【BARKS編集部レビュー】“世界で一番音がいい音楽プレイヤー”を手にして、丸一日が経過した

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2月21日、発売とともにAstell&Kern AK240をゲットした。既に第一弾入荷分は全て売り切れで、次回入荷待ちだという。ハードウエアを発売日に手に入れるのはプレステやゲームボーイ、iPhoneあたりでも繰り返してきた行為だけど、大体において異様なテンションにまみれているので、レビューのためにはクールダウンが必要…なのだけど、それが全く出来ていない。手に入れた興奮よりも実際に音を聴いて高まった高揚感のほうがデカいからだ。様々な曲を様々なイヤホン/ヘッドホンで聴くに連れ、ウホー、ひゃっほーという新発見や、まじか~という音の良さに出くわす。

◆Astell&Kern AK240画像

▲Astell&Kern AK240を回りこむように角度を変えて撮影。どのような形状かお分かりいただけるだろうか。

▲左がAK240、右がAK120。

▲大きめのボックスに、専用革ケース、説明書、保証書、保護シート、USBケーブルが付属する。

未だ「非現実的な価格は論外」という理性も残っているのだけど、「この音楽体験ができるのであれば、いやいや許します、皆さんもどうにかして手にして欲しい」と言いたくなっている発揚感が抑えられない。念のため記しておくが、AK240はAstell&Kernが発売した音楽プレイヤーだ。単に音楽を聞くだけのポータブル・プレイヤーで直販価格285,000円(税込)という、は?という価格で登場した。この桁は誤植ではない。正直なところ、私も「仕事がら手にする責務がある」という何とも都合のいい言い訳がなければ、到底手を出せないアイテムである。

実際に手にしてみると、AK240の登場は世の中の必然だったのではないかとも思えてくる。AK240誕生へとつながるそもそもの源流は何かを辿ってみると、そこにあるのはiPodでもウォークマンでもなく、iPhoneにぶちあたる。最大のポイントは音楽そのものの入手機能(経路)を持っていることだ。そして音楽データそのものを持ち運べるストレージを持ち、音楽再生機能をもつ自己完結のオールインワン・システムであるということだ。

旧来、音楽はレコードやCDという物理パッケージの中に収められ、家庭の中でもリビングのような一等地にどんと鎮座していた。それがリッピングされ音楽そのものの保存場所がPCへと変わると、パッケージはいきなりお役目御免となり、邪魔者扱いのように押し入れの奥にしまわれてしまうようになった。青天のへきれきとでも言うべきか、パッケージにとっては一等地から邪魔者扱いへ転落するまさかの地殻変動である。

このパラダイムシフトは、音楽自体の楽しみ方やあり方をも変えていく。現在はPCオーディオが伸び盛りだが、PCが音楽の基地局になる…とは私には到底思えない。いずれ音楽はPC内ではなく全てスマホ内へ移動することは目に見えている。音楽入手からリスニングまでスマホだけで完結するからである。

ネット経由でいつでも視聴できる。サブスクリプションによる聴き放題が世界のスタンダードになりつつある。音楽は所有するのではなく共有するものへと、その価値観すらも変わっている。音楽に対する需要や求められるエンターテイメント性は今も昔も変わらず、むしろ世情が屈折するにつれ音楽の存在感は際立ってくる一方で、今を生きる世代にとって音楽を“所有する”必然性がなくなった以上、これまでの形態のままで音楽が売れなくなるのも当然のことだろう。

もちろん今は過渡期だが、音楽データは“所有”から“共有”へ完全移行し、クラウドからストリーミングで楽しむことになるだろう。現在はAK240は音楽を大量に保存できる大きなストレージを有しているが、未来のAK***にはストレージは消え、常時ネットワークにつながった状態になる。イヤホンやスピーカーなど出力先を自在に変えながら、AK***は最高音質で音楽をプレイバックするコントロールセンターになっているだろう。もちろん、スマホが持つ音楽関連機能とは雲泥のクオリティーで。AKシリーズは場所を問わず最高スペックの音楽を再生するシステムとして、かつてのピュアオーディオをも取り込む様子が容易に想像できる。

そういう意味で、現音楽プレイヤーにとってもネットワークへの接続とワイヤレス化は大基本であり、AK240がWi-Fi機能を持ちBluetoothに対応するのは当然のことだ。音楽とリスナーの間を掛け持つハードウエアがどうあるべきか、どの方向に進化をとげるべきなのか、ブレずに舵が切れているメーカーの筆頭がiriverであり、未来を見据えたその感度の高さこそが、AKシリーズのプロダクトを成功に導いている源流だと実感している。間違いなく次代を見据えていることが、この時代にAK240を打ち出してきたiriverから伝わってくる。事実、AK240は自分のPCに納められた音楽データにアクセスしワイヤレスでストリーミング再生する機能を有している。既に未来へのアプローチは始まっているのだ。

   ◆   ◆   ◆

実際にAK240を手にしてまず思うのは、現代建築のようなアシンメトリーのデザインが、非常によく考えられたものであるということだ。カッコいいかカッコ悪いかは個人の趣味嗜好によるけれど、もしAK100~AK120のデザインのままこの必要容積を確保したならば、AK120から軽く2回りは大きくなる。おそらくその時点でマヌケなほどでかく重い筐体のお出ましとなり、「あり得ない」と失笑を誘うことだろう。価格は今よりは抑えられたかもしれないが、これまでAKシリーズが育んできた“コンパクトでハイエンドサウンドを叩き出すスタイリッシュなステータス”は一瞬で失われる。AKシリーズであればこそ、実サイズに対し、いかにコンパクト感を創出し、実操作においても鈍重さを消し去るかが、AK240が解決しなければいけなかった重大なポイントだったのではないかと想像できる。

そういう観点からも、デザイン性と操作性を共に向上させながら、フロントの8割部分をTOP面とイメージ付けるこのデザインの完成度があまりに素晴らしい。「だまし絵のようなデザインですね」と奇をてらったようにも思わせながら、実のところ、本当に錯視効果を利用しコンパクトな印象を与えているのではないかとすら思えてしまう。最高品質を担保し、あらゆる観点からコンパクト化にチャレンジした世界でも稀有なプロダクトという点においても、大いに評価されるべき逸品だと思う。価格のダウンサイズには大失敗しているけれど…。

サウンドの素晴らしさに関しては、機会を改め記事にしたいと思っている。サウンドに関してこそ、冷静かつニュートラルな状態じゃないと意味が無いし、様々なイヤホンのサウンドを時間をもって確かめてもみたいからだ。現時点において感じるのは、AK240のサウンドはAK100/AK120とは方向性の違う肉感的で濃厚なサウンドであるということだ。そして、おそらく全ての面でAK240はAK120を上回っているとも思う。…というか比較にならないほどの圧倒的な違いを感じている。強いて言えば、AK240は味付けのはっきりした濃密で栄養価の高い食事のような充足感があり、それ故に、AK120のサウンドを聞くと、夏場に食べるそうめんのような爽快さを感じることができる。これを使い分けが可能とするか、イコライザーで簡単にそのニュアンスは再現可能な範囲と結論付けるかは難しいところだ。

地味に嬉しいのは、データベースをいちいち更新しなくても楽曲の出し入れを自動的に認識してくれることや、シャッフル精度が改善し、事実上本当のシャッフルになったこと。Wi-Fi経由で自動的にアップデート情報をアナウンスしてくれたり、AK120ではフル容量でパンパンだった音楽データが、あっさり内蔵メモリだけで入ってしまったり、フリックで曲を飛ばせたり音量調整が大画面によって楽になったり…と、好印象ポイントも多く発見した。

スペック詳細やハードウエア情報はオフィシャルサイトにてご確認をいただくとして、とにかく非日常極まる高額商品だが、奇をてらって作られた酔狂商品ではなく、コンセプトモデルにも似た崇高なプロダクトであることが分かった。だからこそのこの価格であり、簡単には手の出せない価格なのかもしれない。費用対効果をどう捉えるかは人それぞれだが、音楽に携わる者としてAK240を手にする投資対効果は決して悪くない。

text by BARKS編集長 烏丸哲也


◆Astell&Kern AK240オフィシャルサイト
◆BARKS カスタムIEM専門チャンネル
◆BARKSヘッドホン・チャンネル

BARKS編集長 烏丸レビュー(■イヤホン ●ヘッドホン ◆カスタムIEM ◇他)
◆1964 EARS V6-Stage(2014-02-17)
◆カナルワークスCW-L32V(2014-02-09)

◇EarPeace HD(2014-02-02)
◆Noble Audio Kaiser 10(2014-01-19)
◆Clear Tune Monitors CT-300Pro(2014-01-04)
◇KLIPSCH KMC1(2014-01-01)
■DUNU DN-1000(2013-12-30)

◆Ultimate Ears Reference Monitors(2013-12-16)
◆Ultimate Ears 11 Pro(2013-12-08)
◆earmo Tune5(2013-12-03)
●オーディオテクニカATH-OX7AMP(2013-11-23)
■音茶楽Donguri-欅(KEYAKI)(2013-11-17)

■オーディオテクニカ ATH-IM01~04(2013-10-27)
◇Astell&Kern AK10(2013-10-25)
●フィリップス Fidelio M1(2013-10-22)
◆earmo Tune4(2013-10-12)
◆Ultimate Ears Personal Reference Monitors(2013-10-05)

◆Sensaphonics 2XS(2013-09-30)
■Earsonics SM64(2013-09-23)
◆LIVEZONER41 LZ12(2013-09-15)
◆Ultimate Ears カスタムIEM全7機種(2013-09-08)
◆null audio Elpis(2013-09-03)

■FitEar Parterre(2013-08-25)
◆カナルワークスCW-L12(2013-08-17)
◆Livezoner41 LZ 4(2013-08-06)
■SHURE SE846(2013-08-02)
■オーリソニックスASG-2 with BassPort(2013-07-28)

■Hippo ProOne(2013-07-21)
◆カナルワークス CW-L51a(2013-07-13)
■EXS X10(2013-06-24)
■音茶楽Flat4シリーズ粋、楓、玄(2013-06-17)
◆LEAR LCM-1F(2013-06-10)

◇Ultimate Ears UEブーム(2013-05-28)
◇Stage93 93PC(2013-05-20)
●Meze Headphones(2013-05-08)
●Fischer Audio Jubilate(2013-04-29)
◇ORB JADE casa(2013-04-21)

◆lime ears LE3(2013-04-14)
◇雑誌「DigiFi 第10号」付録(2013-04-06)
●Ultimate Ears UE 9000、UE 6000、UE 4000(2013-04-01)
■開放型インナーイヤーイヤホンおススメ5モデル(2013-03-19)
◆LEAR LCM-5(2013-03-16)

●フィリップスFidelio L1(2013-02-25)
○スマホが与えた音楽リスニングのモラル変革(2013-02-17)
■Klipsch Image X7i(2013-02-04)
◆LEAR(2013-01-27)
◆カナルワークスCW-L05QD(2013-01-13)

◆earmo(2013-01-02)
◆Westone AC2(2012-12-25)
◇Stage93 93SPEC(2012-12-16)
●California Headphone Silverado、Laredo(2012-12-09)
■音茶楽Flat4-楓(2012-12-03)

◆Stage93 Stage 6(2012-11-26)
●GRADO SR60i(2012-11-19)
◇Astell&Kern AK100-32GB-BLK(2012-11-15)
●オーディオテクニカ ATH-WS99(2012-11-10)
■アトミック フロイドPowerJax+Remote(2012-10-29)

◇VORZUGE VorzAMPduo(2012-10-26)
●ファイナルオーディオデザイン heaven VI(2012-10-16)
●beyerdynamic T 90(2012-10-08)
●GRADO GS1000i(2012-09-30)
●SENNHEISER HD 700(2012-09-16)

◆ACS T1 Live!(2012-09-11)
●オーディオテクニカ ATH-AD2000 ATH-AD1000(2012-09-03)
●GRADO RS1i、SR325is、PS500(2012-08-20)
◆FitEar MH335DW(2012-08-15)
●DIESEL VEKTR(2012-08-07)

◆カナルワークスCW-L51 PSTS(2012-07-30)
●Fischer Audio FA-002W(2012-07-25)
●Pioneer SE-MJ591(2012-07-16)
■GRADO iGi(2012-07-12)
●HiFiMAN HM-400(2012-06-26)

●Klipsch Reference One(2012-06-17)
●GRADO PS1000(2012-06-09)
●ULTRASONE edition 8(2012-06-02)
●PHONON SMB-02(2012-05-28)
■音茶楽Flat4-粋(SUI)(2012-05-20)

●<春のヘッドフォン祭2012>、Fischer Audio FA-004(2012-05-13)
◇Hippo Cricri、Go Vibe Martini+、VestAmp+(2012-05-04)
■ファイナルオーディオデザインheaven IV(2012-04-28)
■フィッシャー・オーディオ Jazz (2012-04-22)
●SHURE SRH1840 & SRH1440(2012-04-16)

■FitEar TO GO! 334(2012-04-08)
◆Unique Melody Mage(2012-03-26)
●Takstar PRO 80、HI 2050、TS-671(2012-03-20)
●klipsch Mode M40(2012-03-15)
■Fischer Audio DBA-02 Mk2(2012-03-07)

◆AURISONICS AS-1b(2012-02-27)
■UBIQUO UBQ-ES503、UBQ-ES505、UBQ-ES703(2012-02-21)
◆Heir Audio Heir 3.A(2012-02-15)
■moshi audio Clarus(2012-02-12)
◆Thousand Sound TS842(2012-02-08)

◆Heir Audio Heir 8.A(2012-02-01)
■CRESYN(2012-01-17)
◆Unique Melody Merlin(2012-01-08)
◆カナルワークスCW-L01P(2012-01-03)
■ファイナルオーディオデザイン Adagio(2011-12-31)

◆LEAR LCM-2B(2011-12-26)
●SOUL by Ludacris SL100、150、300(2011-12-23)
●AKG K550(2011-12-20)
■SENNHEISER IE80 & IE60(2011-12-16)
■DUNU(2011-12-14)

◆カナルワークスCW-L10(2011-12-12)
■オーディオテクニカ ATH-CK90PROMK2(2011-12-09)
◆Ultimate Ears UE 5 Pro(2011-12-06)
■REALM IEM856(2011-12-02)
■ファイナルオーディオデザインAdagio III(2011-11-26)

◇Ultimate Ears用交換ケーブルFiiO RC-UE1&オヤイデ電気HPC-UE(2011-11-25)
●Reloop RHP-20(2011-11-22)
■オーディオテクニカ ATH-CK100PRO(2011-11-14)
■SOUL by Ludacris SL99(2011-11-04)
■Fischer Audio Ceramique(2011-10-25)

■SHURE SE535 Special Edition(2011-10-21)
■JVCケンウッドHA-FX40(2011-10-16)
■BauXar EarPhone M(2011-10-10)
■SONOCORE COA-803(2011-10-02)
◆TripleFi 10 ROOTHリモールド(2011-09-25)

■AKG K3003(2011-09-18)
■Atomic Floyd SuperDarts+Remote(2011-09-11)
■Bowers & Wilkins C5(2011-09-06)
■Westone3(2011-09-02)
◆カナルワークスCW-L31(2011-08-26)

◇ORB JADE to go(2011-08-22)
■YAMAHA EPH-100(2011-08-14)
■NW-STUDIO(2011-08-09)
■NW-STUDIO PRO(2011-08-02)
◆FitEar MH334(2011-07-29)

◆ROOTH SE530×8(2011-07-26)
■Westone ES5(2011-07-21)
●SHURE SRH940(2011-07-17)
◆Ultimate Ears 18 Pro(2011-07-15)
■クリエイティブAurvana In-Ear3(2011-07-06)

◆カナルワークス CW-L01(2011-07-01)
■GRADO GR10&GR8(2011-06-25)
◇SAEC(サエク)SHURE SE用ケーブル(2011-06-21)
■フィアトンPS 20&PS 210(2011-06-17)
■ZERO AUDIO ZH-BX500&ZH-BX300(2011-06-11)

■フィリップスSHE8000&SHE9000(2011-06-03)
■アトミック フロイド(2011-05-26)
■モンスター・マイルス・デイビス・トリビュート(2011-05-20)
■SHURE SE215(2011-05-13)
■ファイナルオーディオデザインPiano Forte IX(2011-05-06)

■ラディウス・ドブルベ/ドブルベ・ヌメロドゥ(2011-05-01)
■ローランドRH-PM5(2011-04-23)
■フィリップスSHE9900(2011-04-15)
■JAYS q-JAYS(2011-04-08)
◇フォステクスHP-P1(2011-03-29)

■Klipsch Image X10/X5(2011-03-23)
■ファイナルオーディオデザインheaven(2011-03-11)
■Ultimate Ears TripleFi 10(2011-03-04)
■Westone4(2011-02-24)
■Etymotic Research ER-4S(2011-02-17)

■KOTORI 101(2011-02-04)
■ゼンハイザーIE8(2011-01-31)
■ソニーMDR-EX1000(2011-01-17)
■SHURE SE535(2011-01-13)
■ビクターHA-FXC51(2011-01-12)

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