ロンドン・エレクトリシティ、予測の付かない進化サウンド

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ハウスやテクノ、またはダブにアグレッシウなブレイクビーツが合流し、UKを中心に独特の進化をとげているドラムン・ベース。90年代の後半、そこにジャズやソウルの要素を大幅に取り込み、踊らせるばかりじゃなく、“聴き込める音楽”としてリバースさせたのが4ヒーローであり、ロニ・サイズであり、ロンドン・エレクトリシティだった。

そして2000年代の半ば、ロンドン・エレクトリシティはドラムン・ベースに新たなヴィジョンを注入した。ロックバンドの向こうを張るドライブ感を生バンド化によって実現。さらに大胆なオーケストレーション駆使したシンフォニックなサウンドを合流させ、圧倒的な臨場感とポップネスを備える新次元のドラムン・ベースを生み出した。

それから約3年のインターバルを経て、新作『Syncopated City』がリリースされた。プロジェクトを動かす中心人物、トニー・コールマンが意図するネクストとは? ロックやソウル、または映画音楽の豊富なバックグラウンドを反映させてドラムン・ベースを改革し続ける、トニーならではの創意を訊いた。

──前作のリリースからしばらく間があいていますが、今回の制作はどんな様子でしたか?

トニー・コールマン:確かに、時が経つのは早いよね! それはともかくとして、2007年はこのアルバムに集中しようとDJをしなかったんだよ。ただ当初は半年で作ろうとしたんだけど、首の調子がすごく悪くなって(手術もしたんだけど)、結局制作に1年かかってしまったんだ。あれこれあったけどね。結果としていいアルバムに仕上がって良かったよ!

──制作の環境に変化はあったんですか?

トニー・コールマン:いいや、前の『Power Ballads』と同じで自宅のスタジオで録ったよ。楽器やレコードなどに囲まれながらできるから僕には自然なんだ。いつでも作業できるし。創作プロセスで前作と明らかに変わったと言えば、精神面かな? 今回はとてもリラックスしているんだ。『Power Ballads』のときはロンドン・エレクトリシティのライヴツアーの最中に並行して制作をしていたんで、非常にタイトなスケジュールだったからね。考えてみると前回のライヴは2005年の12月だけど、今はツアーがあることによって感じてしまう制作への不安もないし、今作はゆっくりと作業ができたんだ。

──『Syncopated City』という、アルバム・タイトルに込められた意図を教えて下さい。

トニー・コールマン:コール・ポーターが書いた、「Fascinating Rhythm」っていう有名な曲を知ってる? その曲のタイトルだけど、実は当初ポーターは「Syncopated City」というタイトルにしたかったらしいんだ。ただ当時の担当出版社が「抽象的で分かりづらいから、もっと分かりやすくしたら?」と進言したらしく、やむなく「Fascinating Rhythm」にしたという話を彼の伝記で読んでいたんだ。それ以来、僕はこのタイトルをずっと使いたかったんだよ。

──今回は生音の感触が心地よく感じましたが、その点はどうですか?

トニー・コールマン:そうだね、ギターを多用したいという気持ちはあったよ。1996年の「Sister Stalking」という曲以降、ギターを使っていなかったからね。なので、このアルバムでは、自分の過去から現在にある、様々なメロディーを試してみることができとも思っている。とても楽しめたね。

──あたらしく挑戦的なアプローチで作った曲はありますか?

トニー・コールマン:「Syncopated City Revisited」はこれまでになかった過程だったね。リアンのヴァーカルを録ったのが、実は2002年なんだけど、2008年になって仕上げるまで、この曲には一切手を付けていなかったんだ。5/8拍子でbpm200の曲なんだけど、非常に複雑だしね。ただ仕上がりはバッチリになったし、すごく満足しているよ。「Just One Second」も新しい試みかも。だって、フリードウッド・マックのようなウエストコースト・ロック風のサウンド、もしくはちょっとステレオラブ的なサウンドをドラムン・ベースに取り込んだんだ。そんな音聴いたことないだろ?

──さまざまなプレイヤーたちが参加しますが、人選はどのような意図できまりましたか?

トニー・コールマン:そうだね、このアルバムでは、リアン・キャロルとエルザ・ヘドバーグ(※スウェーデン出身:スウェル・セッションなどで歌っている)を起用したんだ。もちろん、野宮真貴も忘れてはいけないね。それは純粋に、彼女達の声が好きだからさ。真貴も本当に良かったと思ってるし、「Just One Second」(日本語ヴァージョン)の疾走感に重要な役目を果たしているギターを生かしながら歌ってもらったことにとても感激しているよ。リアンとはもう長いことやっているね。12年にもなるよ。エルザについては、いつか一緒にやってみたかったシンガーだったんだけど、バッチリはまってすごく満足しているよ。ストリングスとホーンを担当してもらった、ギャラクティカ・オーケストラも忘れてはいけない。彼らのことはもう20年くらい知っているけど、オーケストラのパートはいつも彼らを起用しているんだ。そしてドラムは今回、ビッグ・ファット・ドラマーにたたいてもらったんだけど、本当にいいドラマーだよ。

──歌詞では、どのようなテーマを扱っていますか?

トニー・コールマン:これまでリアンとは様々な曲を書いて来たけど、今回は、例えば「This Dark Matter」や「Point of No Return」では強迫観念的な失恋について書いているんだ。何故そういった流れになったのかは分からないんだけど、僕が書いた曲の雰囲気が自然とそういう詞の方向に向かわせたんだと思うよ。また、「Dark Matter」のトラックは、007のサントラのような感じだから、何かパワフルな感じを入れたかったんだよね。「Just One Second」は全てがひとつになる時の流れの中のひとときを表現したんだ。そう、人生における美しい瞬間というか。基本はエルザの作詞だけど、僕が1ヵ所アイディアを出して書き上げたんだ。

──ドラムン・ベースとシンフォニックなサウンドを融合させるロンドン・エレクトリシティらしいサウンドは今回も健在ですね。

トニー・コールマン:僕はもともと、豊かな音像と面白い和声がとても好きだし、オーケストラの叙情性も外せないからね。だからこそロンドン・エレクトリシティのような楽曲が仕上がるんだよ。

──では、最後にロンドン・エレクトリシティのファンは、今、あなたの音楽に何をもとめていると思いますか。

トニー・コールマン:そうだね、おそらくロンドン・エレクトリシティのファンは、従来の音楽とは一線を画す音楽を好む傾向があるんじゃないかな? 僕はいろいろな音楽に多種多様な発見をすることが好きなんだ。予測の付かない音、自分を驚かせてくれる音。そうといったところが僕の理想の音楽のひとつではあると思うよ。ちなみに僕はフロア向けではなく、リスニングタイプの曲を作る方が好きだね。もちろん、ロンドン・エレクトリシティの音楽は進化し続けているよ!

インタビュー・文●shuichi iketani

<LONDON ELEKTRICITY“Syncopated City”release tour in Japan '08 feat. LONDON ELEKTRICITY & MC WREC>
2008年12月19日(金) 大阪:TRIANGLE (06-6212-2264)
2008年12月20日(土) 東京:UNIT (03-5459-8630)
2008年12月22日(月/祝前日)広島:CLUB CHINA TOWN (082-247-5270)
◆DRUM & BASS SESSIONSウェブサイト
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