【インタビュー】BRAHMAN、TOSHI-LOWが語る7年ぶりアルバム『viraha』と生と死と「歌にして乗り越えてきたんだと思う」

■コーラスは俺じゃないなと思って
■浮かんだのが茂木洋晃だった
──5曲目「SURVIVOR’S GUILT」は曲の変化の仕方が面白く、アルバムの中央に位置していることもあって、要の曲かなと思いました。
TOSHI-LOW:要かどうかわからないけど。そもそも俺たち、要感がないよね(笑)。別に大ヒット曲があるわけじゃないし。そういえばこの間、「アルバム作りに際しては2〜3曲が“良く聴かれる曲”として、その後に残っていけばいい。そのためにアルバムが存在している」っていう考え方があるってことを聞いたんだよ。“そういう考え方もあるんだ。なるほど、確かにな”って思ったんだけど、俺にはそういう考えがまったくない(笑)。だから、要か要じゃないかがわからないんだよね。
──全曲がフラットなんですね。
TOSHI-LOW:この曲こそ、自分がデモを作らないとやりづらかった。頭の中にあるゴッチャゴチャなものを…言われているように曲が変化したり。それを言葉では説明しづらかったから、デモを作って良かったなという曲かな。つまり、俺の頭の中ってこうなってるんだよ。これを言葉だけで説明するのは無理だし、俺パソコンが上手じゃないから、デモもリズムがズレてたりしていて。“でも、だいたいわかればいいか”と思って、そのままメンバーに渡したら、ズレてるところまでそのままコピーしてきて。「これ、すげー難しいんだけど」「いや、ズレてるだけだから」って。そういう曲(笑)。でも、歌詞はすごく辛辣というか、このアルバムの中でも一番ヘヴィなんだよ。

──タイトルは、“生存者の罪悪感”という意味ですか。 戦争や虐殺、大災害などに遭いながらも生き残った人々が、犠牲者に対してもつ罪悪感。考えさせられる曲です。
TOSHI-LOW:単純に罪だったらいいんだけどね。たとえば「なんであの人が波にさらわれて、私だけ助かったんだ」とか「どうしてあの人が死んで、私が生き残ってるんだ」とか。そういう、ほかの人にかえることができない被災者の意識というか感情というか。それもやっぱり答えがあるものじゃないんだよね。そのわからなさを噛み締めて生きていく…曲調でそれを表しているんだけど、怒号みたいな時が続けば、こんどはスコーンと晴れるみたいな時もあって。ただ、晴れたメロディなんだけど、思ってることは一緒で捉え方だけが変わっていく。つまり天気だけが変わっていくみたいなものだから、自分の悲しい思いは変わらない。ある意味、永遠に続く地獄なんだけど、地獄の中にも天気はあって。豪雨もあれば晴れもある。そういう思いをどうにか歌詞にしたかった。
──それはTOSHI-LOWさん自身も感じることですか?
TOSHI-LOW:もちろん、なんでだろうって思うよ。ただ、理由が全くわからないから…。それを罪と感じる時もあるし、俺なんかはそこから抜けちゃって、どっちでもいいやと思ってる。
──誰かや何かに対してこういう思いを抱いたら、一生消えないんだろうなとも思います。
TOSHI-LOW:薄れていくだけだよね。慣れていくというか。冬になったら身体の節々が痛むみたいなものであって。その感覚は薄れていってもすべて忘れることはないだろうし。ただ、こういう感覚って、ある人とない人がいて。ある人は一生地獄が続くんだよ。でもね、その人にしか見えない光景もある。それは、一緒にいたということや過ごした年月の思い出を、より深くいつまでも大切に思えることだったり。人生って、一生一緒にいたいと思っても、いられないよね。そういう思いの深い人たちに見える光景って、こういうことなんじゃないかなっていうところで、晴れる部分がある。
──記憶は薄まっていかないと、生きていくのがしんどくなってしまうから、人間にはそういう防衛本能があると聞きますし。
TOSHI-LOW:うん、あるんだと思う。ただ、亡くしたばかりの人に、そんなことを言ってもわからないと思うし。たとえば、今、東日本大震災でご家族を亡くした友人にこの話をするとわかってくれると思うけど、能登に行ってこの話をしてもまだわかってくれないかもしれない。掛ける言葉がない時ってあるんだよ。そういう時にどうするかというと、隣にいるだけでいい。ずっと話を聞いて、もらい泣きする。わかると言ったらおこがましいけど、その痛みの欠片ぐらいは感じれるから。瓦礫を片付けることぐらいしかできないけど、たぶん歌にして自分もそれを乗り越えてきたんだと思うし。
──「SURVIVOR’S GUILT」はやっぱりこのアルバムの真ん中に位置する意味のある曲だと思いました。
TOSHI-LOW:そうなのかな。だったら良かった。
──『viraha』は、そうしたBRAHMANの痛みが込められた作品だと思います。6曲目「Slow Dance」は3年前のコロナ禍に発表された曲で。
TOSHI-LOW:この曲は、自分たち自身が面白い曲だと思ってる。ノリが民族音楽的だとはいえ、その中でも和モノを感じるダンサブルな曲って新しくて。自分たちがそういうリズムを欲してる時期だったんだと思っているから、必然的であり必要な曲だった。
──この曲を作った当時と状況は変わってきていますが、曲に対する思いに変化はありますか?
TOSHI-LOW:なんにも変わってないよ。その時に起きたことの本質を歌っていれば、ガワが変わっても時間が経っても通じることだと思っているから。100年に一回の疫病の時に、いろんな情報が交錯して。“あれやっちゃダメ、これやっちゃダメ”みたいな世界の中で、どうやって生き抜くかっていうことは今も思っているし。今はその禁止がなくなっただけで、いくらでも同じようなことは起こり得ると思ってるから。「踊るな」と言われたら踊らないのか、それとも、じゃあこうやって踊ろうと思うのか。俺たちは、一生どこまでもパンクスなんでね。
──パンクスらしさが現れるのが、モーターヘッドの「Ace Of Spades」のカバー。BRAHMANならではのスラッシュ感が刺さります。こうした王道ロックのカバーをやるのは珍しいですよね。
TOSHI-LOW:カバーは「満月の夕」とか「Jesus Was a Cross Maker」とかあるし、毎回アルバムに1曲は入れてるけど。「Ace Of Spades」は、去年の<フジロック>で池畑潤二(池畑潤二率いるフジロック限定バンド“Route17 ROCK’N’ROLL ORCHESTRA”)に歌わされて。モーターヘッドは全然嫌いじゃないし、むしろ好きなんだけど、どハマりしたことがなかったんだよ。<フジロック>とかで見て“カッケー!”と思ったけど、歌詞を自分で訳すまで好きか、というとそうでもなくて。でも歌うから、ちゃんと覚えるように訳しながら英詞を見てたら、“なんてカッコいいんだろう。こういう生き方したいな”って改めて惚れてしまって。レミー、カッコいいなって、本当にそれだけ。
──そういう選曲理由だったんですね。
TOSHI-LOW:みんなが知ってる名曲みたいのはあんまりカバーしないタイプだけど、それももはやいいかなと。だってこの曲はイカレてるんだもん、人生が。こんなにイカれた曲を普通にカバーしても、全然イカれない。じゃあ、イカれた曲をもっとイカれさせるにはどうしたらいいか。ただリズムを変えたり速くしても、全然イカれた感じって出ないんだよ。
──和リズムを取り入れた後半は、そういう意図から?
TOSHI-LOW:そう。だから、そういうアレンジにしたんだよ。聴いた人が、後半のアレンジをどう捉えてくれるか。もしかしたらモーターヘッドのファンから怒られるかもしれない。でも、そこが俺たちのポイントでもあって、やってる分には気持ちいい。イカれてるのに、もっとイカれエキスを出してるんで。


──8曲目の「知らぬ存ぜぬ」は一転、BRAHMANらしい緊張感のあるギターリフで始まり、“見て見ぬふりをしない”というような言葉を選び抜いた歌詞が伝わります。
TOSHI-LOW:曲に対する歌詞の重みがないと、成り立たない曲だから。
──孔子の言葉を引用していますね。
TOSHI-LOW:老子だね。会社経営者とかに論語を読んでる人って多いよね。それって、人間の社会心理学的に言いえて妙なことを全部言ってるからで。何千年も前から人間は変わってないんだよ。改めて凄いなと思うよ。たとえば、中国の古典とかを読むと、3千年ぐらい前から“役人はバカ”と書いてある。“民のためには働かない。偉い人と国民とで、見てる方向が違う”って。その通りだと思う。それこそ何千年も人間は変わってない。
──「最後の少年」は、自分の中の少年性と大人になっていくことへの葛藤でしょうか?
TOSHI-LOW:自分の中の少年性じゃないけどね。自分の中の少年性は、もはやあまり見えないけど、少年性がわかるってことが、自分の中に少年性があるってことなんだよ。
──少年という言葉を使ったのは?
TOSHI-LOW:“少年”とかそういう言葉を今まで使ったことがなかったから、最初はすごく恥ずかしくて、どうしようかな?と思ったんだけど、あえていいんじゃないかなって。自分の中の殻を一つ破ってるというか。皆さんが使ってる言葉を俺は意外に使ってなかったりするから、あえて使ってみようと。だからこういうのこそ、ダサいとかダサくないとか、どっちでもよくて。ダサいタイトルだなって思われてもいいというか。時代が違えば自分でも“こんなタイトルつけねえよ”となったと思うし。
──G-FREAK FACTORYの茂木洋晃さんが「最後の少年」のコーラスに参加してるんですね。
TOSHI-LOW:デモを作ってる時に、コーラスは俺じゃない人がいいなと思って。浮かんだのが茂木だった。そういう時の直感はたいてい当たるから、直ぐに連絡して、「3日後に来て」みたいな。“少年”って歌ってるところは、茂木の声なんだよ。






