最新作『A GIRL IN SUMMER』を松任谷由実本人が全曲解説!

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07. 虹の下のどしゃ降りで
最初からリズム、メロディに呼ばれて<虹の下で~>という歌詞が思い浮かびました。それから、“虹の下で待ち合わせしましょうというカップルは、どんなふたりなんだろう”って想像を逞しくして、この歌ができあがりました。70年代のモータウンやフィラデルフィア・ソウルのようなR&B/ソウル・ミュージック風やポップス風のものをやろうって。変拍子を工夫しているうちに<シュビドゥビドゥワ>ってコーラスのことを思いついて。ふとしたことで知り合って、約束を交わして、それが自分にとっては大切な人、約束だったってことに気付く。そして、携帯の着信を待ち続けているんだけど……。

着信ひとつで、天国か地獄、って、皆、誰もが経験あることじゃないかな。



08. Escape
最初はストーンズのような曲を書いてたんです。それが、メロディックなロックに変わって、ブラスやホンキートンクやブギタッチのピアノが入って、がらりと違う感じになりました。「これはディック・トレイシーがいいよ!」というプロデューサーの発案で、昔のカートゥーンのようなコミカル・タッチの話の展開。ということから合コンを舞台に、出来上がったカップルが、皆を煙に巻いて、手をつないで飛び出していく。

これは、楽しみながら書きました、と言いたいところですが、それはもうフクザツな課程や作業を経ての結果です!(笑)。でも、出来上がってみたら、ほんとに楽しめる歌でした。



09. Forgiveness
夕焼けを背景にした歌です。「ダンデライオン」(アルバム『VOYAGER』収録)を思い出す人もいるでしょうが、その情景や夕焼けはちょっと違ってます。「ダンデライオン」の時は、赤い夕陽。人影がぐんぐん伸びていくような夕陽でしたが、こでは、雲の間からビームを放っている夕陽のイメージを思い浮かべて。

ふとしたはずみで諍いを起こした幼なじみの子供同士。言い争うふたり。でも、帰り道がわかるあいだに、仲直りしよう、と。微笑ましくて、温かくって、ほのぼのとして郷愁に満ちた情景が思い浮かびますよね。でも、この歌を書きながら、子供同士の諍いの話だけじゃなくて、恋人同士、大人の男女間にだって、それに、仕事の人間関係だって、ありそうなことだと思い描いてました。仲が良ければ良いほど、付き合いが長ければ長いほど、お互い甘えてわがまま言って、頑固として譲らない。言ってしまったらおしまい、という一線を超えてしまえば、もう後戻りは出来なくなる。帰る場所、帰る道を見失ってしまう。互いの立場を理解し、敬意を払い、譲りあい、お互いを思いやる気持ち。大切だし、大事にしたいと思います。宗教、人種、民族の違いから、今、世界の各地で起こっているいさかいのことも頭の片隅にありました。



10. ついていくわ(Album Version)
ドラマ『夢で逢いましょう』のために書いた曲で、出来上がった時はとても気に入ってました。“ついていくわ”という古新しい言葉。とっくに手垢がついていて、今は誰も使わないんじゃないか、ってことから、言葉自体がとても気に入っていたし、インパクトもありました。しかも、ドラマの内容にあわせて、男と女ではなく父と娘の歌、ということで、歌詞にひねりをきかせてもみました。でも、ドラマが終わって、“ついていくわ”というシンプルでダイレクトな言葉から、やっぱり男と女のラブ・ソングかな、って思いはじめて。シチュエーションを改め、歌詞を書き直し、再度この歌に取り組みました。

思い浮かんだのは葉桜のこと。葉の緑、ガクの茶色に近いような赤、ガーネット色ですね。あのグラデーションの美しさ! あれって、絶対に日本の色ですね。結婚という新しい人生のスタートを切ろうというカップル、すでに歩み始めたカップル。共に歩んできた道をふと振り返ってみた中年のカップル、老境に差し掛かった夫婦。これまで歩んできた道、これからもずっと続いていく道。上ったり、下ったりの坂道。新しい「ANNIVERSARY」(アルバム『LOVE WARS』収録)が生まれました。



11. 時空のダンス 試聴はこちらから!
未来カーというテーマをきっかけに、神秘性と幻想的なイメージを重ねあわせて書いたコズミック・サーフィン・ソングです。伝説の波に果敢に挑むサーファーが、荒れ狂う海に立ち向かうように、ひらめきに導かれ、未知の世界に飛び込んで行く。それに愛し合うのは男と女だけでなく、波を抱く、海と、自然と一体化する。そんなエコロジーな意味も思い浮かべました。伝説の波という歌詞ですが、伝説って流布してるものですけど、本当に伝説の波かどうか。“これは凄いかもしれない!”って見極められるのは、自分の中のヒラメキしかない。そのために自分を磨き上げ、努力を重ね、自分を高めていく。

1曲目の「Blue Planet」もそうですが、インナー・ワールドをサーフィンし続けている“脳内サーファー”の私自身を映し出した歌、日頃、考えていることをそのままに歌った歌です。


-BONUS TRACK-

12. Smile again(Yuming Version)
愛知万博(愛・地球博)のスペシャル・ユニットの為に書いた歌です。アジアの歌手と一緒に歌うこともあって、歌い継いでいって、いろんな顔が見えるような作品の構成、それに、歌詞も最初は、啓蒙的な内容のものをって考えていました。でも、伝えるメッセージ、気持ちがわかりあえるには、シンプルな言葉が良い、誰もが共感できることが良いと思って。最初に思い浮かんだのは“I wanna see your smile, again”という言葉。見えてきたのは空港のゲートをはさんだふたりの姿。ゲートは国境の入り口であり出口です。そして、ふたりの仲を裂いてしまうもの。愛し合うふたりが、国籍、政治、民族、宗教に仲を引き裂かれて、別れを余儀なくされることがある。ふたりに降ってかかる現実。ふたりの切実な思いや願い。アジアの歌手たちと一緒に歌う友好、交流、ユナイトすることの意味。同時に、今、私たちが抱えているどうしようもない問題。今だに近くて遠い、アジアの国々。そんなことを思い浮かべながらこの曲を書きました。【了】


   

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