【インタビュー】櫻井哲夫「音を出していない時に人間性が出る」…沖仁らと挑む<EBISU JAM>

2026年の今、海外での評価が沸騰中のJフュージョンのレジェンドであり、今もシーンのトップを走るベーシストと、世界を股にかけて活躍するフラメンコギター日本代表の共演が、遂に実現する。10月9~12日に恵比寿ザ・ガーデンホールで開催される<EBISU JAM>のプログラムの初日を飾るのは、「櫻井哲夫 with 沖仁 featuring 赤木りえ、Kan」というスペシャルユニットだ。
「パコ・デ・ルシア・セクステットを彷彿させる」というキャッチコピーのもと、フラメンコとフュージョンがどのように混ざり合い、新たな音楽体験が生まれるのか。二人の出会い、ライブの抱負、そしてミュージシャン独特の音楽的視点について、櫻井哲夫に語ってもらった。

――今回のライブは、櫻井さんと沖仁さんの、初めての本格的な共演ライブになりますね。沖仁さんとの出会いには、どんなエピソードがありますか?
櫻井:沖仁さんと初めて出会ったのは、僕のソロアルバム(2015年『Nothin’ but the Bass』)に参加していただいた時だったんですが、プロデューサーの亀田誠治さんに「一つだけお願いがあります。沖仁さんとデュオしてもらえませんか?」と言われたんですね。あのアルバムは基本的に櫻井哲夫のソロ・ベースで、ゲストを何名か入れましょうというコンセプトだったので、ベーシストとして亀田さんも演奏してくれたし、KenKenやネイザン・イースト、ボーカリストでは元・Fried PrideのShihoさんや土屋アンナちゃんにも入ってもらって、僕のベースとデュオでやらせてもらったんですが、亀田さんが「ゲストは自由に選んでください。でも櫻井さんと沖さんのコラボは絶対やりたいです」ということで、それがきっかけなんですよ。

――お会いする前に、沖仁さんにはどんなイメージを持っていました?
櫻井:もちろん音は知っていて、フラメンコの大会で賞を受賞されているとか、世界的なスーパーフラメンコギタリストという印象はあったんですが、人物像は全くわからなかったので。「どんな人なんだろう?」と思いながらスタジオに入って、いきなり録音したのが初対面だったと思うんですけど、ものすごく柔らかい人で、相性が良かったんですね。そのあと、ブルーノート(東京)でレコ発ライブをやった時にゲストで参加していただいて、しばらくご縁がなかったんですけど、ブルーノートとT-SQUAREが主催している『JAZZ-FUSION SUMMIT』というイベントに、2年前にかつしかトリオ(櫻井哲夫、神保彰、向谷実)で呼んでいただいて、そこで沖仁さんとcobaさんのユニットに僕が入ってコラボさせてもらう機会があったんですね。その時の感触がすごく良くて、「またやりましょう」と言ってくださったので、今回こちらから声をかけさせてもらいました。
――今回のライブの告知には「パコ・デ・ルシア・セクステットを彷彿させる」というキーワードが出ています。これは?
櫻井:パコ・デ・ルシアは、フラメンコギターといえば彼と言っていいくらい、凄いプレイヤーですよね。アル・ディ・メオラとジョン・マクラフリンとやっていたスーパーギタートリオとか、「うわ、凄いな」と思いながら遠くから見ていたわけですけど、今回のライブをやるにあたって、僕も沖さんとがっつりやるのは初めてだし、デュオだけだとガーデンホールじゃちょっと寂しいかな?とか、いろいろ考えている時に、<EBISU JAM>の制作をしているディスクガレージさんの担当者の方とメールでやり取りしていたら、その担当者の上司の方が「ちょっと失礼します」と言って入ってこられて、「パコ・デ・ルシアのバンドみたいなのはどうですか?」とご提案いただいて。その方は以前、パコ・デ・ルシアを日本に呼んだ時のご担当者で、「本当に凄いライブだったんです。あんな感じのことができたら最高だと思います」というお話だったんですね。
――はい。なるほど。

櫻井:動画も見せていただいたんですが、基本はパコのギターとベースとパーカッションでガツン!とやって、そこにフルートがいて、という構成だったんですね。アンサンブルで聴かせるというよりも、一人一人がトンガっていて突き抜けてくる。これはぜひやってみたいと思ったので、「このコンセプトで挑戦したいです」とお答えして、それを沖さんに伝えたら「僕もワクワクします」と言ってくださったので。
――お話を聞いているこっちがワクワクします。今回のバンドメンバーは、櫻井さんのベース、沖さんのフラメンコギターに加えて、フルートに赤木りえさん、パーカッションにKanさんという、強力なメンバーが揃いました。

櫻井:赤木さんはカシオペア時代から顔見知りで、音も知っていて、演奏も何度もしている仲です。せっかくのフラメンコだから、女性がいたほうが華やかになると思ったのと、エネルギッシュなフルートを吹かれる方なので、すごく面白いコラボになると思います。そしてパーカッションのKanくんとは、実は今回が初めてなんですね。Kanくんとの出会いは、ニューヨークで活躍されているマーサ加藤さんという、僕がすごく尊敬しているピアニストがいらっしゃるんですが、その人のライブを何回か見に行ったら、必ずKanくんがいるんですよ。水戸黄門の助さん格さんみたいに(笑)。ベースは時々変わるんですけど、Kanくんはずっといて、バンドを支えている。主役を生かして音楽を良くしていく、その支え方がすごく気に入ったんです。だから今回、「フラメンコなんだけど、頼んでいいかな?」と声をかけたら、「フラメンコ、やってますよ」という話で、沖さんともやったことがあるというので、これはやりやすいなと。なので、ライブの前半は櫻井と沖のデュオで、中盤から後半はバンドで、という感じになると思います。

――フラメンコ×ジャズ/フュージョンという、刺激的な組み合わせ。選曲はどんなふうに?
櫻井:基本は櫻井と沖のオリジナル曲中心で、バリエーションとして、皆さんご存じの曲のカバーも入れようと思っています。僕のソロアルバムで沖仁さんに参加していただいた、「JUST THE TWO OF US」(グローヴァー・ワシントン・Jr/ビル・ウィザース)はやります。あとは、アル・ディ・メオラがパコ・デ・ルシアとも一緒にやっていた「地中海の舞踏」もやります。沖さんはたぶん何度もやっている、フラメンコと言えばこの曲という代表曲ですけど、僕は初めてなのでめちゃくちゃ楽しみですね。すごく盛り上がると思います。
――沖さんとは、どんな打ち合わせをしていますか。
櫻井:まだリハーサルをやっていないので、あまり音のことは言えないんですけど、アレンジの話はしています。基本はフラメンコのアレンジで、沖さんの曲はもともとフラメンコなので、そこに僕が入るだけなんですけど、僕の曲に関してはフュージョンなので、ギターとベースのすごくメロディアスなデュオになる予定ですし、バンドでやる曲は派手なフラメンコ×フュージョンになると思うので、すごく楽しみですね。
――ちなみに、この<EBISU JAM>の姉妹編にあたる『EBISU Bloomin’JAZZ GARDEN 2026』には、今年の5月にかつしかトリオとして出演されていますよね。どんな感触でしたか?
櫻井:かつしかトリオは、いつも同じチームでツアーをやっているんですけど、『EBISU Bloomin’JAZZ GARDEN 2026』の舞台制作はディスクガレージさんのイベント関係のチームで、そこにバンドだけで参加させていただいたので、照明や音響も全部お任せだったんですが、すごくやりやすかったんですね。それで「またご縁があったらよろしくお願いします」とお伝えしたら、後から「櫻井さん、秋の<EBISU JAM>はどうですか?」と言っていただいて、今回出演させていただくことになりました。ガーデンホールはすごくやりやすいホールなので、またできるのが嬉しいですね。楽しみです。今回、色々な方が出られるんですよね?
――そうですね。4日間のうち、初日が櫻井さんと沖さん、2日目が佐藤竹善さん&Neighbors Complain、3日目が安藤裕子&Salyuさん、4日目が松本伊代さんです。
櫻井:ジャズフェスというわけでもない音楽イベントに、僕らのようなフュージョンを入れていただいたのは、すごく嬉しく思います。松本伊代さんが出るイベントに、私も出ていいのかな?とか思いますけど(笑)。でもミュージシャンは、みんな知っている人なんですよね。
――伊代さんのバックは、DIMENSIONの増崎孝司さんや、現・カシオペアの安部潤さんや、フュージョン人脈が多いんですよね。フュージョンといえば、今は海外で日本のジャズ/フュージョンが盛り上がっていて、櫻井さんも海外公演などで体感していると思いますが、どんなふうに感じていますか。
櫻井:今年の1月に台北、6月にソウルに行ったんですが、台湾も韓国も共通しているのは、お客さんが若いんですよ。日本のかつしかトリオのファンの方は、もちろん若い人もいるんですけど、「80年代のカシオペアの時から応援しています」という方が中心になっている実感があるんですが、台湾、韓国は90パーセント以上が20代かな?という感じでした。そして、声が凄いんですよ。ソロが終わるたびに、毎回「ウォー!」みたいな感じになって。
――それは嬉しいですね。やる気も出る。
櫻井:日本が思っているよりも、海外のJフュージョンブームは凄いです。シティポップが世界レベルで大ヒットしたあと、そこからの流れで、シティポップはJフュージョンのアレンジを取り入れていたり、ミュージシャンもわりと重なっていて、我々も結構やっていましたからね。その、シティポップからの流れのJフュージョンの見直され方は、日本の空気とは違いますね。だから台湾も韓国も、凄く嬉しいライブでした。演奏に対しての反応が大きいと、ライブのしがいがあるというか、そこがライブの一番の醍醐味でもありますから。アジア各国からも、また次回の話がいくつか来ていますし、アメリカとかヨーロッパにも、また行ければいいなと思っています。

――さらなるご活躍を期待しています。最後に一つ、おまけの質問をしていいですか。櫻井さんが観客としてライブを見る時に、ミュージシャンのどこを見ているのか、プロの目線と一般の観客の目線との違いみたいなものはありますか。
櫻井:鋭いご質問ですね。ミュージシャンにはそれぞれの見方があると思うので、僕が代表して語ることはできないですけど、一般の人とは違う見方で見ているんだろうな、ということは自覚しています。それは何かというと、僕の場合、やっぱり人を見るんですよね。うまい人はもう山ほどいて、音数、スピード、選ぶ音のクオリティとか、教養があって練習している人の演奏は、素晴らしいなとは思いますけど、それよりも僕が演奏家の演奏を楽しんでいるところは、例えば何かを弾いている時よりも、音を出してない時の演奏ってあるじゃないですか。
――音を出していない時の演奏、ですか。
櫻井:そう。その時、その人はバンド全体の音を聴いているわけですよね。音を出し続ける人というのは、他の人の音を聴いてない状態になっていると感じる場合が多いんです。だから、演奏していないところが多い人には、ほかの人とのコラボレーションを感じるんですね。意識の面で。僕はそれがすごく好きで、特にパーカッショニストなんていうのは、それの代表格だと思うんですよね。周りの音を聴いて、グルーヴを感じて、合いの手じゃないですけど、それをちゃんと助けていくというパートだと思うんです。やらない時は何もやらないほうが良かったりして、そういうところに、その人の人間性が出るわけですよ。そこが一番、僕が楽しむところですかね。
――はい。なるほど。
櫻井:例えば、沖仁さんは超一流のフラメンコギタリストですけど、喋っていると、「本当に超一流のギタリストなんですか?」というような、柔らかいところがあって(笑)。それは僕もそうで、ステージではガーッ!と弾いたりしていますけど、人と話す時は「櫻井さんって意外と柔らかいですよね」と言われたりするので。赤木りえさんもそうなんですよ、普段はすごいふわふわしていて。今回、そういう人間性が面白いメンツだなとは僕は思っているんですけどね。その、人間性も含めたコラボレーションというのが、僕はこのチームですごい楽しみにしているところです。先ほどのご質問に戻ると、やっぱり演奏の裏にある人物像、考え方、会話の仕方、周りへの配慮の仕方、そういうところのポイントが、技術点よりも圧倒的に高いかもしれないですね。
――とても櫻井さんらしい見方だと思います。
櫻井:僕はベースなので、みんなとコラボしたいわけです。打楽器とは大事なコンビネーションを作りたいし、リード楽器に対しては、いいサポートをして、メロディを良くしたい。それと同時に、ギターやピアノとのハーモニーも大切で、特にデュオやトリオの小編成の場合、ハーモニーに対してベースがどの音をどういうタイミングで選んでいくか、ビートをちゃんと支えながら、メロディをどうやって活かすか、そこがベーシストとしての醍醐味なんですよね。だから僕がやる企画は、櫻井哲夫バンドにしても、ジャコ・パストリアスのトリビュートバンドにしても、今回のことにしても、僕のベースが中心にいて、「この人たちにどういうふうに、伸び伸びしてもらうかな」というところに、やりがいを感じていますね。もちろん僕も、出るところは出ますけど(笑)。
取材・文◎宮本英夫
<EBISU JAM 2026>

2026年10月9日(金)、10日(土)、11日(日)、12日(月祝)
@恵比寿ザ・ガーデンホール
●10月9日(金)
櫻井哲夫 with 沖仁 featuring 赤木りえ, Kan × EBISU JAM
開場17:45 / 開演18:30
出演者:櫻井哲夫(Ba)/ 沖仁(Gt)/ 赤木りえ(Fl)/ Kan(Per)
チケット:指定席 ¥8,800(税込)
●10月10日(土)
佐藤竹善 & Neighbors Complain Guest K -AOR SESSION- × EBISU JAM
開場15:45 / 開演16:30
出演者:佐藤竹善 / Neighbors Complain / K
チケット:指定席 ¥8,800(税込)
●10月11日(日)
安藤裕子/Salyu TALES FROM THE RAINBOW TAILS × EBISU JAM
開場15:45 / 開演16:30
出演者:安藤裕子 / Salyu
チケット:指定席 ¥8,800(税込)
●10月12日(月祝)
松本伊代 45th Anniversary Live2026 “Journey”×EBISU JAM~Lovely I・Y・O~
開場16:15 / 開演17:00
出演者:
松本伊代
船山基紀(音楽監督)
増崎孝司(Gt・Bandmaster)/ 安部潤(Key・Manipulator)/ 二家本亮介(Ba)/ 髭白健(Dr)/ AMAZONS(Cho)/ アンディ・ウルフ(Sax)/ ルイス・バジェ(Tp)
チケット:指定席グッズ付き:18,000円(税込)、指定席 ¥9,900(税込)
※指定席グッズ付き:グッズの内容は後日、松本伊代SNSで発表
■チケット https://ebisujam.com/
※各公演:ドリンク代別途必要、未就学児入場不可
[問]https://info.diskgarage.com/







