増田勇一のライヴ日記【3】2007年5月24日(木)ストーン・サワー/ウォールズ・オブ・ジェリコ@渋谷・クラブクアトロ
東京がほぼ真夏に等しい暑さに見舞われたこの日、クラブクアトロは高温多湿の亜熱帯状態となった。ものすごい発汗量。ああ、着替え持ってくるんだった。
ストーン・サワーは、説明するまでもなくスリップノットのフロントマンであるコリィ・テイラー率いる5人組。もはやサイド・プロジェクトとか“もうひとつのバンド”といった呼び方が相応しくないこともBARKS読者はご存知だろう。昨年夏の『サマーソニック06』にも出演を果たしていた彼らだが、今回、初の単独来日公演が実現した。
“単独”とはいえ、今回、彼らは強力な援軍を伴っていた。デトロイト出身のハードコアなメタル・バンド、ウォールズ・オブ・ジェリコがオープニング・アクトに起用され、初めて日本の土を踏むことになったのだ。参考までに両者は、昨年夏に全米規模で展開されたKORN主宰による『THE FAMILY VALUES TOUR 06』でもロードの生活をともにしている。
ちなみに僕自身も昨夏は、同ツアーに参加したDir en greyに同行してアメリカに渡り、両バンドのライヴは何度も観る機会があったのだが、ストーン・サワーの強力さについては周知の事実だろうからともかく、ウォールズ・オブ・ジェリコのインパクトにはかなりの衝撃を受けたものだ。
彼らは全10組の出演者のうち一番手で、いつも演奏するのは午後2時台。真夏の炎天下で、しかも客席はまばらにしか埋まっていない状態。それでも連日、まるで数万人の観衆と対峙しているかのようなハジケっぷりをみせていた紅一点のキャンダイス・クシュレイン(vo)を牽引車としながら、彼らは“これでもか!”というくらいにストレートのみの全力投球を重ねていた。
で、当然ながらこの夜も彼らは豪腕から直球ばかりを投げ続け、クラブクアトロの決して広くないフロアに出現したモッシュの輪は回転を速めていくいっぽうだった。この夜のパフォーマンスをもって、彼らは日本での“次”の展開への切符を手に入れたんじゃないだろうか。35分ほどの持ち時間を消化して満足そうな顔を浮べて去ったあと、客席の様子を撮ろうとカメラを下げてふたたびステージ現れたキャンダイスの、ライヴ中の勇ましさとは対極のキュートさもまた印象的だった。
そして15分間ほどのインターヴァルを挟み、この夜のメイン・ディッシュであるストーン・サワーが登場。暗転した場内に流れるのはヨーロッパの「ファイナル・カウントダウン」。身構えていた全身から、一瞬、力が抜ける。が、これが彼らのオープニングSEなのである。で、ここで気を抜いたりすると、オープニングの「30/30-150」に秒殺されることになる。バネのような躍動感に貫かれたバンド・サウンドの上で、コリィの声が仁王立ちする。しかもコリィはいつのまにか短髪になっていて、ステージに登場した時点ですでに上半身ハダカ。明らかに戦闘モードである。
しかし特筆すべきなのは、彼らの展開する“闘い”が、シビアな激しさを伴っていながらも過剰な深刻さとは無縁のものだということ。いわばストーン・サワーは、強く、激しく、そして楽しいバンドなのである。たとえばそれは、コリィの歌声や存在感とも直結している気がする。誤解を恐れずに言えば、彼の声はそれ自体が非常にキャッチーなのである。歌声そのものに耳を惹きつける力があり、歌いまわしのひとつひとつがフックになっている。そしてその声はヘヴィ・チューンの音の壁に埋もれてしまうことがなく、哀愁味漂う楽曲でも必要以上の悲壮感や重苦しさを伴うことがない。もちろんスリップノットでの盟友でもあるジェイムズ・ルートの流麗なギターワークや、ロイ・マヨルガ(元ソウルフライ)の強靭かつしなやかなドラミングに支えられたバンド・サウンド自体がストーン・サワーの魅力ではある。が、敢えて僕は言いたい。やはりコリィの声そのものが最大の財産なのだ、と。
具体的な演奏内容などについては、今後、各雑誌等に掲載されるであろうライヴ・レポートをお待ちいただくとして、ひとつだけコリィの幅広い音楽趣味をうかがわせる逸話を。
この夜のステージ後半、弾き語りでのパフォーマンスを披露してくれた彼だが、その際、イントロダクションの部分で少しだけ歌われていたのは、クリス・アイザックが1991年にヒットさせた「ウィキッド・ゲーム」。そして、終演直後に場内に流れた場違いなくらい陽気なBGMは、1978年に映画『グリース』のサウンドトラック・アルバムから生まれたジョン・トラボルタとオリビア・ニュートン・ジョンのデュエットによる全米No.1ヒット、「愛のデュエット」である。ま、そんなところに着目している観客も珍しいのだろうが、やはり一筋縄ではいかないこの男の“歌好き”な一面を物語っている気がする。で、そんなところに僕は、とても強い興味と共感をおぼえてしまうのである。
というわけで、ストーン・サワーの“次”の話題も、また近いうちにお届けするつもりだ。お楽しみに。
文●増田勇一
■「 ストーン・サワー2007年5月24日(木)@渋谷・クラブクアトロ~写真編~」はこちら
https://www.barks.jp/feature/?id=1000031833
■クリエイティブマン
http://www.creativeman.co.jp/index.html
■ストーン・サワー・オフィシャルページ
http://www.stonesour.com/
■ウォールズ・オブ・ジェリコ・オフィシャルページ
http://www.allhailthedead.com/
ストーン・サワーは、説明するまでもなくスリップノットのフロントマンであるコリィ・テイラー率いる5人組。もはやサイド・プロジェクトとか“もうひとつのバンド”といった呼び方が相応しくないこともBARKS読者はご存知だろう。昨年夏の『サマーソニック06』にも出演を果たしていた彼らだが、今回、初の単独来日公演が実現した。
“単独”とはいえ、今回、彼らは強力な援軍を伴っていた。デトロイト出身のハードコアなメタル・バンド、ウォールズ・オブ・ジェリコがオープニング・アクトに起用され、初めて日本の土を踏むことになったのだ。参考までに両者は、昨年夏に全米規模で展開されたKORN主宰による『THE FAMILY VALUES TOUR 06』でもロードの生活をともにしている。
ちなみに僕自身も昨夏は、同ツアーに参加したDir en greyに同行してアメリカに渡り、両バンドのライヴは何度も観る機会があったのだが、ストーン・サワーの強力さについては周知の事実だろうからともかく、ウォールズ・オブ・ジェリコのインパクトにはかなりの衝撃を受けたものだ。
彼らは全10組の出演者のうち一番手で、いつも演奏するのは午後2時台。真夏の炎天下で、しかも客席はまばらにしか埋まっていない状態。それでも連日、まるで数万人の観衆と対峙しているかのようなハジケっぷりをみせていた紅一点のキャンダイス・クシュレイン(vo)を牽引車としながら、彼らは“これでもか!”というくらいにストレートのみの全力投球を重ねていた。
で、当然ながらこの夜も彼らは豪腕から直球ばかりを投げ続け、クラブクアトロの決して広くないフロアに出現したモッシュの輪は回転を速めていくいっぽうだった。この夜のパフォーマンスをもって、彼らは日本での“次”の展開への切符を手に入れたんじゃないだろうか。35分ほどの持ち時間を消化して満足そうな顔を浮べて去ったあと、客席の様子を撮ろうとカメラを下げてふたたびステージ現れたキャンダイスの、ライヴ中の勇ましさとは対極のキュートさもまた印象的だった。
そして15分間ほどのインターヴァルを挟み、この夜のメイン・ディッシュであるストーン・サワーが登場。暗転した場内に流れるのはヨーロッパの「ファイナル・カウントダウン」。身構えていた全身から、一瞬、力が抜ける。が、これが彼らのオープニングSEなのである。で、ここで気を抜いたりすると、オープニングの「30/30-150」に秒殺されることになる。バネのような躍動感に貫かれたバンド・サウンドの上で、コリィの声が仁王立ちする。しかもコリィはいつのまにか短髪になっていて、ステージに登場した時点ですでに上半身ハダカ。明らかに戦闘モードである。
しかし特筆すべきなのは、彼らの展開する“闘い”が、シビアな激しさを伴っていながらも過剰な深刻さとは無縁のものだということ。いわばストーン・サワーは、強く、激しく、そして楽しいバンドなのである。たとえばそれは、コリィの歌声や存在感とも直結している気がする。誤解を恐れずに言えば、彼の声はそれ自体が非常にキャッチーなのである。歌声そのものに耳を惹きつける力があり、歌いまわしのひとつひとつがフックになっている。そしてその声はヘヴィ・チューンの音の壁に埋もれてしまうことがなく、哀愁味漂う楽曲でも必要以上の悲壮感や重苦しさを伴うことがない。もちろんスリップノットでの盟友でもあるジェイムズ・ルートの流麗なギターワークや、ロイ・マヨルガ(元ソウルフライ)の強靭かつしなやかなドラミングに支えられたバンド・サウンド自体がストーン・サワーの魅力ではある。が、敢えて僕は言いたい。やはりコリィの声そのものが最大の財産なのだ、と。
具体的な演奏内容などについては、今後、各雑誌等に掲載されるであろうライヴ・レポートをお待ちいただくとして、ひとつだけコリィの幅広い音楽趣味をうかがわせる逸話を。
この夜のステージ後半、弾き語りでのパフォーマンスを披露してくれた彼だが、その際、イントロダクションの部分で少しだけ歌われていたのは、クリス・アイザックが1991年にヒットさせた「ウィキッド・ゲーム」。そして、終演直後に場内に流れた場違いなくらい陽気なBGMは、1978年に映画『グリース』のサウンドトラック・アルバムから生まれたジョン・トラボルタとオリビア・ニュートン・ジョンのデュエットによる全米No.1ヒット、「愛のデュエット」である。ま、そんなところに着目している観客も珍しいのだろうが、やはり一筋縄ではいかないこの男の“歌好き”な一面を物語っている気がする。で、そんなところに僕は、とても強い興味と共感をおぼえてしまうのである。
というわけで、ストーン・サワーの“次”の話題も、また近いうちにお届けするつもりだ。お楽しみに。
文●増田勇一
■「 ストーン・サワー2007年5月24日(木)@渋谷・クラブクアトロ~写真編~」はこちら
https://www.barks.jp/feature/?id=1000031833
■クリエイティブマン
http://www.creativeman.co.jp/index.html
■ストーン・サワー・オフィシャルページ
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■ウォールズ・オブ・ジェリコ・オフィシャルページ
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