デンマークの英雄D-A-Dインタビュー(1)

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  photo:(C)Kevin Westenberg
第10作、『モンスター・フィロソフィー』のリリースからすでに2ヵ月が経過してしまったが、遅ればせながらD-A-Dのロング・インタビューを3回ほどに分けてお届けしたい。取材に応じてくれたのはフロントマンを務めるイエスパ・ビンザー。筆者が彼と初めて会ったのは1989年10月、彼らの地元であるデンマークはコペンハーゲンでのこと。実にそれから約20年が経過しているわけだが、バンドは今も、母国のアルバム・チャートで“初登場首位”を指定席にするほどの国民的人気を誇っている。

◆「アメリカでレコーディングすることにしたのは、子育てから逃れる必要があったから」

――D-A-Dのオリジナル・アルバムもこれで通算10作目。あなた方と付き合いの長い僕としては、新鮮さと愛着の両方を同時に感じさせられるような1枚だな、と。

イエスパ:だろ?(笑)でも今回の『モンスター・フィロソフィー』は、ものすごい労力の賜物と言えるんだ。もちろん嫌な意味での苦労とは違うけどね。前作の『スケア・ユアセルフ』では“ありのままのD-A-D”を出すことを何よりも重んじていたんだけど、逆に自分たちがそもそも持っていた多面性を出し切れていない部分があるように思えてね。で、改めて自分たちのことをさまざまな角度から見つめなおしながら、ゆっくりと時間をかけて曲作りに専念したんだ。2年ほど没頭していたかな。結果、60曲ほど作って、そのなかから20曲を録って、さらにそこから絞り込まれた13曲(日本盤はボーナス・トラックを含む全14曲を収録)がこのアルバムに入っているというわけなんだ。

――前作について後悔してるというわけじゃないんですよね?

イエスパ:もちろん。あの当時の自分たちはある種の原点回帰モードにあって、“何もないところからアルバムを作り出す”ということにこだわっていたんだ。まるで若造のパンク・バンドみたいだった(笑)。敢えて酷い楽器を、酷い設備のリハーサル・ルームで鳴らしながら、“だけど楽曲自体はものすごくいいだろ?”というものを作ろうとしたわけさ。だからすごく自分たちの核の部分に対して正直な作品だったと思う。それに対して『モンスター・フィロソフィー』は、自分たちの幅広さに対して正直なんだ。ハード・ロックもあれば、ブルーズも、バラードも、ポップな曲もここには入ってる。そういったヴァラエティが俺たちは大好きだし、さまざまなタイプの楽曲が共存しながらD-A-Dならではの様式を体現している、なんて言い方もできると思う。しかもこのアルバムは実に多面的でありながら、ゲスト・ミュージシャンなんて存在は皆無だし、すべて自分たち4人だけでプレイしているんだ。そういった意味でもとても誇りに思える1枚だね。

――10作目のリリースであるのと同時に、バンド自体もちょうど結成から25周年を迎えていたりする。そんな記念すべきタイミングに登場したのがこのアルバムだということにも、すごく意味があるんじゃないですか?

イエスパ:うん、まさに。ぶっちゃけ、俺たちの北欧でのステイタスというのは、他の地域でのそれとはだいぶ違っていてね。変な話、みんなが思ってる以上に“スカンジナヴィアにおけるD-A-D”はビッグな存在なんだよ(笑)。だから、どんなタイミングだろうと好きなことを好きなようにやって大丈夫なんだ。俺たちとしては、こうしたアニヴァーサリーの時期に、昔の曲を集めたグレイテスト・ヒッツやボックス・セットみたいなのを出してお茶を濁すような真似はしたくなかった。25周年を気持ち良く祝うには、新しい曲がたっぷりと入っていて、しかもこれまでの25年間を自分たちらしく表現したアルバムを完成させることが重要だった。それが、このアルバムなんだよ。

――アルバムの仕上げの作業は母国のデンマークで行なわれたようですけど、レコーディング自体はニュージャージーで行なわれていますよね? どうしてわざわざアメリカに飛んで作業することを選んだんです?

イエスパ:まず大きな理由のひとつとして挙げられるのは、俺たちのうちほとんどは今や家庭人で父親だってこと。つまり、子育てに関することから逃れることが重要だったんだ(笑)。地元に居たままだったら、1日のなかで4時間以上にわたってひとつのことに集中し続けることなんて不可能だからね(笑)。子供を迎えに行ったり、買いものに行かなきゃならなかったり。そういう日常から離れて、作業に100%集中するということを試してみたかったんだ。同時にメンバー同士、旧知の仲ではあるけど、“4人で過ごしながらお互いのことを改めてよく知る”ということも大事な目的なひとつだったし。

――使用されたのはショアファイアー・レコーディング・スタジオ。かつて若き日のブルース・スプリングスティーンが使っていたスタジオでもあるらしいですね。

イエスパ:うん。ヴィンテージの機材がたくさん揃っているスタジオでね。それがそこを選んだ理由だった。木の内装でさ、すごく俺たちの好みに合っていたんだ。そこで撮った写真が今回のアルバムのブックレットにはたくさん使われてるんだけど。マーク・ボランとか、70年代のイギリスのミュージシャンたちもよくそこでレコーディングしていたらしい。実際、スタジオのなかではあんまりスプリングスティーンの匂いを感じることはなかったけど、ニュージャージーの街に出ると彼の匂いがそこらじゅうにプンプン漂ってたよ(笑)。彼の豪邸も見たし。そうそう、ジョン・ボン・ジョヴィの豪邸も見た!(笑) ニュージャージーは実にそうした興味深い場所だったけど(笑)、俺たちはそんななか、ひたすらスタジオワークに没頭してたというわけなんだ。
◆iTunes Store D-A-D(※iTunesが開きます)
◆D-A-Dオフィシャルサイト

増田勇一
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