増田勇一のライヴ日記 2008年3月4日(火)クイーンアドリーナ@東京・原宿アストロホール

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ものすごく消耗度の高いライヴだった。もちろん良い意味で、である。気力とか体力といったものが、ステージ上のバンドに吸い取られていくような感覚。そんな独特の陶酔感をクイーンアドリーナの初来日公演は味わわせてくれた。で、かなり気が早いけれども敢えて言ってしまおう。これは間違いなく今年のベスト・ライヴ候補のひとつになるはずだ、と。

ものすごく正直に言うと、彼らのライヴを日本で観られる日が来るとは思っていなかった。もちろんこのバンドの前身にあたるのが、かのデイジー・チェインソーであることを持ち出すまでもなく、ケイティ・ジェーン・ガーサイドとクリスピン・グレイのコンビが作り出す音楽が特定のファン層から致命的なほどに愛されていることは認識していたし、2000年発表の名作『タクシダーミー』以来、新譜が出るたび常に聴きあさってきた身としては、来日公演の実現を願ってきたのも事実ではある。が、どこかで僕はこのバンドについて、まるで現存しないリアルじゃないもののように解釈していたようなところがあった。だから特に理由もなく、ずっと観られないのが当然だと思っていたのだ。

もうひとつ正直に認めてしまうと、そんな認識をしていたくらいだから、僕はクイーンアドリーナに“いいバンド”であることなどまったく求めていなかった。しかし結果、超満員札止めとなったアストロホールの酸欠空間で証明されたのは、彼らが理屈抜きにすごいライヴ・アクトであるということ、そして、思いがけないほどに“いいバンド”であるということだった。

いったい正気と狂気とが、どれぐらいの割合でせめぎあっているのだろう? ケイティの圧倒的なヴォーカリゼイションを含むステージ・パフォーマンスは、ベタな言い方をすれば“常軌を逸している”としか思えないものだったが、同時に、冷静さと抑制力なしには成立不能なものとも思えた。アストロホールのステージは残念ながらあまり高くないため、彼女の一挙手一投足のすべてをこの目で確認することはできない。が、大抵の場合はそんな状況下にあれば最初から観ることを諦めようとするはずなのに、常に目がケイティの像を追い駆けてしまう。ただ、そこで視線が絡みあったりしようものなら、瞬時にして自分は石になってしまうんじゃないかというほどの緊迫感がそこにある。ことに最後の最後、ステージからフロア全体を見下ろすようにしながら彼女が浮かべた微笑は強烈だった。完全に“征服された”と僕は感じた。

そして重要なのは、ある意味この世のものと思えないようなそうした情景に伴っているのが、機能的かつ鋭利に研ぎ澄まされたバンド・サウンドだということ。冒頭、クリスピンのギターがトラブルに見舞われ、ほぼ1曲を通してギターレスに近い音像が続くことになったが、そこで逆に気付かされたのが、現在のリズム・セクションの充実ぶりだった。実はこのライヴに先駆け、クリスピンと話す機会を得たのだが、彼自身もバンドの現状に満足しており、ずっと不安定な状態の続いていたリズム・セクションについても、「この顔ぶれのまま続けていきたい」とのことだった。そしてさらに、ケイティとも話をすることができたのだが、実はこれが“普通のインタビュー”ではない。どういう意味なのかは敢えて伏せておくことにする。おそらく4月上旬にはBARKS読者の皆さんにもお届けすることができるはずなので、楽しみにしていて欲しい。

ところで、最後に蛇足を承知で少しだけ補足。彼らの最新アルバム、『ライド・ア・コック・ホース』は、たまたま最近になって発掘された『タクシダーミー』制作当時のデモ音源にクリスピンが手を加えて作品化したものであり、いわゆる純然たる新作というのとはややニュアンスが異なっている。もちろんファン必携のアイテムであること、このバンドの“核”を改めて教えてくれるような興味深さのある作品であることは間違いないので、改めて一聴をおすすめしておきたい。わざわざこんなことを書こうという気になったのは、雑誌によってはそうした事実関係を確認するまでもなく処理したとしか思えないようなアルバム評が掲載されていたりもするから(仮に資料が間に合わなかったとしても、いくつかの収録楽曲が初期アルバムと重複しているから聴いていて気がつくはずなのだけども)。

ちなみに次なるオリジナル・ニュー・アルバムも、9月頃の発表を目標に制作が進められているとこのこと。その新作を引っさげての、2度目の来日公演の近日実現を心から望みたい。

増田勇一

編集部註:ライヴ写真が到着次第、こちらへ掲載いたします。お楽しみに。
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