【音楽と映画の密接な関係 2001 Summer】『けものがれ、俺らの猿と』

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イマジネーションを自由に膨らませて見ると味わい深い一作

目の前に映る不思議なものをありのままに受け取って

けものがれ、俺らの猿と
(2000年日本)

▲主人公の佐志(永瀬正敏)はボロボロの廃屋に住む仕事がないしがない脚本家。仕事はとんとなく、家はもうボロボロで、不法投棄されたゴミや気色の悪い害虫で部屋はいっぱい。挙げ句の果てには義理の父でもある家主から家賃不払いを理由に退居を命じられ、住む所も金もないありさま。そんな彼に願ってもない絶好のチャンスが訪れる。自らを“映画プロデューサー”と名乗る謎の老人(小松方正)が「大ヒット間違いなし!」の映画の脚本を佐志に依頼する。この話に飛びつき、将来のバラ色の生活の皮算用まで計算してみるまではよかったが、ここから世にも不思議な悪夢のような出来事やシュールな人物が次々と佐志に襲い掛かっていき……。


2001年7月21日より、渋谷シネクイントにて公開!
●監督/須永秀明
●原作/町田 康
●音楽/會田茂一
●出演/永瀬正敏、鳥肌 実、降谷建志、車だん吉、ほか
●配給/メディア・スーツ
●上映時間/107分
Special Thanx to www.kemonogare.com

オリジナル・サウンドトラック

「けものがれ、俺らの猿と」オリジナル・サウンドトラック

TOCT-24589 2,500(tax in)
2001年5月30日発売

1NEPO~Music For Scum Of The People~
2変質者+人格者≦貴方/ロマン・ポルシェ。
3Push His Button
4b.b.c/54-71
5abdominal muscles
6つきぬけた/ゆらゆら帝国
7象魚
8徳利/FOE
9Truth Comes Dream
10君はだれなんだ
11The Prime Of Manhood
12ZAZENBEATS KEMONOSTYLE/NUMBER GIRL
13SNAKEFIRE(HYPER POPULATION)/PIACE PILL
14a memento
15燃える想い/bloodthirsty butchers
16ME AND MY Candle
17花/ASA-CHANG&巡礼


小説『へらへらぼっちゃん』『きれぎれ』などでお馴染みの芥川賞作家、町田 康であるが、彼は元はといえば'80年代初頭にサブカルな世界においてセンセーションを巻き起こした大阪の伝説のパンクバンド/INUの町田町蔵。

そうした点で、映画ファンでなくともロックファンなら、この町田ワールドの映画化は実に興味あるところだろう。執筆活動の方に重点を置きだして以降の彼の作品は、だらしない人間のつれづれな生活を描いたシュールなもので統一されているが、それは本作も同様。


▲鳥肌 実が演じる田島(左)。鬼気迫る様相は、鳥肌のパフォーマンスにも通じるところがある。
絵画でたとえるなら“抽象画”のようなこの作品を、ミュージック・ビデオという、きわめて短時間でのひらめきと強烈なインパクトで勝負してきた須永秀明が当たったというのは、組み合わせとしては間違っておらず、主演の売れっ子・永瀬正敏や、その右翼的な笑いと怖さスレスレの演劇で話題の人となっている鳥肌 実の初の映画出演に、Dragon Ashの降谷建志やムッシュかまやつのチョイ役出演など、キャスティングもインパクト重視で攻めているのも正しいとは思う。

ただ、ひとカットひとカットのインパクトを重視しすぎるがあまり、ストーリーのつながりが非常に見えにくく、ジャン・リュック・ゴダールあたりのヌーヴェルヴァーグであったり耽美派系の映画に不馴れな向きにはちょっと敷き居が高すぎるきらいはあるし、映画学校の生徒にありがちなちょっと内輪でないとわからないスノッブな雰囲気が強いのも正直否定はできない。


▲貧乏シナリオライター佐志(永瀬正敏)と、怪しい映画プロデューサー楮山(小松方正)。この映画監督さんじゃありません。

…とは言え、やはり映像美的には細密画のような緻密さがあり、鳥肌 実が怪演するシーンのバックに流れるNUMBER GIRLをはじめとしたクセの強い曲の数々が背中で這い捲る一匹の蠅のように見る者の気持ちをジリジリと高めていっているあたりはやはりうまいし、スクリーンで展開される出演者たちの謎の芝居の数々も寸劇としては単純に可笑しくもある。

要は物語のメッセージをあまり深く詮索しないことだ。

ストーリーを流れるままにとらえ、見ている人各々のイマジネーションを自由に膨らませて見るとなかなか味わい深いものがあるだろう。

つれづれに生きるこの映画の主人公同様、目の前に映る不思議なものをありのままに受け取って鑑賞してみよう!

文●沢田太陽

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