増田勇一のNY取材日記(3)

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▲恐るべき満腹メニュー。海鮮かた焼きそばと、ワンタンスープという名の大盛り水餃子。しかしここで摂取したカロリーはすべてAC/DCの全力投球ライヴによって消費されることになった。
というわけで、11月12日の“つづき”である。あらかじめ開場前にマジソン・スクエア・ガーデン(以下MSG)を訪れてAC/DCの最新マーチャンダイズ入手に成功した後にすべきことは、言うまでもなく腹ごしらえ。地下鉄でチャイナタウンに出向いたのだが、結果的には明らかに食べすぎてしまった。なにしろ3ドルちょっとの“ワンタンスープ”を頼んだのに、いわゆる水餃子サイズのものが10個も入ったものが出てきてしまうのだ。こっちの食事は“完食”すべきものじゃなく“残して当然”と考えるべきなのだな、と改めて実感。

そして夕刻、ふたたび会場へ。AC/DCのライヴ・レポートはこれから某誌に書くことになっているので、ライヴ自体の話はあまりせずにおこうと思うのだが、とにかく素晴らしかった。場内が暗転し、巨大な機関車が火花を散らしながらステージに登場すると、いきなり飛び出したのは最新アルバム『悪魔の氷』からの「暴走/列車」。それから約100分間にわたって繰り広げられた“世界でいちばん強烈な王道ロック”のライヴは、“間延び”とか“無駄”とはまったく無縁の、みっちりと具の詰まった餃子のような充実感をもたらしてくれた。

いかん。どうやらチャイナタウンでの過食が脳にまで影響を及ぼしてしまったようだ。しかし冗談はともかく、“誰もが聴きたいはずの定番曲”をきっちりと網羅しつつ、『悪魔の氷』からの楽曲も随所に散りばめられた演奏内容のバランスも絶妙だったし、このバンドの完全燃焼型ライヴ・パフォーマンスには、やはり観る側も完全燃焼させられる。しかも彼らのライヴには、“おやじ”を“キッズ”に変えてしまう力がある。で、素直に思った。「AC/DCは人類が失ってはいけないバンドだ!」と。

加えて、オープニング・アクトを務めたジ・アンサーの演奏も良かった。正直、来日公演を観たときは渋谷AXのステージが彼らには広すぎる気がしたし、「パブで演奏するほうが似合うんじゃないの?」といった感想を持たざるを得ないところがあった。が、今回はMSGの巨大空間が、彼らにとって“大きすぎる”という感じがしなかったのだ。ちなみにこのジ・アンサーのアメリカでの発売元はTHE END RECORDS。そう、彼らとDIR EN GREYとはレーベル・メイトだったりもするわけなのだ。

▲終演後のMSG。とにかくデカい。ちなみに筆者は今回、入国審査のときに「AC/DCを観に来た」と言ったら、「チケットは確保できてるのか? 羨ましいなあ」と管理官に言われた。さらに彼は「だけどあそこは正面のスタンド席だとステージから遠いんだよなあ」とぼやいていたのだが、幸運にも筆者はアリーナ席で観ることができたのだった。
ところでこの日、会場内である人物と偶然再会した。イギリスのヘヴィ・ロック専門誌、『KERRANG!』のエディターを務めるポール・ブラニガンだ。彼は10月にDIR EN GREYの取材のために来日していて、その際には僕も取材の手伝いをしたり、一緒にカラオケで騒いだりしたのだが、もちろん彼は日本のバンドの取材ばかりを担当しているわけではない。同誌でAC/DCが表紙を飾っていたときのインタビューを担当していたのも彼だった。しかしあいにく、彼は金曜日、つまりDIR EN GREYのNY公演当日にはロンドンに帰ってしまうのだという。「彼らがツアーしてることは知っていたけど、スケジュールを把握していなかった。惜しいことをした!」と嘆く彼は、心底残念そうだった。そして彼は、さらに「彼らによろしく。次はイギリスで会えることを願ってる、と伝えておいて欲しい」と語った。

ちょっと余談が長くなったが、こうして11月12日の夜は終わった。会場からの帰り道、歩道はAC/DCのファンだらけで、しばらくは歩きながらの合唱が続いていた。そんなとき、たまたま携帯に日本の某レコード会社の人から原稿催促の電話がかかってきたのだが、こちらがあまりに騒がしいものだから、相手は「宴会中か何かですか?」と言っていた。うん、確かにそれも、間違いではないかもしれない。

増田勇一

<AC/DC@ニューヨークMSG演奏曲目 2008年11月12日>
・暴走/列車 ※
・地獄は楽しい所だぜ
・バック・イン・ブラック
・爆弾ジャック ※
・悪事と地獄
・サンダーストラック
・悪魔の氷 ※
・ジャック
・地獄の鐘の音
・スリルに一撃
・戦闘マシーン ※
・恋の発電所 ※
・狂った夜
・T.N.T.
・ホール・ロッタ・ロージー
・ロック魂
《アンコール》
・地獄のハイウェイ
・悪魔の招待状
※=最新アルバム『悪魔の氷』収録曲
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