組んで“ヴィラン(※悪役キャラクターの総称)”をテーマに楽曲制作を行うもので、超学生はほぼ全曲で自身のボーカルミックスを担当している。

これまでにDECO*27による「ファントム」、柊キライによる「ヒス」、煮ル果実による「超獣戯画」、烏屋茶房による「Abyss-Over」と、クリエイターそれぞれの“超学生×ヴィラン”のイメージを投影させたオリジナル楽曲がデジタルリリースされた。

3月27日にリリースされた今作『MAR6LE』は、前述の楽曲に加え、すりぃによる「インキュベーター」、てにをはによる「オーバールック」の新曲も収録した6曲入りのEP。超学生が演じる6通りのヴィランを一挙に堪能できる。今回のインタビューでは“超学生とヴィラン”の関係性にフォーカスし、超学生のヴォーカリストとしての理想のスタンスや現在のモードを探っていった。

   ◆   ◆   ◆

◾️自分の感情を伝えるより、受け手に曲を伝えることを第一にしています

──今作『MAR6LE』では、6人のVOCALOIDクリエイターがそれぞれ“ヴィラン”をテーマに曲を書き下ろしています。よく超学生さんは“自分と真逆の性質を持った主人公の曲は歌いやすい”とおっしゃっていて、この6曲もそれにあてはまるということですよね。

超学生:そうですね。僕は歌を“演じるもの”と思っているところがあって、演じれば演じるほど歌が濃くなっていく感覚があるんです。自分と近いキャラクターだと演じずとも自然に歌えてしまうので、“歌”という感覚が弱くなるような気がして。

──ちなみにご自分に近いと感じる楽曲というと?

超学生:すごくおこがましいんですけど、原口沙輔さんの曲ですね。原口さんの支離滅裂でワードサラダっぽく見えるけど根幹はつながっているという表現方法は、音楽に限らず僕が好んでやることや面白いと思うものと近いというか。だから「人マニア」も「ホントノ」も、歌うのがすごく難しかったんです。3月7日に投稿した「イガク」の歌ってみた動画は、一旦“自分はこの主人公からかなり遠い人間だ”と思い込んで、そこから原口沙輔さんの世界を演じ直す方法で歌ってみたら、かなりやりやすかったんです。二重でお芝居をしているという。



──超学生さんにとっては、主人公を演じて歌うと細部まで楽曲の世界を作り込めると実感できるのかもしれないですね。

超学生:恥ずかしいんですけど、自分そのままで歌おうとすると感情移入しすぎて泣いちゃって歌えないことが結構あるんです。たとえば緑黄色社会さんの曲は、歌詞が綺麗で人間味がありすぎて、僕個人の感情で歌うと気持ちを持っていかれちゃって。「Mela!」のラスサビ前のセクションの歌詞なんかは、インターネット活動者とファンとの関係みたいだなと感じるから、沁みすぎてどうにも歌えないんです。だから演じているほうが歌に集中できるんですよね。

──感受性が高すぎるがゆえに、敢えてそこを避けていると。

超学生:あとはクラシックを習っていた時期があったのが大きいと思います。クラシックには“奏者が曲に酔ってはいけない”という考え方があって。たとえば“美しい人”を表現する場合、“なんて美しい人!”という気持ちを込めるのではなく、聴いている人が音楽から“なんて美しい人だ”という気持ちを感じ取れる演奏をすることが正解なんですよね。それもあって自分の感情を伝えるより、受け手に曲を伝えることを第一にしています。

──ご自身のエモーショナルを歌にぶつけるのではなく、曲に込められた感情をボーカルのテクニックで表現して、リスナーの心を動かすということですね。

超学生:そうですね。エモーショナルな曲を歌うときは、ここで声が裏返ったら、ここで声がしゃがれたら、感情の高ぶりが表現できるんじゃないか……みたいに細かくたくさん考えながら歌入れをしています。

──だからこそ超学生さんは“なんでもやります”のスタンスが取れるのだなと納得しました。超学生さんの“超学生らしさを固めると飽きてしまいそう”という考え方とも相性が良さそうです。でも“ヴィラン”というテーマは“超学生に合いそうなもの”だから選ばれたんですよね?

超学生:言葉だけで言うと矛盾してますよね(笑)。今回みたいな“超学生と合いそう”というイメージは、リスナーのみんなからもらったものが多いです。歌ってみたのリクエスト曲の中で多いのは流行っているもの、もしくは多くの人が超学生に合っていると感じているものだと思うんです。僕自身は“超学生っぽい”みたいなイメージはなるべく出来上がらないようにふわふわと避けてるけど、みんなが思う“超学生に合うもの”はもらい続けているというバランスで活動しています。

──自身のやりたいことは大事にしつつ、ファンの期待にも応えていきたい。

超学生:やっぱり聴いてくれる人が喜んでくれたら純粋にすごくうれしいんですよね。喜んでくれる人が多ければ良かったなと思うし、それと並行してみんなの思う“超学生に合いそう”とは全然違うものもどんどんやっていきたいです。

──『MAR6LE』の6曲は6人のクリエイターさんが思う“超学生に合うヴィラン”をテーマに曲作りをなさっているのではないかと感じましたが、その制作からどんな気付きを得ましたか?

超学生:音作りにかなり関わらせてもらって、いろんなクリエイターさんやエンジニアさんとのやり取りから、ポジティブな意味で“僕の感覚はまだあんまり信用しちゃいけないんだな”と学びましたね。足りないところが見えました。だからもっと謙虚に、柔軟にいろんなものを取り入れて変えていけると自分のキャパシティも広げていけるかなと思っているところです。あと『MAR6LE』の6曲はコラボレーション要素を大事にしたかったので、僕から曲に対して好みや要望を出さなかったんです。なのに結果的にどの曲も、僕の好きなものになっていたんですよね。


──6人とも超学生さんがリスペクトするクリエイターさんなのも大きいかもしれませんね。

超学生:特にてにをはさんが作ってくださった「オーバールック」は、もしてにをはさんがこの曲をVOCALOID曲としてアップしてたら絶対に僕は歌ってみた動画を出してただろうなと思うんです。それぐらい超学生にも自分の好みにもマッチした曲になりましたね。でもそうなると自分の“好き”という気持ちや“最高のクオリティにしたい”という欲が走って音を作りそうになる瞬間も出てきて……そうすると変な色が出ちゃうところもあるじゃないですか。

──そうですね。先ほどの“曲に酔ってはいけない”論にもつながります。

超学生:ノリノリで楽しく歌えたらいい音源になるかというとそうではなくて。だからなるべく客観的に、冷静さを持ち続けて慎重に“もうちょっといい歌い回しがあるんじゃないか?”と精査していきました。

──「オーバールック」で描かれているヴィランは、だいぶクレイジーですよね。自分の正義を貫くというよりは、正気を失った人物という印象を受けます。

超学生:恐怖が緻密に描かれている曲ですよね。歌詞も《ジャグリング酒瓶》とか《おかしくなっちゃったンだぜんぶ/呂律もラりるれろ》とか《アレが視えないの?》とか、至近距離に不気味さがあるというか。理論性がない狂い方をしていて、描かれている情景も破綻しているのに、身近に感じられるんですよね。

──超学生さんは「オーバールック」の主人公のように、負の感情に飲み込まれることはありますか?

超学生:僕は穏やかな人生を送っているのであんまりないですね。オタクなのでいろんな作品を観すぎているぶん、感情に飲まれるより先に“あ、これはあの映画にも出てきたこういうパターンだ”みたいに思っちゃうところがあるかもしれないです(笑)。作品にはヒステリックになる人、とんとん拍子の人生だったのに急にどん底に突き落とされる人、とかいろんな登場人物がいて。そういうのを見ているから、実生活であんまり怒ったり暴れたりしないのかも。

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