『志庵』を語る

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ご存知、B'zのヴォーカリスト、稲葉浩志
彼のプライヴェート・スタジオ“志庵”で生まれた
音と言葉が詰め込まれた2ndソロアルバム『志庵』がリリースされた。
音楽文化ライター/佐伯明氏によるスペシャル・レヴューが到着!

スタートラインというか、ニュートラルなところに来れたと思う
NEW ALBUM

『志庵』

2002年10月9日発売
BMCV-8006 3,059(tax in)

1:O.NO.RE
2:LOVE LETTER
3:Touch
4:TRASH
5:Overture
6:GO
7:ファミレス午前3時
8:あなたを呼ぶ声は風にさらわれて
9:Here I am !!
10:炎
11:Seno de Revolution
12:とどきますように


後れ毛から滴る汗のように、あるいは瞼に溜まった涙のように、身近で愛すべき生楽器の音色。興味深い転調。メインとは別のヴォーカルラインに入るハーモニー。指先から産み落とされたとも形容できる温度を感じさせるリリック。そして、他の追随を許さぬ鍛え抜かれたヴォーカル・スキル。稲葉浩志の2ndソロアルバム『志庵』は、彼の独力と魅力をつぶさに聴くことのできる"圧倒作"となった。『志庵』は、アルバムで言うと『マグマ』以来だから、すでに5年半以上経っている。マキシシングル「遠くまで」が'98年12月だったので、そこからも3年半以上経っている。過去に『マグマ』という存在があったゆえ、ソロで音楽をやるときの方向性は彼の中で何となく固まっていたかのように思えるのだが、その点に関して、稲葉浩志はこう言う。

稲葉:

『マグマ』のときは“マグマ”っていうぐらいだったんで(笑)、もう噴き出すという作業に近かったかもしれないですけど。あれを経て、「遠くまで」も経て、ちょっとある意味スタートラインというか、ニュートラルなところには来れたと思うんです。僕の音楽性は何だろう?と考えたとき、基本的にはB'zで全部表現してるので、その中でふとしたときに“そうじゃない方向性”っていうのが自分の中でアイディアとして出てくるじゃないですか。そうしたときにやっぱり自分の傾向というか、そういうものを自分で確認はしますね。具体的には、アレンジの段階じゃないですかね。メロディとかを含めて。それもたぶん“アレンジの中で”っていうところだと思うんですけど、考えるとしたら。「これ足したい」とか「これは要らない」とかっていうことだと思うんだけど、単純に。そういうことは当然ありますよね。「あれは出して、これは引いて、あれもこれもガー!」ってやってきたものがB'zだから、それはそれですごい面白いというか、やっぱり個人じゃ真似できないところはあります(笑)。

私見では、B'zというのは、言わばヴォーカルとギターが対立概念にあるユニットであると思う。したがって、8小節や16小節ごとに入る“オブリガートのギターフレーズ”は半ば必然の形態なのである。しかしながら、「『志庵』でちょっとギターに目覚めた」という稲葉の弾くギターにはそうした箇所は、ない。もちろん、松本孝弘のようなギター・スキルがないという理由も一理あるだろうが、それだけではない、“一枚岩のような稲葉ソング”がはっきりとある、それも『マグマ』のときよりも明確にあるのが、『志庵』だという気がする。

最後になったけれども、アルバムタイトルは、稲葉宅にあるプライヴェート・スタジオの名前である。もともとは、そのスタジオ・スペースの横にあった和室に付けられた名前であった。

稲葉:

精神的な意味合いのほうが多いかもしれないですね、タイトルは。お茶室みたいな名前つけたかったから(笑)。でも前からついてた。志庵って自分で書いて部屋に貼って(笑)。まあ、なごめるし、モノを創ったりすることで自分もちょっと浄化されるところもあるし…。そういう意味での部屋かな。僕の音楽なり何なり、モノを生み出す最初の場所というか、そんな感じもありますよね。

文●佐伯 明

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