【ライブレポート】杏里プロデュースバンド「BEST Buddies」ワンマンライブ開催。杏里も登場

2025.12.04 12:00

Share

7月から11月にかけて全国14公演を駆け抜けた杏里のライブツアー<ANRI LIVE 2025 TIMELY!!>で、サポートを務めたバンド“BEST Buddies”が11月19日、神奈川・ビルボードライブ横浜でワンマンライブを開催した。スペシャルゲストとして杏里も登場し、半世紀近くのキャリアを誇るシティポップの重鎮たちによる、いぶし銀の演奏が耳の肥えた観客たちを唸らせた。

落ち着いた大人のムード漂う会場。温かい拍手に迎えられてメンバーがステージに現れる。1曲目の「Yah-Mo」は、キーボード/バンマスの小倉泰治によるオリジナル曲で、ダニー・ハサウェイなどをリスペクトしてこの日のために作った新曲とのこと。グルーヴ感あふれる演奏に手拍子が重なり、次々と繰り出される各楽器のソロパートには、その都度歓声が上がった。「ウェルカム!」という挨拶をボコーダーで発するなど、冒頭から遊び心たっぷりだ。続いてマーヴィン・ゲイのカバー「Inner city blues」を繰り出す。ベースの小松秀行とパーカッションの斉藤ノヴが繰り出すジャジーなリフに乗せて、サックスの鈴木明男が艶めかしくメロディーを奏で、植田浩二がエモーショナルにギターをプレイ。そんな演奏に拍手と歓声が沸き起こると、「今日は我々の初公演にお越しくださってありがとうございます。最後まで楽しんでください」と、小倉が挨拶をして歓声に返した。

このバンド、とにかくメンバーがすごい。小倉泰治(Key)、鈴木明男(Sax)、斉藤ノヴ(Perc)、Kenny Mosley(Dr)という、超が付くほどのベテラン揃い。今でこそ“シティポップ”というジャンルは確立され世界的なものとなっているが、シティポップという呼び名もまだ無く、ニューミュージック、AOR、R&Bなどと呼んでいた1970〜1980年代において、杏里をはじめとした当時のアーティストのレコーディングやライブを支えた名うてのプレーヤーたちだ。植田浩二(G)、小松秀行(B)の2人ももちろんベテランではあるが、このなかに入ればひよっこも同然。そこに加わるChloe(Cho, Vo)、Gary Adkins(Cho, Vo)といった、さらに一世代若いシンガー2人。音楽は世代を超えた共通言語であることを実感させるメンツだ。

このライブは、杏里のビルボードツアーのときに「一度やってみたら?」と杏里から提案されて実現したものだという。セットリストは1970年代〜80年代の洋楽へのリスペクトを込めたカバー曲とオリジナル曲で構成。ウィットに富んだ演奏はもちろんのこと、トークも実にチャーミング。鈴木は「ベストジジイズだから」「ベテランと言うよりベランダ」など、おやじギャグを連発。客席から「明男ちゃ〜ん!」と声がかかると「は〜い!」とご満悦で応えるなど、お茶目なことこの上ない。また、小倉の衣装も注目で、肩パットの入った淡いグリーンのジャケットは80年代に買ったはいいが一度も袖を通したことがなかったものを引っ張り出してきたとのこと。セットリストだけでなく、身も心も80年代といったところだろう。

中盤にはChloeとGary Adkinsにメインボーカルを託して聴かせた。ChloeはTAKE6のマーク・キブルの娘さんで、杏里の影響をたくさん受けているそう。この日は自身のフェイバリットソングとして杏里の「summer candles」のカバーを披露した。繊細さも兼ね備えたハリのあるパワフルなボーカルは、まさしくサラブレッド。このメンツをバックに、堂々とした歌声を響かせて会場を圧倒した。続いてGary Adkinsはテンプテーションズの「get ready」をカバー。打ち鳴らされたドラムとともに一転ノリのいいサウンドが会場を包み込むと、観客は一斉に立ち上がってクラップしながら歓声をあげた。

スペシャルゲストの杏里は、シックな黒にきらびやかなスパンコールがあしらわれた衣装を身に纏い、「みんなやるじゃん!」とうれしそうに拍手をしながら登壇。「こんなに素晴らしいバンドはほかにいない。ただのフュージョンバンドじゃない。何でもできちゃうんだから!」と、誇らしげにバンドを自慢する。それもそのはずで、鈴木や斉藤は杏里をデビュー当時から彼女を支えているメンバーだ。このバンドが生まれた経緯について、毎年恒例になっている杏里のビルボードでのライブをきっかけに結成され、BEST Buddiesというバンド名は8年前に付いたと説明した杏里。小倉と鈴木の掛け合いによるMCについても、「楽屋と同じで面白い!」と太鼓判。会場に集まった観客もステージのメンバーと同世代が多く、それこそ気心知れた友だち同士が集まったときのような、肩肘張らないリラックスしたムードで演奏とトークが繰り広げられた。

杏里は「せっかく横浜なのだから」と言って、歌詞に「Yokohama」や「Honmoku」が出てくる「D.J I love you」を披露してくれた。冒頭のDJパートをGaryが務め、ボーカルを杏里にバトンタッチすると、海の向こうに観覧車や摩天楼の灯を臨む、時代を経ても替わらない夜の横浜の情景が目の前に広がる。サックスが切なく響くアウトロは、絶妙な間合いで楽曲を締めくくった。またGary Adkinsとデュエットで聴かせたアトランティック・スターの「Secret lovers」のカバーは、2人のソウルが共鳴し、息の合った美しいハーモニーが抜群だ。

聴き応えがあったのは、小倉によるオリジナル曲の「幻の谷間」。「この方(小倉)はいい曲を書くのですが、演奏が難しいんですよ」と鈴木。バキバキとしたベース、変則的なビートによる独特のリズム。鈴木はサックスをフルートに持ち替え、ノイジーなギターが唸りを上げる。フュージョン、ファンク/ソウル、ロックなど多彩なジャンルを飲み込んだプログレッシブな1曲。終わったと思ったらまだ終わらない、キメとブレイクが何度も繰り返され、観客の高揚感と興奮を最大限まで引き出した。またアンコールでは、このバンドメンバーのことをイメージして作ったというオリジナル曲「太陽がいっぱい」も披露された。明るくゆったりとしたリズム。ChloeとGaryによるスキャットやフェイクも楽器の一部として機能し、全員の表情が実に楽しそう。「この曲をこの場所で共有できて良かった」と小倉。まさしく「太陽がいっぱい」といったBEST Buddiesの雰囲気やノリの良さに、観客も笑顔で体を揺らし、声をあげて声援を送った。

そしてアンコールの最後は、再び杏里を迎えて彼女の代表曲「悲しみがとまらない」だ。観客が総立ちになった同曲。杏里が客席にマイクを向けると、サビを歌う観客の大合唱。天井にはミラーボールが回って実に華やかな雰囲気でライブを締めくくった。

1970年代〜1980年代の音楽と杏里を共通ワードに、世代を超えてステージと客席が一つになったライブ。よくアニメやアイドルの現場で大人のファンのことを「大きなお友だち」と言ったりするが、それは年齢を重ねてもなお好きなことを追求し、同じ趣味で集まることができる人たちのこと。今日ここに集ったBEST Buddiesのメンバーも観客も、まさしく大人のお友だちだった。

取材・文◎榑林史章

Related Tags関連タグ