アルバム『ユグドラシル』ロング・インタヴュー2
「純粋に“音楽”として接続ができる、 人間が本能でとった行動そのもののようなアルバム」 |
つまり、『ユグドラシル』は2方向への深化を感じさせるのだ。その根源とは、つまり、自分がつかみたいものを獲得するために、いわゆる社会的規範やモラルから飛び出し、自分を再生させる冒険心そのものだ。 シングル「ロストマン」を筆頭に、本作にはそのようなナンバーがたくさん収録されている。バンプにとって初の日本語詞ナンバーにして代表曲「ガラスのブルース」ができたときのことを振り返ってもらった。 藤原: 高校を辞めたときに、自分と向き合ういい機会になったんじゃないでしょうか。社会のレールを外れたら、生きるか死ぬかってことまで考えたんで。そういう行動をとるかどうかは別として生きていていいのか、死ぬべきなのか、それとも生きてるべきなのかっていうことを数学みたいに考えてた時期なんで。だから、ああいう曲ができたことは必然だと思います。 ――例えば、同じくインディーズ時代のナンバー「アルエ」を最近再リリースしたりしましたが、心に包帯をまいた人を、藤原さんは、一貫して、あえて招きいれますよね。 藤原: そうですね。人によっては迷惑かもしれないですね。それは傷痕および傷を見るって作業ですからね。せっかく包帯をまいたんだから、とらないでくれって思う人もいるかもしれないですよね。 ――やっぱり、そこに触れるっていう直接的なコミュニケーションの衝動は、このアルバムでさらに強くなってるように感じますね。 藤原: でも、触ったときのぬくもりだとか、傷に触ったときの痛みだとか、そういう触覚がぼくは一番信頼できます。ぼくは繋がるにはそれしかないと思ってるんです。 ――最後に、この『ユグドラシル』はメンバーにとって、どんな存在になるでしょうか? 藤原: レコーディングが終わって、自分でアルバム聴いて、どういう感想を持つかなんてことに興味がもてないでいますね。もちろん、自分らから出てきた曲だし、自分らの演奏で鳴ってるんですけど、感想をもつことからほど遠いっていうか。純粋に“音楽”として接続ができるっていうか。というのは、メンバー個々がなにかを主張したわけでなく、曲が呼んだフレーズがなにかを主張してるって言い方が正しいと思うんですね。個人のエゴとかじゃなくてね。誤解を恐れずに言えば、やってる本人としては機械的で無表情な部分もあったんですけど、それが曲になったときにはすごく表情豊かに響くっていう。だから、曲を機能させるためのメンバー個々の歯車としての位置が明確になってきたっていうのはありますけど、ぼくらとしては大層なことをやったつもりはあまりないんですね。ほんとに呼吸の延長というか。こっけいな言い方をすれば、虫に刺されてかゆいとか、そういうことだと思うんですよね(笑)。ほんとに、人間が本能でとった行動そのもののようなアルバムですね。 藤原は「運命に抵抗したってしょうがないんですよ。どうしようもないんですよ。そういう俺が「sailing day」で運命に抵抗って歌詞を書いてるんですよ。だって、そのほうが楽しいじゃないですか。あがきましょうよ」とぼくに語ってくれたことがあった。 まさに、いつか死ぬ運命への抵抗に打って出る本能を炊きつけるアルバム、それが『ユグドラシル』だ。 取材・文●其田尚也 |
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