『ダーク・ホース』という名の本命、ニッケルバック新作登場

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ロックの強力新譜リリースが相次ぐ今日この頃。アメリカでもメタリカやAC/DCの最新作が発売後まもなくあっさりと“百万枚超え”を果たしたことで、「時代はロックへと揺り戻されつつある!?」なんてことが音楽業界内のみならず一般レヴェルでも囁かれている。で、そんな状況を決定付けるのが日本でも11月22日に発売が迫ってきたガンズ・アンド・ローゼズの『チャイニーズ・デモクラシー』だというのが大方の見方ではあるのだが、実は同作には超強力な対抗馬が存在するのだ。

それは、言うまでもなくニッケルバックの新作『ダーク・ホース』のこと。日本でも11月19日に発売されるこのアルバムは、カナダのヴァンクーヴァーを拠点とするこのバンドにとって、いわゆるメジャー・デビューから数えて第5作目(通算第6作)にあたるもの。2001年発表の『シルヴァー・サイド・アップ』が出世作となり、全米チャート初登場で2位を獲得した同作は、その後も30週間にわたってトップ25にランクされ続けるという快挙を達成。結果、アメリカだけでも600万枚以上、全世界では1,000万枚を超えるセールスを記録している。

が、もちろんニッケルバックが“一発屋”なんかじゃなかったことは言うまでもない。その後も『ザ・ロング・ロード』(2003年)、『オール・ザ・ライト・リーズンズ』(2005年)とメガ・ヒットを連発し、今日に至るまでの全世界でのアルバム総売り上げは2,700万枚に達しているというのだから凄まじい。しかしこの3年ぶりの新作、『ダーク・ホース』の登場によって、彼らのセールス実績が3,000万枚の壁を超えるのは時間の問題ということになるだろう。

いわばアルバム・チャートの“本命”であるニッケルバックが、自身の作品をこんなふうに名付けること自体がまず興味深い。そしてもうひとつ着目すべきなのは、今作で彼らが共同プロデューサーとして起用しているのが、かのマット・ラングだという事実だ。かつてはロバート・ジョン“マット”ラングという長い名前でのクレジットでお馴染みだった彼は、デフ・レパードやAC/DC、ブライアン・アダムス、フォリナー、さらには彼自身の奥様でもあったシャナイア・トウェインなどとの仕事であまりにも有名な人物。もちろんニッケルバックのサウンド・スタイルはとうに確立されたものであるだけに、どんなに著名なプロデューサーと組もうと極端な変化が生じることはないわけだが、この『ダーク・ホース』ではニッケルバックとマット・ラング双方の“らしさ”が、どちらも存分に活かされていて、実に興味深い。

マット・ラングの得意技としては、たとえばデフ・レパードの『ヒステリア』などで聴くことができる分厚いヴォーカル・ハーモニーの多用などがあるが、本作でもそれは随所で聴くことができる。ぶっちゃけ「これ、もろにデフ・レパードじゃん」と思わせる要素も、ところどころに顔を出す。ところが、それでもチャド・クルーガーの歌声とヴォーカル・メロディーが聴こえてくると、ニッケルバック以外のナニモノにも感じられなくなるのだから不思議なもの。というか、さすがはニッケルバック。口の悪い人たちには「誰を手掛けても“あの音”になる」なんてことを言われることも少なくないマット・ラングの特徴的な音作りにも、彼らの個性はまったく負けていないということなのだから。

そして、同時に感じさせられるのは、もしかしたらこの『ダーク・ホース』こそ、今から20年前にデフ・レパードの『ヒステリア』が音楽シーンで果たしたのと同じ役割を担うことになるのではないかということ。ヒット・シングルを量産しながら広く大衆に愛された『ヒステリア』は、単純に言えば“ロック人口”を増やした作品ということになる。『ヒステリア』は、当時、ガンズ・アンド・ローゼズの『アペタイト・フォー・ディストラクション』と全米チャートの首位争いを繰り広げていたものだが、それからふたつのディケイドを経て、今度はこの『ダーク・ホース』と『チャイニーズ・デモクラシー』が同様のレースを展開することになるのかもしれない。

とはいえ、そうしたチャート云々の話はもちろん二の次。とにかくこの“聴き手を選ばない歌ものロック・アルバム”が、ここ日本でも幅広い層の耳に届くことを願いたい。脳内のかなりのパーセンテージがガンズで占められている僕のような人間でも、冷静かつ客観的になればなるほど“本命”は『ダーク・ホース』のほうではないかと感じてしまうほどだったりするのだから。

増田勇一
◆iTunes Store ニッケルバック(※iTunesが開きます)
◆『ダーク・ホース』オフィシャルサイト
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