<Glastonbury '05>神々しいほどの「セヴン・ネイション・アーミー」! ホワイト・ストライプス

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ほぼ一発録音で、作りこまずに瞬間の感性を素晴らしく封じ込めているアルバム音源を聴くたびに、ホワイト・ストライプスほど密室度の高いバンドはいないとどうしても思ってしまう。とはいえ、昨年のフジ・ロックでグリーン・ステージを稲妻のようなギターと鬼気迫る情熱で見事に満たすさまを既に体験させてくれていたストライプス。軽く10万人以上が集結するPyramid Stageに立つことに関しても、観客として何の不安も感じなくていいのがありがたい。むしろ、こちらは無心状態で何が起こるかを待つだけでいい。最新作『ゲット・ビハインド・ミー・サタン』で更なる全身音楽家状態を進めていたストライプスだからこそ、この空気や場所がどういう風にステージの上の「瞬間」の二人と反応してゆくのか、そこから生れ落ちてゆく音の像を誰もが今か今かと待ち構えていた。

とはいえステージ上には、かつてはシンプルにドラム・セットとヴィンテージのピアノが置かれていただけだったのに、今夜はそれ以外にマリンバもあればピアノもいくつか見える。加えて、背後には白いヤシの木と月、そして赤い太陽が描かれた布が張られ、装飾性が高い。そこにパッと客電がともり、ジャックとメグの登場だ。ジャックはカウボーイ風の黒いスーツに黒い帽子で、まるでジョニー・デップのよう。しかし周囲の英国人からは「マイケル・ジャクソンに似てるね」というひそひそ話が……。し、失敬な。一方のメグは赤のタンクに白いパンツがまぶしい。

定位置についた二人、いきなり一曲目は「デッド・リーヴス・アンド・ザ・ダーティー・グラウンド」だ! すでにこの曲を収録した3rd『ホワイト・ブラッド・セルズ』でブルーズ+ガレージという形を完成させていたストライプス、しかし今、この場で視線をときおり交差させながら瞬間を織り込んでゆく演奏は、単なるジャンルとしての「ブルース」や「ガレージ」を超えて曲の内包するエネルギーを最大限まで爆発させてゆく。加えて、早くもこの1曲目でライヴにおけるジャックの声のすさまじさに鳥肌が立つ。感情を込めるとかいう段階ではもはやなく、何かに乗り移られたかのように曲と同化してゆくさまはまさに悪魔に魅入られた男そのもの。ジャックはブルースを捨てたわけではない、ブルースの軸となる「歌」という表現を、ホワイトストライプスの音楽性そのものとイコールにした結果が、あの最新作だったというわけだ。だから古いこの曲でさえ、ギターもドラムもこれまで以上に「歌って」いる。まさに今の彼らを伝えきる1曲目だ。

そして2曲目は、早くも最新作からの「ブルー・オーキッド」! 会場中がリズミカルに体を揺らし、それまでギョッとした表情で魅せられ立ち尽くしていた人たちも気持ちよく歌っている。続く「アイ・シンク・アイ・スメル・ア・ラット」から「パッシヴ・マニピュレイション」に移るところでメグはティンパニに移動し叩きながら歌う。一方のジャックはギターを持ちつつピアノに向き合って。全ての動きが、綿密な計算というよりも何かに魅入られ乗り移られているかのようだ。「レッツ・シェイク・ハンズ」ではメグはもはやトランス状態でドラムを叩いている。ゆらりゆらり、それでいてタイトにビシッとキメるさまからは目が離せない。

息もつかせぬまま立て続けに披露したあと、ジャックは「こんばんは、ようこそ、僕はジャック・ホワイトで彼女は姉のメグ・ホワイトです」と、どこか緊張しているかのような機械仕掛けっぽいMCを入れる。そして、最新作で最もマリンバが響く「ザ・ナース」へ。手拍子が起こるほどにリズミカルで心地良いが、目をこらすとメグはいつのまにか片手をマラカスに持ち替え、マラカスでドラムやシンバルを叩いているではないか! なるほど、最新作のあの多種多様なサウンドはこうやって2人で生んでいたのかと目からウロコだ。他にも「ドアベル」では、メグは鈴付きのスティックでドラムを叩き、シャンシャンという鈴の音とリズミカルなドラムを同時に鳴らしてみせる。一人としてゲストが加わることはない。ジャックもセミアコやマリンバに持ち替えたりと作業的には忙しそうなものを、まるで人間世界とは別の時間軸がステージの上には流れているかのように全てがスムーズに、そうなるべきものとして進んでゆくから壮観だ。

この日のグラストンベリーの会場内では、「この雨はストライプスが悪魔を連れてきたからだね」というジョークを誰もが話していた。が、雨はともかく悪魔は確かに今ここに降りていると思うほどに、2人の演奏は凄まじい。ポップな曲が実は多いストライプスの中でも、ポップ中のポップである「ホテル・ヨーバ」でさえ、ジャックはカッと目を見開き観客を見据える。リズミカルに言葉を紡いでいきつつも、そこにある鬼気迫る迫力はハンパではない。同時にメグは切ないことこの上ない表情で目を閉じてドラムを叩き続け、まさに2人の全身音楽家っぷりに愕然とする。ジャックとメグの全ての動きから、どうにもこうにも目が離せない。

「ジョリーン」はイントロで大歓声が沸き、合唱が起こる。バスドラとタンバリンで愛らしくリズムをとるメグに釘付けの「リトル・ゴースト」は、ラストに二人がコーラスしながら目を見合わせ、照れるように笑うさまが本当にかわいい! そんなプリティさも自然に醸し出す2人だが、こちらはひたすら魅入られ立ち尽くすばかり。ギターは歌い続け、ドラムもそこになくてはならない声を確実に上げ続ける。本編終了後、もちろん盛大なアンコール・コールだ。この凄まじい体験をもっと、もっと――そんな観客に、最後の最後に用意されていたもの。それはギターがまるでベースのごとき低音でうねり続け、にもかかわらずふくよかな後味を残す、神々しいほどの「セヴン・ネイション・アーミー」だった。

文●妹沢奈美

BARKSグラストンベリー・フェスティヴァル特集
https://www.barks.jp/feature/?id=1000008759
BAKRS夏フェス特集2005
https://www.barks.jp/feature/?id=1000010016
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