ストラト、レスポールからギターシンセまでギター・モデリングにマルチエフェクターを統合したBOSS「GP-10」

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BOSSの「GP-10」は、ローランドのギターシンセGRシリーズでおなじみのデバイデッド・ピックアップ(GKピックアップ)に対応する“ギター・プロセッサー”だ。GKピックアップ対応でギターシンセとギター・モデリングを統合し、マルチエフェクトも組み込んだ製品としてはローランドの「GR-55」があるが、BOSSブランドから登場したこの「GP-10」はノーマルピックアップからの出力にも対応していて、普通のギターで通常のマルチエフェクターとして使用できるし、モデリングと通常のギターの両方をブレンドして使えるところも面白い。

そんな「GP-10」だから、作り出せる音は幅広い。COSM(物理特性をモデリングするローランド独自の技術)によるギター・モデリングではストラトキャスターやレスポールをはじめ世界的に有名なギターの音を簡単に作り出せるし、チューニングも瞬時に切り替えられる。そしてマルチエフェクターはフラッグシップ機の「GT-100」クラス。ここにはCOSMアンプも搭載されるので、GKピックアップさえつけておけば、憧れのギターで名機のアンプを鳴らしたときのサウンドも、手持ちのギター1本で作ることができる。さらに、USBオーディオ機能を持っていて、PCのDAWソフトなどで「GP-10」を通した音を直接録音可能、しかも一度録音済みのギターサウンドを「GP-10」に戻して録音する“リアンプ”はもちろん、ギターのモデリングも変更する“リギター”も行なえる。まさにギターの音作りの幅を無限に広げてくれるギアなのだ。

■ペダルでモデリングやエフェクトの切り替えも可能、演奏時にも楽に操作できる



「GP-10」の本体は、豊富な機能を持つとは思えないほどコンパクトだ。右側にエクスプレッション・ペダルを配したインターフェイスは、ローランドの「GR-55」にもちょっと似ているが、ペダルスイッチは「ME-80」で新採用となった、スイッチを2つずつ上下対称に組み合わせたタイプが備えられている。このペダルスイッチは、下側のペダルがパッチの切り替えを行なうためのもので、踏むたびにパッチナンバー順に次々にパッチを切り替えられる。そして上側のCTRLペダルはパッチごとに機能を割り当てることができるもの。エフェクトのオン/オフやモデリング・ギター使用時のピックアップの切り替えなどを行なえる。たとえばストラトのモデリング・ギターで、フロントピックアップをリアに切り替えることができるから細かい音色の調整ができるし、モデリングそのもののオン/オフもできるから、ソロだけ違うギターの音で弾く、といったことも可能だ。エクスプレッション・ペダルは、爪先側を踏みこんでオン/オフできるタイプ。通常はオフでボリュームペダルとして動作し、オンにするとワウペダルとして使えるようになっているが、ディレイタイムやピッチのベンドをコントロールするように設定することも可能だ。

■ギター・モデリングでエレキ名機からアコギ、シタール、フレットレスまでリアルに再現

ではさっそくギター・モデリングの音から試してみよう。ギター・モデリングでは、エレキ・ギター、アコースティック、ベース、シンセ、そしてポリFXの5種類が用意され、それぞれ複数のタイプを選ぶことができる。

たとえばエレキ・ギターなら、CLA ST、LP、TEなど12のタイプがある。CLA STはアタックの抜けがよくコシのあるサウンド。シングルコイル・ピックアップのフェンダーのストラトキャスターのサウンドだ。ピックアップ切り替えでは、フロント、センター、リアのほかにリア+センター、フロント+センターも選択でき、5ポジションで使うことができる。TEはテレキャスターをモデリングしたもので、ジャキッとした歯切れ良いアタックが心地よいサウンドだ。LPを選ぶと、今度は一転して中域がグッと出てナチュラルに歪んだあたたかいサウンドになる。これはレスポールスタンダードのモデリングだ。P90は、その名の通りP90というシングルコイル・ピックアップをマウントしたレスポール・ジュニアのモデリングで、倍音が多く太いサウンドが特徴だ。また335はセミアコの名機ES-335 DOTのモデリングで、全体にウォームで、ちょっと甘めだがパンチのあるアタックがいい。

このほかにリッケンバッカーの360やダンエレクトロの56-U3(シルバーのリップスティック型ピックアップ3個をマウントしたギター)、EMGのアクティブ・ピックアップ搭載ギターなども用意されていて、ビンテージ・サウンドからモダンな音まで幅広く使うことができる。さらに、フレットレス・ギターのモデリングも用意されている。独特のくぐもったアタックはフレットレスそのものだし、スライドしたときの音程の変化も滑らかで、よほど注意して聴かないとフレットがあることがわからないほど、そのサウンドはリアルだ。

アコースティックは、マーチンのD-28やギブソンのJ-45など代表的なアコースティックギターのほか、5弦のバンジョーやエレクトリック・シタールも用意されている。バンジョーは能天気な明るいアタックが軽快だ。そしてシタールは基本的に倍音が少なめだがビビリ音もしっかり出ていて、クセのあるアタックやフィルターが動いているような音色の変化もリアル。70年代歌謡曲の「私鉄沿線」のイントロといったらピンと来る人もいるかもしれない。あんな音が簡単に出せるのだ。

ベースはフェンダーのジャズ・ベースとプレシジョン・ベース、それにフレットレスベースの3タイプ。ギターで弾いているのに、抜けと歯切れのいい“ジャズべ”や重厚な“プレべ”のリアルな音が出てくるのは不思議な感覚だ。フレットレスも、ギター同様甘くてスローなアタック、図太いサウンドがとてもリアルだ。

■パット・メセニーのあの音もすぐに出せるギターシンセ

シンセは、GR-300とオシレーター・シンセ、ウェーブ・シンセの3タイプ。ウェーブ・シンセは、ノコギリ波(SAW)または矩形波(SQUARE)のシンセ音にフィルターをかけるシンプルなシンセ。アナログシンセのような図太い音も得意なので、シンセ・ベースなどにも向いているだろう。オシレーター・シンセは、2つのオシレーター(発振器)でサイン波(SIN)やノコギリ波(SAW)、三角波(TRI)などの波形をかけ合わせて複雑なシンセ音を作り出すタイプだ。ピッチやエンベロープ、アタックなど、通常のシンセ同様に細かい音の作り込みが可能だ。こちらもアナログシンセっぽい音が得意だが、音程やフィルターの開閉を細かくコントロールできるので、緻密な音作りも可能。そしてGR-300は、同名のローランドのギターシンセの名機のモデリング。浮遊感のある、いかにもギターシンセという音が簡単に出せる。パット・メセニーのあの音もすぐに出せるので文句なく楽しい。

もうひとつのポリFXは、各弦の信号を独立して取り出せるGKピックアップの機能を利用し、6つの弦それぞれに独立してエフェクトをかけられるもの。たとえば歪み系エフェクトを6弦同時にかけると、激しく歪ませたときにはコードの響きが濁ってしまうことがあるが、ポリFXのDISTORTIONならそれを防ぐことができる。実際に弾いてみると、本当に分離がいい。弦を1本ずつ別々に弾いて重ねたような、コードの構成音が明瞭に聴こえるサウンドになる。

■瞬時にチューニングを変えられるオルタネイト・チューニング機能

弦ごとに出力を独立して扱えるGKピックアップの特徴をいかした機能として、オルタネイト・チューニングも面白い。弦ごとに音程を変えてしまうことができるから、6弦だけ1音下げるなどの変則チューニングも、実際にギターのチューニングを変更することなく行えるという驚きの機能。たとえばD-MODAL(Dモーダル)は、D-A-D-G-A-Dと1弦、2弦と6弦をそれぞれ1音下げるチューニング。アイリッシュ系でよく使われるチューニングだ。DROP Dなら、メタルなどでよく使う、6弦だけをDに下げたチューニング。また、開放弦だけでメジャー・コードになるOPEN Dなどもあり、演奏中に一瞬で変えられるのは面白い。すべての弦のピッチを自由に設定できるUSERモードもあるので、どんなチューニングでもOKだ。

このオルタネイト・チューニングを使って12弦ギターの音を出すことも可能だ。オクターブ上下を付け足すエフェクターでも似たような効果はあるが、その場合はすべての弦の音にオクターブ上または下の音が付け足されてしまうので、リアルな12弦の音とはちょっと違う。しかしこれは6~4弦はオクターブ上、3~1弦は微妙にデチューンされた音程が付け足されるので、本当に12弦ギターを弾いている感覚になる。

このほか、弦ごとにレベルを調整したり、パンを左右に振り分けることもできる。奇数弦を左から、偶数弦を右から鳴らすようにすると、コードストロークでは厚みや広がりを感じられるし、アルペジオなら、ギターが頭の周りを動き回っているような立体感が出てくるから面白い。

■充実のマルチエフェクトと組み合わせて無限の音作りが可能

ノーマルピックアップでも使えるマルチエフェクトでは、やはりプリアンプとして使えるCOSMアンプが強力だ。クセのないクリーン・サウンドのNATURL CLEANやレンジが広くフラットでアコースティックギター向きのFLL RANGEなど、幅広く使えるアンプもあるし、ローランドの名機をモデリングしたJC-120やフェンダーのツインリバーブをモデリングしたCLEAN TWIN、デラックスリバーブのDELUXE CRUNCH、メサ・ブギーのコンボアンプのリードをモデリングしたBG LEAD、VOX AC-30TBのVO DRIVEなどの歴史ある定番アンプ、さらにはメサ・ブギーのDUAL Rectifier、いわゆる“レクチ”やSoldano SLO-100、EVH5150のリードチャンネルなど、80年代以降に人気の高まった歪みに重点を置くモダンなアンプも網羅している。

比較的新しいCOSMアンプとしては、「ME-80」に搭載されていたBogner Ubarshallや、一足先に発売された「GT-001」にも搭載されたORANGE ROCKERVERBもある。激しい歪みが欲しいときに使えそうなのがBogner UbarshallをモデリングしたBGNR UB。とても過激に歪むアンプだ。高域、中域が強いからアタックが力強いし、それでいて重低音も効いていてとても分厚いサウンドが得られるアンプだ。粒立ちがよく一音一音が明瞭だから、リードでもリフでも使えるだろう。またORANGE ROCKERVERB のダーティー・チャンネルをモデリングしたORNG RVは、歪みが粗く、中域が分厚い。存在感があるサウンドがカッコいいアンプだ。

そのほかのエフェクトとしては、ワウやコーラス、ディレイ、リバーブ、イコライザーなどのほか、FXとして数多くのエフェクトを使うことができる。FXで選べるのはオーバードライブ、コンプレッサー、タッチワウ、フランジャーなど16種類。「ME-80」に搭載されて話題を呼んだUni-Vibeもある。うねるような独特の幻想的なサウンドで、ジミヘン気分が楽しめる。

■GKピックアップとノーマルピックアップのブレンドで多彩な表現が可能

GKピックアップの出力のギター・モデリングにエフェクトを使うだけでもかなり多彩な音が作れるし、なによりどの音もリアルで使える音になる「GP-10」だが、GKピックアップとノーマルピックアップの音をブレンドして使えるのも面白い。こうすると音作りの幅はさらに広がる。たとえばノーマルピックアップをCOSMアンプに通して基本的な音を作っておき、そこにモデリングのポリFXやシンセを加える、といった使い方ができるのだ。別にシンセっぽい音はいらないよ、と言う人もいるかもしれないが、いかにもギターシンセっぽい音を使う必要はない。普通のエフェクターでは出せないような倍音を追加したり、アタックに少しクセを付けたりするなど、あくまでギターとしての音の幅を広げてくれるのが「GP-10」の真骨頂だろう。

たとえばSYNPHO DRIVEというプリセットのパッチがあるが、これはノーマルピックアップの方ではエッジの効いた激しい歪みのドライブサウンドを作っている。そしてGKピックアップの方ではモデリングにポリFXを選び、アナログのシンセブラスのような音を作ってブレンドしている。このシンセブラスは若干歪んだような音で、オクターブ上下を中心に倍音の多いサウンド。しかも奇数弦と偶数弦を左右に振り分けているからすごく広がりがある。これをブレンドすることで、倍音が多く、すごく分厚くて圧力があり、目の前いっぱいに広がる荘厳なドライブサウンドになっているのだ。また、SYN BASS MIXというパッチでは、ノーマルピックアップではわずかに歪みを感じるエレキベースの音を作り、GKピックアップではオクターブ上の音程で、アタックの強さでフィルターが変化し、“ビヨンビヨン”とクセのあるシンセベースの音を重ねている。これらのブレンドによって、重さも軽快さも併せ持ったユニークなベースサウンドを生み出している。


▲専用のエディター/ライブラリアンソフトのBOSS TONE STUDIOでは、GKピックアップとノーマルピックアップで使われるエフェクトを上部に表示。選択したエフェクトを下部で設定できる。


▲使用するすべてのエフェクトのパラメータを一覧表示させることも可能。複数のエフェクトのパラメータを調整できる。

このほか、GKピックアップのモデリングだけを使うものや、モデリングなしのノーマルピックアップ用など、90のパッチがプリセットとして用意されている。そのまま使ってもいいし、オリジナルの音を作るのに参考にするのもいいだろう。

■USB接続で“リアンプ”、“リギター”も可能、専用のエディター/ライブラリアンソフトも用意

「GP-10」はUSBオーディオ機能を持っているので、「GP-10」を通したギターの音をPCのDAWソフトなどで直接録音することができる。PCの再生音に「GP-10」のエフェクトをかけることも可能だ。このとき、一度録った音に再びエフェクト処理を行なって、アンプのモデリングをやり直しながら録る“リアンプ”ができる製品はあるが、この「GP-10」はリアンプだけでなく、“リギター”も可能になっている。つまり、GKピックアップでギター・モデリングして録った音を、PCから「GP-10」に送ってモデリングの変更を行なうことができるのだ。たとえばレスポールの音で録っておいたギタートラックを、あとからストラトにしたり、アコースティックの12弦ギターに変えたりすることができるというわけだ。これだけ多彩な音が作れる「GP-10」だから、録るときにどんな音にするか悩むこともあるかもしれないが、そんなときはある程度気に入った音でとりあえず録ってしまえばいい。あとからリギターでじっくりと音を作れば、曲調にマッチしたベストな音が見つかるだろう。

また、PCとUSB接続してパッチの編集や各エフェクトの設定などを行なえる専用エディター/ライブラリアンソフトのBOSS TONE STUDIOも用意されている。BOSS TONE STUDIOの画面上部には、GKピックアップとノーマルピックアップそれぞれに使用するエフェクトがイラストで表示され、オン/オフの状態や接続順も簡単に確認できる。ここでエフェクトをクリックすると、下部に大きくエフェクターのイラストが表示され、つまみをマウスで操作して感覚的にエディットできる。すべてのエフェクトのパラメータを数値で一覧表示するモードもあるので、複数のエフェクトを1つの画面で同時に操作することも可能だ。

世界的なギタリストの作成したパッチをダウンロードできるWEBサイト、「BOSS TONE CENTRAL」にももちろん対応していて、このBOSS TONE STUDIOからアクセス可能になっている。オーストラリアのプログレ・メタルバンドTERAMAZEのDean Wellsの作ったドロップチューニングのセットや、Arcane RootsのAndrew Grovesの荒々しい歪み系サウンドのパッチ、その他特殊な効果をもったサウンドを集めたパッチなどをダウンロードできる。

名機のギターからシタールやシンセまで、使い慣れた1本のギターで様々な音を出すことができ、しかも演奏中にまったく違うギターの音に変えたり、チューニングを一瞬で変えたりできるという、とても普通ではできないことを実現してくれる「GP-10」は本当に面白い。高価なギターやアンプをいくつも用意できないギタリストの夢をかなえてくれるのが「GP-10」なのだ。


●主な仕様

モデリング:エレキ・ギター=12種類、アコースティック=9種類、ベース=3種類、ギター・シンセ=3種類、ポリFX=5種類
オルタネイト・チューニング:オープン・チューニング=D, E, G, A、ドロップ・チューニング=D~A、D-MODAL、NASHVILLE、半音シフト=-12~+12、ユーザー・チューニング、12弦ギター機能
エフェクト:プリアンプ(Amp)=30種類、FX=16種類(OD/DSを含む)、オーバードライブ/ディストーション(OD/DS)=21種類、ワウ(Wah)=6種類、コーラス(Chorus)=3種類、ディレイ(Delay)=10種類、リバーブ(Reverb)=7種類、イコライザー(EQ)=1種類、ノイズ・サプレッサー(NS)=1種類
パッチ・メモリー:99
AD変換:GKピックアップ=24ビット、GUITAR IN=24ビット+AF方式
DA変換:24ビット
サンプリング周波数:44.1kHz
ペダル:ペダル・スイッチ×4、エクスプレッション・ペダル×1
ディスプレイ:16桁2行(バックライト付LCD)
接続端子:GK IN端子(13ピンDINタイプ)、GUITAR IN端子(標準タイプ)、GUITAR OUT端子(標準タイプ)、OUTPUT(L/MONO、R)端子(標準タイプ)、PHONES端子(ステレオ・ミニ・タイプ)、AUX IN端子(ステレオ・ミニ・タイプ)、EXP 2/CTL 3, 4端子(TRS標準タイプ)、USB端子(USBタイプB)、DC IN端子
外形寸法 / 質量:幅 (W)251 mm奥行き (D)207 mm高さ (H)71 mm質量1.9 kg

◆「GP-10」製品詳細ページ
◆BOSS
◆BARKS ローランド チャンネル
◆BARKS 楽器チャンネル
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