【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話008「インタビューというもの」

ポスト


これまでたくさんのインタビューをしてきた。数えてないしちゃんと資料も残してもないから、どれだけやったかわからないけど、一番最初のインタビューは、分不相応ながらポール・スタンレーだった。実はまだ現役ミュージシャンのときで、ギタリスト同士の対談という体で、ソニー出版(のちのソニー・マガジンズ)の「ポップギア」でインタビューをさせていただき、そのまま原稿を書かせてもらった。懇意にしていただいていた「WHAT's IN?」編集者の取り計らいでコラムやレコ評などに携わっていたとはいえ、KISSという重要な取材に経験も実績もない私を起用するという、桁違いの度量を有する編集部だった。あの頃お世話になった方々には今でも感謝の念に堪えない。

あれから、洋邦・新人からレジェンドまで、いろんなインタビューをしてきた。インタビューにあたって避けられないのが(1)「我々が訊きたいこと=読者に伝えたいこと(読者が知りたいこと)」と(2)「アーティストが伝えたいこと」のすり合わせで、ここにインタビュアーの個性と力量が関わってくる。

簡単に言ってしまえば、(1)と(2)どちらを重要視すべきなのかという問題だ。迷うことなく私は(2)だと思っているのだけど、当然ながらこれが必ずしも正しいわけもなく、ファンあってのエンターテイメントであればこそ、「アーティストが言いたいこと」なんかよりも「ファンが知りたいこと」の方がニュースバリューがあるという事実もある。ミュージシャンなんだから「言いたいことは全部音楽で言っておいてくれ」というわけだ。

で、(1)と(2)の整合性だけど、相手方のキャラクターやまわりの環境や状況、レーベルやマネージメントとのパワーバランスなどによって状況はいくらでも変わってしまう。つまりは臨機応変に対応することによって最適解を導くしかない。

これは私の考えであり似たような話を聞いたことがないので、一般論ではないと前置きしたうえでの話なんだけど、インタビューには2つのスタイルがあると私は思っている。ひとつは「スタジオレコーディング派」、もうひとつは「ライブ派」だ。その言葉通り、スタジオ盤かライブ盤かをイメージしてもらえばいい。

私の知る限り、ほとんどのインタビュアーは「スタジオレコーディング派」に当てはまる。スタジオでひとつずつレコーディングするかのように回答を録っていく。質問事項をメモに控え、もれなく情報を得る。それをひとつの原稿にまとめる。まさにスタジオアルバムを作り上げていくような経路を辿り、優れたプロデューサーでありエンジニアリング・スキルを有する人が、素晴らしい原稿を書き上げるというものだ。

でも私は、早々に「ライブ派」となった。一切メモは持ち込まない。取材時には紙資料も見ない。見るべきものは、相手の目だ。ロバート・フリップの指摘じゃないけれど、訊きたいことは自分の中にある。最も重要な「何を訊くべきか」「外してはいけないポイントは何か」は、相手の表情に、間合いに、目つきに、話の行間に現れる。そこから次への話題の道筋が見えてくる。話のテーマこそ決まっているものの、これは人と人との会話なのだから、予定調和はない。

そもそも会話なんて、みんなアドリブでしょ? 思ったことを言い、相手の発言を受け、その刺激からまた話の流れが変わったりする。メモを見ながら会話する人なんていないでしょ?それがコミュニケーションだ。そこに熱量が加われば、もっと突っ込んだ会話になるし、普段口にしないことが発せられたり、本音が出たりもする。インタビューだって会話なんだ。質疑応答じゃないんだから。

「ライブ派」には、どんな内容になるか終わってみないとわからないというリスクがつきまとう。そのためには会話のフットワークを軽く、会話の反射神経を鋭く、自らのコンディションに磨きをかけるしかない。そして作品を聴き込む。当たり前だけど、作品を存分に聴き込めば、そういった不安は消え訊きたいことがいっぱい出てきて、それに対してどんな回答をするのだろうか、そこから表れる人間性やアーティスト性はどんなものなのだろうか、とインタビューが楽しみになる。そして当日には、予想もしなかった発言が飛び出して、「やっぱこいつすげえ」とアドレナリンが逆流する。アーティストをリスペクトする瞬間は、いつも会話から飛び出してくる。

先の(1)(2)で言えば、「スタジオレコーディング派」じゃないと(1)の要素はなかなか得られない。メディアの要望に応じて原稿をまとめることが「是」であるプロのライターであればこそ、どんな内容になるか蓋を開かないとわからない「ライブ派」になるわけにもいかないだろう。でも私はBARKSというメディア側の人間なので、責任は自ら背負える。(2)の方が100倍面白いと思い、(2)に書かれたものこそ(1)のはずだと確信もしていたから、いつしか「ライブ派」となっていった。

そして、「そうか、自分はライブ派なんだな」と再認識する瞬間も、アーティストのインタビュー中で出くわしたりする。その様子を伝えるべく、次回はある時のSUGIZOインタビューのエピソードに触れたいと思う。

文◎BARKS 烏丸哲也



◆【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話まとめ
この記事をポスト

この記事の関連情報