I've特集 I'veサウンド徹底検証 第一回

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I'veサウンド徹底検証 -第1回-

I've Sound:北海道が誇る音楽集団I've 1ヶ月連続特集

その1:リズムとテンポ

いまやアニメ、ゲームの世界を超え、幅広く人気を集めつつあるI'veサウンド。その人気の秘密はどこにあるのだろうか。それを探るために、今回から5回連続でI'veサウンドの中身をのぞいてみる。今回はその第一回目として、サウンドの土台に当たるリズムについて分析してみよう。

I'veサウンドといっても、色々なタイプやスタイルの曲がある。しかし真っ先に思い浮かぶのは、やはりスピーディで明るく、軽やかなイメージの曲だろう。そう感じるのは、もちろんアレンジや、シンセなど楽器の音色、それに当然ながらI'veの歌姫たちの歌声によるところも大きいのだが、ドラムやベースといったリズムセクションにも、そう感じさせる要素がたくさん含まれている。I'vがもともと、トランスというジャンルを主体に音楽を作ってきたことを考えると、それは当然ともいえることだ。4分音符を強調した太いリズム、スピード感を重視したアレンジ、そしてシンセを多用したサイバーな雰囲気。どれもトランスの手法に当てはまる。

最近ではI'veのサウンドもたいへん幅広くなり、強調したビートやサイバーな雰囲気は少し抑えられ、トランスというよりはどちらかといえば普通のポップソングに近い楽曲も多い。しかしそれでも、リズムの面から考えると、トランス的特徴が見て取れる。



・ベースとドラムに注目すると

I'veの作り出したさまざまな曲を、ドラムとベースに注目して聴いてみると、音数が多いように聴こえても、実はどの曲も非常にシンプルに作られていることがわかる。とくにベースは、ほとんどの音がコードのルート(伴奏の和音のメインとなる音程)で、リズムに関しても常にドラムと一体になって動いている。ベースのフレーズでヴォーカルラインに呼応したり、動いてアクセントを強調したりすることはまずない。さらに音色についても、川田まみの「radiance」やKOTOKOの「Chercher」のようにテクノっぽいシンセベースの音色でビートを跳ねさせていることもあるが、それ以外の多くの場合はいたって目立たず、まさに縁の下の力持ちに徹している。

ドラムについても、細かいフィルなどが随所に入れられていて音数は多めだが、基本はシンプルだ。ぶれたり横揺れしたりせず、シンプルにスピード感を追求するような8ビートが多い。そしてダンスミュージックやヒップホップによくある「シェイク」に近いパターンも多用している。KOTOKOの「ハヤテのごとく!」や「覚えてていいよ」で聴かれるアレだ。2拍/4拍のダウンビートをプッシュしながら、その合間の裏にあたる拍にもスネアドラムが入るこのパターンは、言葉どおりかき回すような雰囲気でビートに細かいうねりを与える。つまりこれは、4分音符を強く打ち出して縦ノリのリズムを強調し、合間を16分音符で細かく刻む、というトランスの定番のパターンを、歌モノの8ビートのポップソングにマッチするよううまく薄めたもの、と言えそうだ。


・スピード感とテンポ

こうしたリズムセクションの上に、やわらかい音色で包み込むようなシンセが乗っているのも、多くの曲で聴かれるパターンだ。ギターも、たとえばKOTOKOの「きれいな旋律」などにはメタリックなソロがあるものの、それ以外ではかなり控えめだ。つまり全体としては、明るくヌケのいい音色のドラムがリズムを強調し、それ以外は一体となって和音で包み込むという伴奏になっている。だからこそ、スピーディなリズムが目立ち、ヴォーカルが際立って聴こえてくるのだろう。

スピード感、疾走感があるだけでなく、実際に曲のテンポも速い。テンポを調べてみると、150bpm(150拍/分)、160bpmといった曲も少なくないし、KOTOKOの「覚えてていいよ」などは180bpmという速さだ。ゆったりしたミディアムテンポに聴こえる「きれいな旋律」などでも130bpm程度で、テンポについてもスピード感を重視して設定されていると考えられる。

一般的なトランスのサウンドでスピード感を追求すると、ビートが分厚くなってヴォーカルが負けてしまいそうだが、I'veの多くの曲は4分音符の合間を埋めすぎずに隙間を作っている。だからこそヴォーカルがきちんと前に出てくるし、テンポが速くても性急に聴こえず、きちんと歌を楽しめるのだろう。
 また、どの曲でもテンポの揺れはまったくなく、曲を通して均一なリズムを刻み続けている。基本的に打ち込みで作られているから当然なのだが、これもプラスに作用している。一般的に打ち込みのリズムは機械的で無機質だが、逆に言えばリズムセクションが感情に訴える余分なプレイをしていないということ。リスナーの耳はそれだけヴォーカルに集中して楽しむことができるのだ。

text by 田澤 仁

 

 


ループ系音楽制作ソフトのACIDでさまざまな曲のテンポを調べてみると、スピード感だけでなく、実際に曲のテンポもかなり速いことがわかった。KOTOKOの「覚えてていいよ」は180bpm近いハイスピードナンバーだった。
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