ヒップホップ特集2004夏 Outkast、Missy、N.E.R.D インタヴュー&ライヴレポ

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今年の5月の下旬は、日本の洋楽界、ことR&B/ヒップホップのファンにとってはまさに“奇跡”とも呼ぶべき、夢のような時間だった。ミッシー・エリオット、アウトキャスそしてN.E.R.D.。今最も旬で先進的なサウンドを繰り出す彼らのような存在がこんなに短期間に身近に体験できるということは、今後もそうあることではない。僕の胸は高まらずにはいられなかった。

Missy Elliott
2004/05/20 @Zepp Tokyo
その“黄金の1週間”の先頭を飾ったのはミッシー・エリオット。ずんぐりむっくりの巨体をユーモラスに動かす、現在のヒップホップ界の女番長。奇声のようなラップに、最新テクノロジーと野性味溢れる原始的なビートが混在したアヴァンギャルドなリズムに摩訶不思議なユーモアのセンス炸裂のPV……。だが、そこまですごいミッシーでも一点だけ疑問だったのが、彼女がライヴをほとんどやって来なかったこと。「太ってて、長時間動けないから?」。そんな冗談を言う者はいたものだが、それにしても不思議だったものだ。そして、その理由はこの日なんとなくわかった。

ショウ・アップ自体は華やかで見事だった。ステージには、彼女の代表曲のPVやオリジナルの映像が終始流れ、バックダンサーは高度な運動技量と緻密なチームプレーで見る者を圧倒。さらにはアリーヤRUN D.M.C.のジャム・マスター・ジェイ、TLCのレフトアイなど、ここ数年で他界したR&B/ヒップホップ界のスターをトリビュ―ト。見せ場は確実に作ってはいた。だが、肝心な“音楽”で、CDやPVを堪能している時のような満足感や高揚感が得られなかった。バック・トラックはDJからただ垂れ流されるのみで、ミッシーのラップ自体もCDで耳にするよりは脆弱な感が否めない。

選曲的には「ゲッチュア・フリーク・オン」「レイン」「ワーク・イット」「パス・ザット・ダッチ」といった代表曲は網羅できていてうれしくはあったものの、何かが物足りない。そんなもどかしい気分にダメを押したのがスタート40分後。ミッシーはファン・サービスとばかりに客席に降り、詰め掛けたBガールたち(この日はホント多かった!)を一瞬沸せたが、ステージに戻って「これかもうひと盛り上がり!」と思いきや、ミッシーはそのままステージの袖に去りショウは終了。当然、客はアンコールがあると思って煽り続けたが、ミッシーが再び現われて来ることはなかった……。CDやPVにおける圧倒的なオーラをステージで表現する方法をミッシーはまだ見出してないようだ。

Outkast
2004/05/25 @STUDIO COAST

そして第2弾はアウトキャスト。金字塔的名作『スピーカーボックス~ザ・ラヴ・ビロウ』が昨年度の世界中の音楽雑誌の年間ベスト作に選ばれ、グラミー賞の最優秀アルバム賞を受賞。さらにはシングル「ヘイ・ヤ!」「ザ・ウェイ・ユー・ムーヴ」が全米シングル・チャートの1、2位を独占。一躍時代の寵児となった彼らだが、今回の来日公演は残念ながら「ヘイ・ヤ!」を歌ったアンドレ3000の参加はなく、ビッグ・ボーイのみのライヴとなった。「どうせ一人だから、ライヴも通常よりは……」。そう思う人は多かったためか、客の入りも世界のトップスターを迎え入れているとはとても思えないほどに少なかった。しかし、そんなリスナーをナメたような態度は当のビッグ・ボーイには一切なかった。ステージに登場したのはなんとフル・バンド! ダンサーもラッパーも「ザ・ウェイ・ユー・ムーヴ」のゲスト・シンガーのスリーピー・ブラウンまでちゃんといる! それだけでも十分に気合いは感じられたが、それ以上に驚愕だったのは、ビッグ・ボーイのラッパーとしての実力だ!
まあ~、これが上手いのなんの! 息を一切つかずにスピーディにかつスムースに言葉を操るテクニックに、バックの割れんばかりの出音を圧倒するほどの貫禄に溢れた声量。日本人に英語でのラップの上手い下手はなかなか分からないものだが、ビッグ・ボーイのスキルには言葉の壁を超えた圧倒的な説得力がある。僕がこれまで見て来た中で、ここまでのラッパーははじめて見た。最近のアウトキャストと言うと、かつてのプリンスを彷彿させるアンドレのナルシスティックでユーモラスな言動や、ヒップホップを超越したボーダーレスな音楽性ばかりが取り沙汰されがちだったが、そうじゃない。彼らはまず、“ヒップホッパー”として誰よりも優秀で、その上でそれを超越する試みを行なっていたのだ。そして、その下地を支えていた張本人こそ、一見地味に見えていたビッグ・ボーイだったのだ。目からウロコが落ちまくった。

加えて選曲もほぼベストな状態。「ザ・ウェイ・ユー・ムーヴ」はもちろん「ミズ・ジャクソン」「ソー・フレッシュ、ソー・クリーン」「プレイヤーズ・ボール」(デビュー曲!)などの代表曲を惜しみなく披露。最後は超高速ナンバー「ゲットーミュージック」と「B.O.B」でこれでもかと畳み掛けて終了。フロアは少人数ながら最高潮にアゲアゲ状態であった。高を括ってこれを体験し損なった人、これはあまりにも惜し過ぎる!

N.E.R.D
2004/05/26 @Zepp Tokyo

そして最後に登場はN.E.R.D.。ブリトニーネリーのプロデューサーとして知られるネプチューンズのロック・アプローチのサイド・プロジェクトで、近年はiPodのCMソングや裏原宿のファッション・カリスマ、NIGOとのコラボレーションなどにより人気を急上昇させているところだ。昨年に続き2度目の来日公演となった彼らだが、フロントマンとして人気者になりつつあるファレル・ウイリアムスこそ来たものの、今回も相棒のチャド・ヒューゴは参加せず。結局、今回も前回と同様、N.E.R.D.のもう一人のメンバー、シェイと、白人ロック・バンドのスパイモブを伴っての来日。そう言う意味では元来変わり映えはなかったのかもしれない。だが、いざフタを開けてみると、彼らから放たれるテンションが昨年のショウと全く別物! とにかくZepp Tokyoに詰めかけた客のテンションが高いのだ。最新作『フライ・オア・ダイ』もかなりロック色濃厚な作品だったが、ロックファン主体に詰め掛けた会場は、タテノリ・ジャンプの雨あられ! アウトキャストのライヴにもロック・リスナーの姿を数多く目撃できたものだが、これは完全なるロック・コンサートだ。

そしてファレルにパフォーマーとしての自信が前より格段に感じられるようになってきた。以前は少しおぼつかなかった歌も声量・音程共にかなり安定してきた。そして加えて、ファレルの“色男”としての自信だ。以前からファレルは自分のことをイケメンだと自負していたものだが、しかし、そこにはいつも“なんちゃって”な空気が読み取れもした。

だが、「シー・ウォンツ・トゥ・ムーヴ」でステージに急遽上げられた日本人女性との濃厚なダンスの絡みは、セックス・シンボルとしてかなり堂々とした立ち姿だった。そしてアンコールでは、サプライズ・ゲストがステージに登場。それが最新作でも印象的な参加をしているポップパンク・バンド、グッド・シャーロットのベンジーとジョエルのツイン・ブラザー。それだけでも会場はかなり湧いたが、器用な日本語でMCをやるものだから会場はさらに煽られることとなった。そして「ジャンプ」で夢の共演を果たした後、最後はいつのまにかステージにいたNIGOやファレルたちが連れて来た友人たちが大挙ステージにあがり「ロック・スター」で大団円となって宴は幕を閉じた。

'00年代を代表する3組の黒人クリエイターの実に対照的なライヴの連続。内容に各々格差が大きくはあったものの、このバラエティこそが今のR&Bシーンを活性化させていることを確認できた意味では本当に貴重だったと思う。ただ、せっかくなら、一気にまとめてイベント形式でやるなり、それぞれの価格を抑えるなどして、多くの人が一気に楽しめる感じにできれば言うことはないのだが。

取材・文●沢田太陽



ミッシー・エリオット
『ディス・イズ・ノット・ア・テスト!』



アウトキャスト
『スピーカーボックス~ザ・ラヴ・ビロウ』



N.E.R.D
『フライ・オア・ダイ』

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