小林武史ロングインタヴュー

――今までに、櫻井さん作詞、小林さん作曲の作品ってありませんでしたよね。

小林武史（以下、小林）：ないですね。

――今作は、二人の中にSalyuさんが加わって、自然にできた楽曲という印象を受けます。

小林：そうですね。自然発生でした。キャンペーン・ソングを作るぞ！みたいなことでもないですし。きっかけはありましたけど、まったく自然の流れだったんです。僕がレゾナンス（共鳴）していく楽曲ができたらいいなと思った次の日に曲の構想ができて、それが結構いいなと思う曲だったんです。そのときにSalyuの声がもう頭に響いていたんですよ。それで、Salyuに仮歌で歌ってみてもらったらバッチリで。そこで櫻井に詞を書いてみないかと提案してみたんです。最初はSalyuヴァージョンしかなかったんですけど、ap bank fesのことも見えかけていたので、みんなで歌える曲にできるよう、櫻井に男パートと女パートに分けてもらいました。当初はみんなで歌うオールスター・ヴァージョンにしようと、アーティストのラインナップや歌う順番も考えていました。

――「We are the world」（※注1）みたいな感じに？
（※注1）1985年に、飢餓に苦しむアフリカを救うために作られたキャンペーン・ソング。マイケル・ジャクソンが中心となり制作された。

小林：そう。でも最初は、僕も櫻井も、Bank Band with オールスター・ヴァージョンのほうが、より伝わるのではないかという認識がありました。エンターテインメントとしては、オールスターのほうが豪華だし、観ていておもしろいんですけどね。でも豪華なものが行き着くところは、国民的なイベントなんですよ。レコード会社やイベント会社の人にも、国民的な行事になるといいですねって言われたんですけど、なんかそこでひっかかるものがあったんです。国民的というと、権威があって立派な感じですよね。もし、そうなったとしても受け皿がap bankじゃないですか。ap bankは、小資本の市民バンクであって、そんなに立派なものでもない。いろんな人と面談して融資して、人との繋がりで成功例を作ることが大切なんです。実際に成功例を作っていかないと、次に道筋ができていかないというのが僕の考えで、意外と地味なものですから。寄付のように国民的行事にすれば、確かに認知度は高まるかもしれないけど、今の段階ではまだ、それは違うと思ったんです。

――たしかに「to U」は、国民的行事を意識した楽曲とは感じませんでした。

小林：ええ。だから、今やれることをまずきちんとやるという意味では、もう１回フェスをやりたいと。ap bankを設立してまだ２～３年なんですけど、いい意味で保守の良さも出てきました。僕は基本的に保守と革新の共存しかないと思っていますから。

――「to U」の“U”は、あなたという意味の「YOU」と宇宙という意味の「Universe」のUということから、すぐ近くから無限大までの飛距離を感じますね。

小林：これは櫻井が考えたんですよ。でも、櫻井から「Universe」が出てくるのも不思議な感じがしますね。どちらかといえば、普段は僕の方が宇宙担当というか（笑）。

――櫻井さんがそこにいるキミって感じですよね。

小林：いいなあ、櫻井は（笑）。

――昨年開催した＜ap bank fes’05＞と今年の＜ap bank fes‘06＞では、ぜんぜん感触が違いますか？

小林：昨年の場合は、アーティストへ出演依頼をしたときに、アーティスト側が、「＜ap bank fes＞に出て欲しいとのことですけど、“ap bank”って大丈夫なんですか？」みたいな感じだったんです。こちらも実績がなかったので、先も何も見えていなかったんですけど、ちゃんとap bankとは何かというところから説明をして。そういう前提で依頼していましたね。でも今年は、そういう意味ではみなさんわかってくれていますね。

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