杉真理、『魔法の領域』特集内インタビュー

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――竹内まりやさんが詞を書いた3曲目「僕らの日々」なんかも、そういった過去や仲間たちへの愛情にあふれて、とても愛おしく感じました。

杉:あ、ホント? でも、僕なんて洋楽志向でサウンド志向だったから、昔は自分のことなんて書きたくなかったんですよ! 生き様なんて言葉は大嫌いだった。それが30代後半以降、“自分や周りの人に起きたこと、感じたことを書くのは楽しいな”って思い始めたんですよね。例えば6曲目の「マイルドでいこう」は、さっきも言った通り“大人になるのは素敵なことだよ”ってことが言いたくて伊藤銀次さんと歌った曲だし。9曲目の「Chapel in the sun」は、僕が通ってた福岡の西南学院高校の名物チャペルが取り壊されるっていうんで、僕と姫野達也さんがデュエットするためにテレビ番組で依頼された曲なんですね。だけど、その曲を作ったときに、僕がお世話になったラジオ局の方でチューリップの育ての親でもある岸川さんって方が亡くなったんですよ。しかも岸川さんは、番組で一緒に歌った西南学院のグリークラブのOBだったという。

――不思議な巡り合わせが、沢山あったと。

杉:うん。その曲を作ったおかげで、僕はチャペルと岸川さんに“ありがとう、さよなら”が言えた気がしたんですよね。あと11曲目の「君にしてあげられること」は、12年くらい前にミミードライっていうキャットフードのCMで歌った曲で。当時、猫を3匹飼ってたから、ギャラの他にそのミミードライを何袋かくれるっていう約束を取り付けて曲を書いたのに、なぜかウチの猫食べなかったんですよ! でも、その子が亡くなったときに、その歌を歌ったカセットを一緒に燃やしたんですけどね。だから、これはウチの歴代の猫を思い出す曲(笑)。

――小学校、高校、大学、そして今。さまざまな時代の思い出が綴られた、ある意味時間旅行みたいなアルバムですよね。

杉:そうだよね。例えばこのジャケットにしても、飛行機に乗ってる大人と子供は、もしかすると昔の僕と今の僕かもしれないし、親父と子供の頃の僕かもしれないし、今の僕と息子かもしれない。ホント、ギリギリ間に合ったとは思えないくらい、作品内容にピッタリのジャケットですよ。

――そうやって多様な受け取り方ができる……つまり曲に描く材料が増えたり多彩になってくということが、年を重ねていくことの醍醐味なのかもしれない。

杉:30年くらいじゃ極められないのがポップスだからね。僕なんかいまだに譜面は弱いし、初見も全然できない(笑)。でも、僕の先生であるビートルズも勘だけであれだけ良い曲を作ってきたんだから、もしかしたら僕にもできるんじゃないかと思って、30年やってきたんですよ。つまり勘を大事にしてる人が、僕にとってのロックなんですよね。降ってきたものを処理するのは頭だと思うけど、あんまり考えすぎるとインスピレーションは沸いてこないし、魔法も降ってこない。たとえファンや時代が望むこととの接点が見出せなかったとしても、せっかくいただいたインスピレーションを自分でボツにするのは……ちょっとパイプが詰まるような気がして。“ボツにするのはディレクター、俺はボツにしないよ”っていうスタンスを30代後半から取り始めたら、すごく曲を作るのが楽しくなってきたんです。

――40周年、50周年と、そのスタンスは今後も変わらず?

杉:どうでしょうねぇ。まだまだ自分も縛られてる部分があると思うんで、もっと炸裂したい(笑)。で、10年後に“あのときはわかったような口利いてたよな”って言えるようになりたいなと。年取って縛られてたらカッコ悪いじゃん? 子供の頃にやってた遊びを、もっと深くやれば、もっと楽しい。

――それが最初に仰ってた“完成された子供”になるってことですよね。

杉:そう! 昔、長寿記録を作った泉重千代さんって人がいたじゃない? あの人がインタビューで“UFOがいるかいないかさえわかんないし、世の中のこともっと知りたいよね”って言ってるのを見たとき、“この人カッコイイな”と思ったんだよね。その好奇心がオーラに出てて、そういうのが120歳まで生きられる秘訣なんじゃないかなと。よく言うじゃないですか?“直感は間違えない。判断が間違えるんだ”って。ホントにその通りだと思うから、これからもインスピレーションを大切に生きていって、150歳くらいまで頑張りたいですよね(笑)。

取材・文●清水素子

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