比嘉栄昇 独占インタヴュー

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──これもその密室の中で?

比嘉:アルバムの製作中は、7時ごろまで曲作りやって、それから子供と飯を食って幼稚園に送って、そしてオレは寝るっていう生活だったんです。あるとき、カミさんがお弁当を作っているのを見ていたんですが、何かが違うと思ったんです。何が違うのか具体的なことはないんですが、“あれっ?”と思って。それで、その日が幼稚園で最後のお弁当の日だったことに気づいたんです。そしたら妙になんか切なくなって。それでできた曲です。だから、カミさんには恥ずかしくって聞かせられなかった。

──結局、奥さんはいつ聴いたんですか?

比嘉:アルバムがほとんど出来上がってからですね。テーブルの上に置いておきました。向こうもなにか感づいたんでしょうね。オレが寝ている間に、ヘッドホンで聴いてましたよ。

──3曲目は「宝石箱」。短いけど素晴らしいメッセージが込められていますね。作詞・作曲は、さこ大介さん。

比嘉:10年以上前に「憂歌団と仲間たち」みたいなテレビ番組があって、原田芳雄さん、友部正人さん、高田渡さん、桑名正博さんなんかが酒を飲みながら話すっていう番組で。その時に大介さんに会ったんです。それから飲み友達として付き合い始めて、朝まで良く飲みました。大介さんはディープな歌をいろいろ作っていますが、その中に大介さんらしくないキレイなタイトルのこの曲があって、“この曲はBEGINに合っているから歌ってみないか”と言ってくれたんです。でも20代半ばの僕たちには歌えなかった。やっぱり、その年代では歌えない歌っていうのがあるんですね。で、ずっと良い歌だと思ってて、今回この歌を入れようと思ったんです。アルバム制作の後半くらいに、自分が書いたメロディと歌詞ばかりだと欲張りすぎて、空気が澱んで風通しが悪いと感じたんですね。自分の気持ちだけだと、重い気持ちはよどんでしまうんですね。それでこの曲を入れてみたら、空気の流れがよくなるんじゃないかなと。でもこの曲を思い出したということは、いま歌うべき曲だったんだろうなと思いましたね。

──4曲目が「ティダナダ」。太陽の涙という意味ですね。沖縄本島での限定シングルになっています。

比嘉:この“ティダナダ”という言葉は4年くらい前からオレの中にあったんです。ちょうど「涙そうそう」とか、夏川りみとかも歌ってくれて広まっていったとき。戦争で悲しい思いをしてそれを乗り越えてきた先人の方々は、どんな思いなんだろうって考えたときに、戦争のことだけに限らず、人間が生きていくうえで泣けないことってあるんだと思ったんです。また、自分の家族のためにも泣くことができないで、ただひたすら身体を動かして仕事をして苦しみから逃れるという方法をみんながしているんだと考えたんです。「涙そうそう」が広まっていくにつれて、“涙そうそう”でいいのかな? 涙を流して良いんだよって言っていいのかな?っていう疑問が出てきたんですね。もう一歩先に踏み込むと、泣けない涙もあるんだなって。それを歌にしなきゃって思ったんです。

──それが太陽の涙“ティダナダ”なんですね。

比嘉:これはオレの造語なんですけど、そういうのが太陽の涙なんだなぁと思った。一緒に出てきたメロディが暗かったんで、“歌いたくないな、BEGINには合わないな”というのがあって、ちょっと心の隅っこに置いておいたんです。曲を作るときって、最初から最後まで作るんです。ちょこっとメモしておいたり、テレコに入れておいたりとかしないんです。だから忘れたら忘れたでいい。でも、このティダナダはずっとあったんですね。だからこのタイミングで出したほうがいいのかなと思って。

──次は「とうさんか」。比嘉さんらしいブルースの匂いがいっぱいの曲です。

比嘉:迷ったんですよ。ギターを持つと、またここに行ってしまうのか! と。いかんいかんと思いながらも、「ティダナダ」や他の曲を同時進行で作っているときに、その合間に遊びで弾いてたんです。それがいつの間にか形を持ってきてしまって。他にも歌詞はいっぱいあったんですけど、そういうのを省いて、一人で文句たれてるような歌詞にしちゃいました。アルバムのタイトルを『とうさんか』にしようと決めてたので、この曲もそのテーマで作っていこうと思って。でも、この雰囲気からは逃れられなかったですね(笑)。

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