三上ちさこ、彼女の他には誰も表現し得ない世界観、そして最先端の音の塊を持った2ndアルバム『Here』大特集

深淵にそして妖艶に花開いた“三上ちさこ”という名の宇宙

端的に言おう。まぎれもなく、三上ちさこは変革を迎えた。そのキーワードこそは“Here”－－ソロ第２作となるアルバムのタイトル、ずばりそのものである。

かつて、三上ちさこはfra-foa（フラホア）であった。三上ちさこがヴォーカルを務め、最初にわれわれの前に姿を現すきっかけとなったそのバンドが、解散というかたちで活動に終止符を打ったのは2005年、この春のこと。すでにソロとしての1stアルバム『私はあなたの宇宙』をリリースしていたが、それはfra-foaでの活動にに対して、個人としての三上ちさこの別の顔を表現したものだった。

そこでは、三上ちさこは相剋していた。生と死。愛と憎しみ。包容と圧殺。母性と少女性。それら矛盾する要素をたぎらせながら、轟音の中、三上ちさこはそのか細い肉体を奮わせ、骨も砕けんばかりのエネルギーを放射していた。そうやって破滅的なまでに身を焦がすことで、三上ちさこは逆に、いま／ここに生きることの“希望”を歌っていたのだ。

だが、いまは違う。先頃リリースされたセカンドアルバム『Here』は、fra-foaが湛えていた諸々のエッセンスを、痩身の彼女の肉体が一度まる飲みにしたのち、そのすべてを奇跡的に合一せしめて1　枚のアルバムとして吐き出したかのような、融合的宇宙観に満ちている。“fra-foaとしての三上ちさこ”と、“個としての三上ちさこ”はここで合一し、新たなフェイズでその生命を燃やすこととなった。結果、生み出された『Here』。いま／ここで、三上ちさこは自らの存在をありのままにみつめている。“希望”をないものとして求めるのではなく、自ら体現したかのように、シャウトやささやき、すべての声域が丸みを帯び、より研ぎ澄まされたサウンドとの融和が果たされているのだ。

“宇宙観”から“宇宙”そのものへ。その揺るぎない変貌は、ROVOの益子樹などサウンドを支える面々や、アートディレクションや映像、ファッションのコラボレーションで参加する綺羅星のような先鋭クリエイターたちをもおおいに触発しているようだ。そして圧巻なのが、2枚目のDVDとなる『Chisako TVⅡ』。ジャケットのアートワークに続き、先行シングル「相対形」のPVをめくるめく幻惑的デッサンで埋め尽くしたADAPTERやMADKING、GO ISHIZAKIら日本の先鋭たちはもちろん、Kitao Sakurai、Mighty Robot、Frankie Martinといった、海外のエッジィな映像作家からマルチメディア・アーティストに至るまで、その様相はまさに“三上ちさこ”という宇宙を探求する学者たちが、その想いのたけをそれぞれに吐露したひとつの博覧会。前作『Chisako TV』に続き、三上ちさこの楽曲宇宙と最先端のクリエイティヴィティが色とりどりの花を咲かせている。

ソロとして、飛躍的な深化を遂げた三上ちさこ。セカンドアルバム『Here』と先行シングル「相対形」、そしてDVD『Chisako TVⅡ』へ－－五感すべてに訴えるその鮮やかな軌跡は、まさに宇宙のごとく深淵にして、妖艶な魅力に満ちている。

text by Keita Fukasawa