【ライブレポート】上杉昇「日本人の強さを見せてやりましょう」

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2020年、新型コロナの影響を特に被ったのがエンタメ業界。今なお多くのアーティストが活動を制限されているが、上杉昇も2019年末の下北沢GARDEN以来9か月もの間、有観客ライブができない状況だった。延期→再延期となっていたバンド編成でのツアー開催を2021年にすべて延期し、代わりにアコースティックツアーを8~9月に横浜、神戸、大阪で行ない、2020年10〜12月には全6本の<[ACT AGAINST COVID-19]SHOW WESUGI ACOUSTIC TOUR 2020 防空壕 #2>を敢行した。同ツアーの後半戦一本目となる12月4日、赤羽ReNY alphaの模様をレポートしたい。

セットリストは8〜9月のアコースティックツアーと近いものだが、演奏が始まってすぐに、その表現がより深化しているのがはっきりと感じられる。1曲の中に大きな感情の振り幅を持つ「消滅」での細やかな歌唱にも心が揺さぶられたし、続く3曲「青き前夜」「赤い花咲く頃には」「Survivor's Guilt」ではアルバム『The Mortal』の唯一無二な世界観に瞬間移動したような感覚をおぼえた。上杉の声のニュアンスと、そこに絡んでいく森美夏のピアノ、平田崇のギターのあうんの呼吸が、何とも言えない味わいを生んでいるのだ。単なる歌のバック、伴奏という関係性ではなく、全員がそれぞれの音を聴きながら合わせていく感じというか、この3人だからこその息の合ったグルーヴがある。

続いてal.ni.co時代の曲を2曲。3rdシングル「カナリア」(1999年リリース)の3曲目に路上での一発録りで収録されていた「あした」に2番の歌詞を書き加えた「明日」と、2ndシングル「晴れた終わり」。

「ストリートミュージシャンみたいに外で演奏したらカッコいいじゃんって柴崎と相談して、深夜の渋谷にギターとDATを持ち出して“せーの”で一発録りした演奏だったんですけど、こんなことを唄ってたなあって久しぶりに思い出して。今だったらどう書いただろうって、あの曲に新たに詞を書き加えました」

約20年前に発表されていた1番の歌詞では、目まぐるしい日々に忙殺されて、いつの間にか志や矜持を忘れかけていた…というような思いが唄われているのだが、今回追加された歌詞には“欲に目がくらみ 情熱は握りつぶし 何を手に”と、己に嘘をつくような生き方に疑問を呈する言葉が聴き取れた。また、“過去が今となり 今が未来へ”という、長く活動してきたアーティストだからこそ書ける言葉も。過去にやってきたことが今の自分を作っている、今やっていることが未来の自分を作るという紛れもない事実。しかしそれは、過去は変えられないけれど、未来は今からいくらでも変えられるんだというポジティブなメッセージにも感じられた。誇れる自分であるために、今をどう生きるか、と。


中盤からはカバー曲の連続だ。サウンド・ガーデンのボーカリストだったクリス・コーネルの楽曲に上杉自身の解釈による日本語詞をつけた「The Promise」、森田童子の「たとえばぼくが死んだら」、中島みゆきの「吹雪」と、最近のシングルのカップリング3曲を演奏した後には、中島みゆきの「誰のせいでもない雨が」を披露。これは8〜9月のアコースティックツアーで演奏された「ばいばいどくおぶざべい」と同じく、彼女の名盤『予感』(1983年リリース)に収録されている楽曲。リスナーの心境によって如何様にも解釈できる、不思議な多面性をもった作品である。

「コロナ禍で三密ってありましたよね。この歌を、今年のそんな感じとか自分の感じに置き換えて聴くと、すごく癒やされるなと思ったんです」

“誰のせいでもない雨が降っている、しかたのない雨が降っている”……。30年以上前のリリース当時には、もちろんコロナ禍など想定しないで作られた楽曲だが、まさに2020年の現状に当てはめて聴くと、妙に腑に落ちる気がした。

「中島みゆきさんと、同じように敬愛するシンガーソングライター」と紹介した小田和正の「東京の空」。そして「この曲は本当に難しいので気合い入れていいですか」と演奏前にストレッチをして気迫のこもった素晴らしい歌を聴かせた「防人の詩」。「フォークの神様と言われている方なんですけど、彼の歌を聴くと気高さとか神々しさを感じます」と紹介した岡林信康の「友よ」、そして長渕剛の「昭和」でカバー曲パートは終了。中でも特に印象に残ったのは後半3曲の流れで、もともと「防人の詩」は日露戦争を描いた映画「二百三高地」の主題歌として、さだまさしが反戦の意を込めて書き下ろした楽曲。そして、反体制や学生運動の象徴歌といわれた岡林信康の「友よ」に、大東亜戦争を含む激動の時代の終わりを歌った「昭和」……まるで日本の近代史を見ているような気持ちにさせられたパートだった。続くMCで上杉は歴史を振り返りつつ、オーディエンスにこう語りかけた。

「昨年は、今年こんなことになるとは夢にも思ってなくて。俺が以前出演させてもらったライブハウスで閉店したところもあるし、世界的にも非常に厳しい状況にあるのかなと思います。でも、我々は昔から強い民族でありました。いくつもの災害を乗り越え、戦争の焼け野原から世界有数の経済大国になりました。日本人はコロナにくじけるような弱い民族ではないし、絶対に一緒に乗り越えていきましょう。人間、疲れてくると、人が恋しくなりますよね。優しい声をかけてくれる人とか、安心を与えてくれる人とか。次の曲は、精神的に疲れてくると、こういう曲が聴きたいかなっていうのを思い描きながら作った曲で。今の俺なりの、ちょっと古風なラブソングかなと思ってます。癒やされて欲しいなと思って作った歌です」


そんな曲紹介で演奏されたのは、12月23日リリースのシングル「濫觴(らんしょう)」。上杉の言葉通り、不安な心にそっと寄り添ってくれるような温もりと力強さをもった楽曲だ。濫觴とは「物事の始まり・起源」を意味する言葉だが、最新曲が“新たなものを生み出す、次の時代に命を繋げていく”という内容なこともあって、この日のライブ全体からはとても前向きな印象を受けた。“人は死ぬ”という悲しい事実に正面から向き合った楽曲「消滅」からスタートしたライブだが、戦争や混乱といった人間同士の諍い、悩み、苦しみなどの紆余曲折を経たとしても、やるべき事に粛々と取り組んでいれば、やがて新しい時代は必ずやってくるのだという希望のようなものが感じられたからだ。

アンコールで3人が再び登場すると、ギタリストの平田崇から「今日は上杉さんのデビュー29周年です。おめでとうございます」とお祝いの言葉が伝えられ、観客からも大きな拍手が贈られた。2と9のバルーンを手に、客席をバックにした記念撮影も。

「今年は皆さん大変でしたよね。でも、みんなで力を合わせればなんとかなるような気がします。日本人の強さを見せてやりましょうよ」という、言霊のようなMCに導かれて最後に演奏されたのは、ツアータイトルでもある「防空壕」。アウトロのかき回し部分ではフロアに片膝をついてハイトーンシャウトを見事に決め、歌のエネルギーを存分に届けてくれた上杉だった。


19日に開催された名古屋SPADE BOXでのツアー・ファイナル終演後には、約2年半振りとなるオリジナル・アルバム『Dignity』のリリースと、2021年2月20日から5月2日まで続く『SHOW WESUGI HEAVY TOUR 2021 Dignity』の開催が発表された。WANDSのボーカリストとしてのデビューから30周年となる2021年12月4日に向け、どうやら彼のこれからの動きは様々なたくらみに溢れているようだ。

文◎舟見佳子
撮影◎朝岡英輔

『SHOW WESUGI HEAVY TOUR 2021 Dignity』+『上杉昇 2020 第2弾DISC爆音試聴トークライブ+先行販売+サイン会』
2021年2月20日(土)新潟・GOLDEN PIGS RED STAGE【LIVE】
2021年2月21日(日)群馬・高崎SLOW TIME café【Talk】
2021年3月6日(土)群馬・高崎club FLEEZ【LIVE】
2021年3月7日(日)長野・Rosebery Cafe【Talk】
2021年3月13日(土)静岡・浜松FORCE【LIVE】
2021年3月14日(日)静岡・LIVEHOUSE UHU【Talk】
2021年4月3日(土)福岡・博多Voodoo lounge【LIVE】
2021年4月4日(土)佐賀・RAG.G【Talk】
2021年4月10日(土)広島・BACK BEAT【LIVE】
2021年4月11日(日)岡山・城下公会堂【Talk】
2021年4月17日(土)京都・Second rooms【Talk】
2021年4月18日(日)大阪・バナナホール【LIVE】
2021年4月25日(日)東京・恵比寿リキッドルーム【LIVE】
2021年5月2日(日)北海道・札幌SUSUKINO810【LIVE】
2021年5月3日(月祝)北海道・函館あうん堂ホール【Talk】
2021年5月7日(金)愛知・名古屋SPADE BOX【Talk】
2021年5月9日(日)三重・松阪ROCKERS CLUB【Talk】
INFORMATION:http://wesugi.net
[問]ネクストロード 03-5114-7444(平日14:00〜18:00)


NEW SINGLE「濫觴(らんしょう)」
2020年12月23日発売
OPCD-1203 ¥1,300(Tax in)
1.濫觴
2.防人の詩 -Recorded Live At YOKOHAMA O-SITE. Kanagawa on August 30.2020

NEW ALBUM『Dignity』
2021年2月20日よりライブ&イベント会場にて先行発売
2021年5月全国発売予定
※先行シングル「火山灰」「防空壕」「カワラコジキ」「消滅」「濫觴」を含むオリジナル・ニュー・アルバム。

◆上杉昇オフィシャルサイト
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