増田勇一のライヴ日記 2008年8月15日(金)新生アンスラックスお披露目@川崎・CLUB CITTA

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1980年代、メタリカにスレイヤー、メガデスと共に『スラッシュ・メタル四天王』などと並び称されていたアンスラックス。近年のこのバンドは細かい人事異動を繰り返していて、“出戻り”も全然アリだし、2006年の<LOUD PARK>には“当時の顔ぶれ”での出演を果たしていたりもする。が、同ラインナップの復活はあくまで“期間限定”のものだった。それから約2年を経て実現した、今回のたった一夜かぎりの来日公演で、このバンドを象徴する存在であるスコット・イアンと共にギターを弾いていたのは、ダン・スピッツではなくロブ・カッジアーノ。言うまでもなく現時点での最新オリジナル・アルバムということになる『ウィ・ハヴ・カム・フォー・ユー・オール』(2003年)にも参加していた人物だ。そしてフロントマンを務めていたのは、ジョーイ・ベラドナでもジョン・ブッシュでもなく、ダン・ネルソンという男。正真正銘の“新メンバー”である。

今回の公演は、いわゆる長期的なツアーの一貫としてのものではなく、その新ヴォーカリストの“お披露目”的なもの。実際、去る5月下旬には、シカゴでのウォームアップ・ギグを皮切りに、アイアン・メイデンのサポート・アクトを数公演で務めていたりもするのだが、このラインナップでのステージは、彼らがいわゆるシークレット・ギグでも行なっていないかぎり、この川崎公演でようやく通算5本目ということになる。いわばダン・ネルソンはまだアンスラックスに染まりきっていない状態にあるはずで、このライヴは日本の熱心なファンに対しての“お披露目”であるだけじゃなく、バンド自身にとっての“試運転”の機会でもあるのだろう。なかには機が熟してから新生アンスラックスを観たいという人もいるはずだが、僕はむしろ逆に、このタイミングでしか体験できないはずの、まだ手さぐり状態にあるアンスラックスの“今”を味わっておきたかった。

◆アンスラックス@川崎・CLUB CITTAライヴ写真

pix by Masayuki Noda
前置きはこれぐらいにして肝心のライヴそのものの話をすると、これが期待以上の内容だった。当然ながら目と耳は、初めて対峙する“見慣れたバンドの見慣れないフロントマン”を追うことになるわけなのだが、ダン・ネルソンはまずそのゴツい風貌からして過去のアンスラックスにはいなかったタイプ。前述のアメリカでのライヴから、彼らはバンドとしての結束を強調するかのように揃いのオリジナルTシャツをステージ・コスチュームにしているのだが、明らかにダンだけはサイズが違うという感じ。で、肝心の歌声については、「ジョーイ・ベラドナ期の楽曲はジョン・ブッシュ以上に似合う気がするし、ブッシュ期の曲はごく自然に聴こえる」という、まさにこのバンドが喉から手が出るほど欲していたはずのもの。おそらくスコットあたりは、電圧の違う国でもそのまま使える万能プラグみたいな“使い勝手の良さ”を彼の声に感じているんじゃないだろうか。

さらに具体的に言うと、僕のダンに対する第一印象は「ベラドナよりもずっとブッシュに近い」だったのだが、曲を重ねるごとに強まってきたのは「それよりももっと、フィリップ・アンセルモに通ずるものがある」という解釈。それが確信に変わったのは、アンコールでパンテラの「ニュー・レヴェル」が披露されたときのことだ。その、あまりにもしっかりとオリジナルを踏まえたヴォーカル・パフォーマンスから、僕には、この日に演奏されたどんなアンスラックスの代表曲よりも多い回数、彼が過去にこの曲を歌ってきたであろうことが推察できた。しかし、重要なのはそんなことではなく、アンスラックスが「歴史を殺すことなく、しかもバンドを新たな領域へと進ませることが可能なヴォーカリスト」を手に入れた事実だろう。終盤で披露されたオールドスクールでありつつ新鮮な印象を持った新曲も、それを裏付けていた気がする。

もちろんダン・ネルソンが完全無欠だったわけではなく、単純に言えば、まだまだ“アンスラックスならではの間合い”のようなものを身につけているとは言い難い状態にあったし、MCに入るタイミングの悪さなどは改善が求められるべきところではある。が、その種のことは何よりも時間が解決してくれるはずだし、「2009年の3月頃までにはニュー・アルバムを出して、できるだけ早く日本にまたやって来たいし、<LOUD PARK>にもまた出たい!」というスコットの言葉を信じて、次のアルバム、次のツアーを待ちたいところだ。そこで間違いなく、新生アンスラックスは飛躍的な進化をカタチにしてくれることだろう。それを体感できる瞬間を、今から楽しみにしていたい。

最後に余談。帰り際、知人と、ダン・ネルソンについて「なんだか“人のいいフィリップ・アンセルモ”という感じ」などと印象を言い合っていたところ、後日、べつの知人から「なんかアンセルモとアンドリューW.K.を足して2で割ったような外見でしたね」とのメールが。なるほど、確かにそうかも。ちなみにダンの個人バイオには、“好きなバンド”としてアンスラックス、メタリカ、パンテラの名前が挙げられ、“好きなアルバム”のなかにはパンテラやダウン、アリス・イン・チェインズなどの作品が名を連ねていたりする。

そして、もうひとつ。文中、ダンの話にばかり終始して演奏面についてまったく触れてこなかったが、それは、わざわざ文字にするまでもなく、タイトで強靭な演奏と、運動量充分なパフォーマンスを堪能することができたからに他ならない。重さよりも切れ味で勝負するチャーリー・ベナンテのドラミングも心地好かったし、最後の最後、たくさんのピックを撒き散らすスコットの姿に、僕はこれまでにも何度か感じてきたことを、また口走りたくなってしまった。「んー。やっぱりこの人は、メタル界のリック・ニールセンだ!」

増田勇一
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