“ I ”の後には何がくる? SuGar吉永インタビュー

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“ I ”の後には何がくる? ......SuGar吉永インタビュー

「今度のアルバムは、きっと受け入れてくれるわ!」

最新アルバム

I
東芝EMI 2001年11月21日発売
TOCP-65914 ¥2,800(Tax in)

1 アイヴォリー
2 アイ・ノウ
3 アース・パンク・ロッカーズ
4 28 ナッツ
5 ヴォルカニック・ガール
6 ファイヴ・ミニッツ
7 ロボット・シングズ
8 I(アイ)
9 ムーグ・ストーン
10 ミラー・ボール
11 ロング、スロウ、ディスタンス
12 ディスコテーク・デュ・パラディ
13 ア・コンプリートリー・アイデンティカル・ドリーム
14 ステレオ・タイプ C (Bonus Track)



日本人は人マネばかりで、真の革新者はアメリカ人だけだという古い言い伝えがある。だが、そうした'60年代には自明とされていた言説に反して、日本人は長い間にわたってずっと技術革新を行なってきた。車やラジオといったアメリカの発明を取り入れては、それらを当初よりもはるかに優れたものへと改良してきたのである。それでも、彼らが音楽的革新の面でアメリカ人に拮抗するまでには時間がかかっていた。しかし最近になって、スロップ・ロッカーのZoobombs、エレクトロ・デュオのBoom Boom Satellites、ポップ・コラージュ作家Cornelius、そして東京のアートロック・トリオBuffalo Daughterといった日本人アーティストが、チープなイミテーションとインスピレーションに溢れたオリジナリティによってギャップを埋め始めている。

Buffalo DaughterのSuGar Yoshinagaは最新作『I』について、「よりヴォーカル的なものに関心があるってことを示したかった」と語る。「前回の『New Rock』では気にしてなかったし、なぜかわからないけど――今度のアルバムではハードロック・ギターとエレクトロニクスを入れて、それと同時に、自分たちのヴォーカルの可能性を試してみたかった。いくつかの曲は、確かヴォーカルを24トラックにダビングしたし、本当にポップなサウンドに挑戦した曲もあって、すごく楽しかった

『Shaggy Headdressers』『Captain Vapour Athletes』『New Rock』といったこれまでのアルバムでは、彼らが受けた影響があからさまに表現されていたのに対し、『I』は極めてユニークでパーソナルな作品に仕上がった。“Boston ミーツ Cocteau Twins”なみに舞い上がる「Volcanic Girl」では胸いっぱいにパワーポップをはらませ、
「Five Minutes」はシュールリアルなポップ・コンセプトを追求している。「Long, Slow Distance」やタイトル・トラック「I」では、いく層ものヴォーカル・ハーモニーが華麗に響く。最もチャーミングかつ困惑させられる作品「Robot Sings」は、好色なロボットが、まるでデート中の酔っぱらい高校生のように甘い歌を口ずさむ。返事は聞こえないが、ゼラチンがゴボゴボといっているようなサウンドは、粘液性のインテル・チップ同士の情交を暗示しているようでもある。

私たちにとって“Robot Sings”はかなりユニークな作品」とSuGarは説明する。「1台のロボットが別のロボットに歌いかけるの。もしロボットがFrank Sinatraみたいに歌ったり、ロボットがラヴソングを歌ったら、すごくキュートだろうなって考えて。ホンダのコマーシャルを見たことがある? 本物のロボットを作ったの、人の姿をしたね。そこから歌のインスピレーションをもらって――ホンダのロボットはメカニカルなところが全然なくて、ずっと人間っぽくてかわいいの。子供みたいに

アルバムは他にも、Legeti(現代クラシックの作曲家)のサンプル(「I」)がへヴィメタルの中を荒れ狂う「Earth Punk Rockers」や、ほとんどBrady Bunch風の「MirrorBall」、歪んだドラムループに揺らめくギター、マリンバが弾ける大げさな「A Completely Identical Dream」を収録している。

各メンバーが本当に多彩な音楽のフレーヴァーを持っている」とSuGarは説明する。「そういう異なるサウンドを1枚のアルバムでまとめ上げようとした。たとえば私はへヴィメタルが好きだし、Yumiko(Ohno、B/Vo)はクラシックが好きでクラシックピアノも弾くし。それにMoog(Yamamoto)はDJだから、鳥がさえずりあう本当に奇妙なレコードとか、その手の変なサウンドが大好きでね

そうした“変なサウンド”はアルバムのシンプルなタイトルとは裏腹だ。「本当にシンプルなタイトルにしたかった。『I』っていちばんシンプルな単語でしょ」とSuGar。「それに“I”の後にはいろんな動詞を置くことができる。“I walk”とか“I think”とか“I run”、それに“I know”とか。オーディエンスには、自分のフィーリングでタイトルの後ろを続けてほしい。みんながこのアルバムを聞いた後に、何かを感じてほしいから。つまり“I(空白)”ってこと

前作から3年が経過し、その間に数多くのツアーをこなしてきたBuffalo Daughterは、いまや歴史を持つバンドであり、人間的なドラマも少なからず経験した。「この3年間に50トラック以上録音したけど、どれがアルバムに合ってるのか決断できなかった。そのことで議論はしなかったけど、何か納得できなくて。あれより長くツアーを続けていたら、意見の一致をみるのはもっと難しくなっていたかもしれない。一緒にいることに疲れてちゃって、ブレイクが必要だった

そのブレイクが効を奏し、バンドはこれまでで最も満足のいくアルバムを完成させた。だがアメリカのオーディエンスは、これを受け入れてくれるだろうか? SuGarは前回の米ツアーの回想録から答えを導き出した。「私たちの全米ツアーは奇妙な経験だった。南部の古い教会や18輪の巨大トレイラーとか……あんなの日本にはないし。みんなとっても良くしてくれたけど、Buffalo Daughterのグルーピーはいなかったね。ポートランドでは熱烈に歓迎されて、クリーヴランドでは嫌われたの。彼らは、私たちみたいなタイプの音楽は受け入れないみたい。まだ慣れ親しんでいないのね。でも今度のアルバムでは、きっと受け入れてくれる!

By Ken Micallef/LAUNCH.com

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