『ROCK SPIRIT The Golden Age:1967-1984』3世代レビュー

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『ROCK SPIRIT The Golden Age:1967-1984』レビュー
 



一見、このアルバムは、この時代(1967~1984年)に青春時代を過ごした人達へ捧げられた懐かしの名曲集に見える。実際、そうなのかもしれない。でも、このアルバムは、この時代が全く別の時代である私達こそ楽しめるんじゃないかと思う。なぜかって、1967年~1984年の17年間のロック史がこのアルバムには収められているわけで、その長い歴史を1枚のアルバムを聴くことで体感できるのだから。過去の音楽も知りたいという気持ちはあっても、現代の音楽を追いつづけるだけで忙しく、名前は知っているけど聴いたことのないアーティストは山ほどいる。その山頂の部分を崩してくれるのが、このアルバムだ。

まず、このアルバムの好きなところは、HARD SIDEとSOFT SIDEの2枚組で構成されているところ。サウンドのハード、ソフトは去ることながら、私の解釈でいくと、先鋭的で攻撃的な作品が収まっているのがHARD SIDEで、それらの曲のアプローチは、今この時代に聴いても、とても大胆で斬新。そして、いつの時代になっても不変の美しいメロディーが詰まっているのがSOFT SIDEで、それらは時代を感じさせず、今も変わることなく暖かく心に響く。さすが、17年間の間に生まれた無数の曲の中から選りすぐられた曲なだけある。また、同時代を代表するアーティストの曲と並んで入っているからこそ、各アーティストの個性がさらに際立ってくるのも良いところ。どんな時代に、どんな音楽が流れている中で、どんなアプローチをしたのか。それは、そのアーティストを理解するうえにおいて、とても重要なことで、それをこのアルバムは教えてくれる。また、面白い点は、やっぱり今の音楽も昔の音楽に影響されながら進化し、発展しているのだということが実感できる点。ここに選ばれるほどの曲なので、その後の音楽シーンに与えた影響も強いのだろう。あまり古さを感じないのも、今もその影響が残っているからなのかもしれない。そして、その影響を知ることで、そこには存在していない“現代の音”も改めて知ることが出来る。それも素晴らしい経験だ。そうしながら、このアルバムに収められた38曲を聴いてみて、好きな曲もそうではない曲もある。それはそのはず、その時代に青春時代を過ごした人だって、全部のアーティストを好きだったわけがないのだから、それでいいのだと思う。そしてこのアルバムの中で、自然と心に残り、ついつい口ずさんでしまう好きな曲もいくつか見つけた。結局、名曲とは永遠に生き、時代なんかも軽く越えてしまうもので、このアルバムはそんな曲と出会わせてくれる。ぜひみんなにも聴いて欲しい



 



筆者、30半ばを過ぎた女子である。この『ロック・スピリット』なるCDのラインナップを見、そして聴いてみると、嗚呼、背伸びしていたころを思い出すのである。

30代の人にとって、この1973.4年(収録曲発表の平均西暦年)はリアルタイムではない。30代を1966~1975年生まれの人とするならば、リアルタイム年数は-1.6~7.4歳。……ってマイナスってお母さんとお父さんが出会ってないかもしれないじゃないか!

ま、つまりはリアルタイムで聴いていたわけではないってことです。

が、しかし! 音楽大好きで多感なころに“ロック”なるものの洗礼を受けた人ならば、なぜか必ず通っている曲がつまっているのが、この『ロック・スピリット』の曲々。中高校生ではコピーバンドで演奏するならば「スモーク・オン・ザ・ウォーター」(ディープ・パープル)を通り、大学ではスキー場などで「マイ・シャローナ」(ザ・ナック)が延々流れて脳内リピート。さかのぼって幼少期では、近所のませた姐さんから、口から血を吐くジーン・シモンズ(KISS)の写真を見せられ、夜夢に出てきてトラウマになる……なんて曲が全38曲。

……ってリアルタイムで聴いていないのに、どうしてこんなに知っているんだ? そして魅力を感じるんだ!?

やっぱり名曲だからいつもどこかでオンエアされて、それでいて名曲だから1~2度聴いたら覚えちゃっている、そんな曲達なのでしょう。正直、この曲どれも音はスカスカ。今の時代の、緻密にデータ化された音楽に慣れてしまった耳には隙間だらけの楽曲。一瞬違和感を覚えるのだけど、その隙間にその時代の呼吸としての“音”を想像させられる。「この隙間、心もとないから音入れておきますか?」なんてヤワなことはしない。いや、時の人はそんな発想なかった、ってところが本当のところだろう。その無意識にしろ意識的にしろこの音数少なく隙間を作ることが、名曲である事実のほかに、とても大人で、ある種エロティックさまでを感じてしまうわけだ。

この背伸び感。先達の往年の名曲として、30代の人たちはつねに耳で感じ取ってきた。そしてその音に、私たちが30代になって大人になった今も、このCDに登場するミュージシャン達に超えられない“大人”を感じるだろう。細身のジーンズ履いて、髪を伸ばしたり、めいっぱい破顔したり、渋くキメたり……いつまでもロックしているアイコンとしての憧れの大人。みんな、こういうカッコいい大人になれている?



 



40歳代のオヤジが、名曲が詰まったコンピレーション盤を購入する動機というのは3つある。1つは、青春時代に聴いていた楽曲の数々を純粋にもう一度楽しみたいというもの。もう1つは、楽曲に対する思い入れや思い出、そしてそれらの曲解説を若者に向かって思いっきり自慢しながらしたいというもの。そして、他人には秘密にしておきたいのだが、実は収録されている名曲を実はあまり知らないので、このアルバムを聴いて知っていることにしたい。という3つだ。

この3つ目が実は非常に重要。ジャンル分けがなく、ただ単に“洋楽”と呼ばれていた70~80年代の楽曲とはいえ、それらの数々をすべて聴いているわけがない。でも、この時代の音楽は自分のものとして人に話したい。そういう時に重宝するのがコンピ盤なのだ。「ジャニスの祈り」の原題が「ムーヴ・オーヴァー」なのか「ボール・アンド・チェイン」なのか、もしくはシカゴとドゥービーの曲がどちらのものか分からなかったなど、実は知らなかったことを学習できるのもありがたい。そして次第に記憶は再構成され、当時からその曲を知っていたかのような錯覚に陥ってしまうのだ。ま、オヤジの秘密をこれ以上暴露するのはやめよう。とにかく、そういういろいろな楽しみ方ができるというのが、コンピ盤の楽しいところなのだ。

真面目な話、コンピ盤の編者と自分の好みがピッタリ合った時ほどうれしいことはない。この『ROCK SPIRIT』で言うと、「スージー・クアトロ入れるかぁ!」とか「ウィングスは“心のラヴソング”じゃなくて“ジェット”の方を入れるなんて、分かってらっしゃる」「グラファンは“アメリカンバンド”じゃなくて“ハートブレイカー”なんだよね」などと、ラインアップを眺めながらほくそ笑むことができるのは無常の幸せだ。また、ヤードバーズやスティーヴ・ミラー・バンドなんて、日本人にとっては通なところをおさえているのも嬉しい。

それとオヤジに嬉しいのは、歌詞カードにギターコードが付いているということ。耳コピーなんてできなかった往年のギター少年には、これは最高のプレゼント。「錆び付いたグレコのE.ギターを取り出して、20年ぶりにチャレンジしてみようかな」などと気持ちを昂ぶらせてくれるのだ。

とにかく、人によって楽しみ方はいろいろ。黄金期のロックスピリットを思い切り味わいたい。



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