YOSHII LOVINSON、歌うことの使命感を全身に湛えた全国ツアー終了!

ポスト
YOSHII LOVINSONの1stツアー<AT the WHITE ROOM>が、7月4(月)・5日(火)のZepp Tokyo2daysで終了した。このツアーは、YOSHII LOVINSONの最初のツアーであると同時に、最後のツアーでもあったのかもしれない。彼は、THE YELLOW MONKEYの活動休止~解散を経て、ソロ・アーティストとして始動するにあたり、吉井和哉ではなくYOSHII LOVINSONと名乗った。その理由は各所のインタヴューで「好きなオーディオ・メーカーの名前にちなんで」とか「本名があまり好きではないから」みたいなことを語っていたけれども、「なぜYOSHII LOVINSONだったのか?」という本当の理由は、吉井自身がこのツアーをやりながら模索していたのではないかと、最終日のステージを観て、そんなことを強く感じた。

今ツアーでは、2ndアルバム『WHITE ROOM』の1曲目「PHOENIX」で不死鳥のごとく羽ばたくようなオープニングと、1stアルバム『at the BLACK HOLE』の1曲目「20 GO」で内燃する混沌を吐露するようなオープニングの2通りあったが、この日は後者、「20 GO」で幕を明けた。モスグリーンのシャツにアイスウォッシュのデニムと白いスニーカーという、いつになく“普段着”な出で立ちも何かを象徴しているように見える。「TALI」「SIDE BY SIDE」「WANTED AND SHEEP」と恐ろしく濃密な演奏が続き、吉井の煽情的なヴォーカルとエマ(菊地英昭:ex THE YELLOW MONKEY)の官能的なリード・ギターの掛け合いが阿吽の呼吸で繰り広げられる「RAINBOW」では、夫唱婦随のパフォーマンスを魅せた。得意のダジャレや饒舌なMCを挟むことなく、ひと際ディープな「HATE」「CALL ME」の流れでは、歌を聴き手の内側にさらに深く突き刺さしていく。そして吉井和哉のチャーム・ポイントが満載された名曲「NATURALLY」では、皮膚感覚のある繊細な歌詞と、柔らかで穏やかな質感のヴォーカルでオーディエンスを包み込む。そして「今日が何かの始まりです」という決意表明めいたMCの後に、その想いを共有するように満場のオーディエンスと大合唱になった「FINAL COUNTDOWN」で本編が終了した。

盟友エマをサポートに迎えながら、ツアー序盤では彼をフィーチャーすることをしなかったのだが、それはおそらく、ソロ・アーティストとしての立ち位置を明確化するための自己規制だったのではないかと思う。どこか俯瞰で自分のパフォーマンスを捕らえ、制御しているようにも見えた。しかし、ツアーが進むにつれ吉井のパフォーマンスは解放的になり、プリミティヴに進化していった。そしてエマともごく自然にアイコンタクトを交わしたりセンターに呼んだり、吉井和哉は、やはりエマのギターを必要としていることを再確認したのだろう。この日、「私の左側でギターを弾くのはこの男しかいません!」と2,500人の前での告白した吉井の表情は清々しかった。

1stシングル「TALI」のカップリングに収録されている「スティルアライヴ」は、CDでは吉井の弾き語りだが、今ツアーのアンコールではバンド・スタイルで披露されてきた。<精神ブラックホール>という歌詞の一節は楽曲制作当時の精神状態を象徴しているのであろうが、新しいメンバーと旅をして“まだ、生きている”ことを確かめたライヴのステージで、この歌は、鈍い痛みを伴いながら瘡蓋(かさぶた)が剥がれ落ちるように、しっかりと痕を残しながら新たな面持ちを見せていた。それは言い換えれば、精神ブラックホールにいたYOSHII LOVINSONという権化が、吉井和哉として姿を現したということになるだろう。その姿は、歌うことの使命感を全身に湛えた、自信に満ちた美しい佇まいだった。

「来年はたくさんツアーやります。でもYOSHII LOVINSONとは言いません。(名前は)今考え中です(笑)」とのことなので、その時を期待して待つことにしよう。

文●望木綾子
写真●寺坂雅宗(Sherpa)
この記事をポスト

この記事の関連情報