DOPING PANDA:先鋭的なセンスと飽くなき探究心により磨き上げられた極上のダンス・ミュージック『decadence』特集

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DOPING PANDA New Album『decadence』特集
decadence 青ジャケ
decadence 黄ジャケ

New Album

『decadence』
2009.6.3 out

【青ジャケ/CD+DVD】
SRCL-7060~SRCL-7061 \3,675(税込)

【黄ジャケ/CD】
SRCL-7062 \2,800(税込)

1. introduction
2. decadence
3. majestic trancer feat. VERBAL(m-flo)
4. beautiful survivor
5. Lost & Found feat. TORU HIDAKA(BEAT CRUSADERS)
6. crazy one more time
7. the idiot
8. the edge of outside
9. beat addiction
10. gaze at me
11. standin' in the rain
12. I was just watchin' you

自分の人生観とかそういうものがあんまり色濃く出てしまうのは邪魔になるような気がしてたんだけど……。

――今回のアルバムは、前作の仕上がりを踏まえて“じゃあ次はこうしよう”、みたいなプラン的なものがあって制作に入ったんですか?

Yutaka Furukawa(以下、Furukawa):前作とは、っていうよりは……。前の自分と今の自分、って感じでパッキリ分かれたような感じはしてるんですよね。『Dopamaniacs』(2008年3月発売)と、シングルの「beautiful survivor」のあいだで。いまはなんか、モノを作るっていうことに対するモチベーションが全然違うところにあるっていうか……。『Dopamaniacs』のときはなんか、“つかんだ”気がしたんですよね。自分なりの方法論というか、セオリーが手に入ったというか。で、これからはそれをブラッシュアップしていくだけなんだなっていうのが手応えとしてなんとなくあったんだけど、それがまたゼロに戻ったというか。より高いところを目指してるっていうか、ね。

――じゃあまずは、話をさかのぼってみましょうか。『Dopamaniacs』でつかんだものっていうのは、どんなものだったと思います?

Furukawa:曲作りに関することですね、それは。僕は基本的に、過去をあまり振り返らない人間なんで……。そのときそのときにエッジだと感じるもの、新しいものを聴いて、それをYutaka Furukawaっていう自分のフィルターを通して世の中に提案する、提示するっていうのがドーパンの良さだと思ってたし。そういった意味では、ひとつのものに固執せずに、間口を広げて色んなものを吸収してっていうのが自分たちの良さだと思ってたんだけど、なんかそれが……。例えば、音楽をやりたいって純粋に思ってやり始めたときって、自分の人生観というか、それまで生きてきた環境とかがたぶんすごく反映されてたはずなんですよね。けど、それを、段々薄めるような作業をしてたんじゃないかなって。“本質”みたいなものを。間口を広げて色んなものを吸収して、自分のフィルターを通して提示するっていう方法論にとっては、自分の人生観とかそういうものがあんまり色濃く出てしまうのは邪魔になるような気がしてたんだけど……。そういうところですごく象徴的だったのが、「beautiful survivor」の制作ですよね。編集部注:「beautiful survivor」…2008年 資生堂ANESSA テーマソング

――今回のアルバムに繋がる、意識がパッキリ分かれた分岐点ですか。

Furukawa:はい。あれは、CMの監督さんから直々にオファーがあったんです。楽曲がすでにあってオファーされたわけじゃなくて、DOPING PANDAがいいっていうオファーを受けたんだけど、最初はその意図が分からなくって。『Dopamaniacs』を作り終えた直後で曲のネタもストックもなかったし、作っても作っても(自分的に)ダメだってなって。“そういうのってドーパンじゃないでしょ”っていう。単純にいえば、“抜け”感とか高揚感がこの画には欲しいんだよねっていわれたんだけど、自分では分からないんですよ。それまでの作品で追求してきた、テクニカルなところしか。ブレイクを曲の中にたくさん入れてタメを作ればいいのかとか、そういうことしか出てこないというか……。でも、そうじゃなくて、僕が作ってるから出てくる“本質的”なものとか、雰囲気とかね、そういうのを出せないとダメだって。そういうものを要求されているからこそ、この制作のときは、自分を客観的に見直す作業がすごく必要だったんです。

――「beautiful survivor」でドーパンを知った新規リスナーはたぶん多いでしょうし、あの曲はもう本当に、ドーパンらしい高揚感がすごく発揮されている曲だったと思います。

Furukawa: CMのサイズに合わせて曲をいくつか作ったんですけど、その最後に残ったのがその「beautiful survivor」と、今回のアルバムにも入ってる「majestic trancer feat. VERBAL(m-flo)」と「I was just watchin' you」だったんです。この3つに関してはもう、本当にそうですね。すごくパワーが入ってるというか。アレンジもテイストも違うんだけど、曲が持ってるポテンシャルとか雰囲気とかがやっぱり、“僕”なんだなっていう。自分の“本質”が一本決まったものとして入ってるなっていうのは、作ってても感じました。CMで使われる作品っていうことと、シングルとしてリリースする作品であることももちろん十二分に意識したうえで、僕のギザギザした部分とかが「beautiful survivor」とか、他の曲で言えば「beat addiction」には落とし込まれてるじゃないかなって。

執念でしたね、これはもう本当に。“Furukawaくんの怨念を感じる”みたいな感想をいった人もいました(笑)。

――Furukawaさんの“本質”っていうところだと、今回のアルバムは、今までの作品では見られなかったものが見える作品じゃないかなと。「gaze at me」みたいな曲は、“こんな面も持ってた人なの?”って驚くリスナーもいるんじゃないかなって想像するぐらい。

Furukawa:この曲は、僕が自分でミックスまでやったんです。執念でしたね、これはもう本当に。“Furukawaくんの怨念を感じる”みたいな感想をいった人もいました(笑)。

――ドーパンの曲から怨念って表現が出てくるのもまた、想像もつかないですね(笑)。

Furukawa:ホラー映画の主題歌でもあるんで(今冬公開予定のハリウッド映画『Don't Look Up』の主題歌に抜擢!)、おどろおどろしい雰囲気が怨念っぽいかなと(笑)。まぁ、だから……。個人的感想ですけど、今回のアルバムは今までと違って少し重いというか、重厚な作りになったかもしれないですね。底抜けに明るい曲は、ヒダカさん(ヒダカトオル/BEAT CRUSADERS)に参加してもらった「Lost & Found」ぐらいだし。よくね、CD店のPOPとかには、“明るいロックチューンでダンスロックが……”みたいな。モチベーションを上げたいときにオススメ、みたいなこともよく書かれてるんだけど、そこと自分の人格のギャップみたいなものもやっぱりあって。それからすると今回は、内省的とまではいかないかもしれないけど、元々自分が持ってるものが……。まぁ、ものすごいネガティヴな人間ですから、本来は(笑)。

――それこそ、Furukawaさんもそうだしドーパンもそうだし、パブリック・イメージとはちょっと違う一面かも……。

Furukawa:明るいは明るいんだけど……。僕のことを知ってる人は、手放しに明るい人間だとはいわないんじゃないかな(笑)。そういうところが少し出ちゃったかなって、今回は。だから、今までのドーパンの作品を聴いてくれてたコアなファンには、ひょっとしたら重いって感じる人がいるかもしれないし。そういう面が見れて嬉しいってファンもいれば、トゥーマッチだって感じるファンもいるだろうけど……。そういう“本質”を織り込みながらモノを作らないと、自分たちが成り立たないなって思うんですよね。スネアの音ひとつにしても、他の音一発一発にしても、変に聴きやすく均して世の中に提示するんじゃなくて、イガイガしたまんまでも自分をそのまんま出しちゃえばいいじゃないかなって感じでやれた曲が多いです、うん。

誤解を恐れずに言えば、満足度は低いというか(笑)。もっとやれることがあるはずだっていうか、“途中”なんですよ、とにかく。

――悩んで葛藤して、『decadence』でまた新たなものを切り拓いたドーパン、今後はまたさらに面白くなっていきそうですね。

Furukawa:そうですね。最初にもいったんだけど、もっと高いところでモノを作りたいって思うようになったおかげで、今回のアルバムは、まぁ……。誤解を恐れずに言えば、満足度は低いというか(笑)。

――それは、ものすごく誤解を呼びそうな発言で……(笑)。これだけ洗練された、ハイクオリティなロックをやってるバンドは日本にそういないだろうと、僕は思ってますけど。

Furukawa:ありがとうございます。おっしゃるとおり、作品としてのクオリティはもう本当に、今まで自分が作ったものの中では明らかに最も高いところでやれたなって意識はあるし。テクニック的なところとかスキル的なところとか、演奏能力とかアレンジ能力とか含めて間違いなくハイレベルなんだけど、なんていうのかな……。もっとやれることがあるはずだっていうか、“途中”なんですよ、とにかく。“途中”なんです、本当に。

――自らに対してハードルをさらに上げて今回のアルバムを作ったからこそ、その先は、もっと面白いことがやれるんじゃないかっていう。理想をより高みに置いたからこそ、その先がすでに見据えられてる感じがします。

Furukawa:そうですね。“過渡期”だっていうことですよね。要は、僕がいいたいことは。自分自身も、音楽産業自体も、今は。今回のアルバムは、その“過渡期”の中でしかできないものだったし、間違いなく今までよりもステージが上がってるっていうところで、内容に納得がいかない中途半端なものをリリースしたっていう意味での“満足度”ではないんです。今現在の自分が納得がいく、現時点においての完成形っていうものを作るまでには、今まで何年かかったか分からないし……。4年、5年、もしかしたらもっと、7年、8年なのか分からないんだけど、逆にその間で、新しいものを提示するっていうだけの、ある意味ルーティーンなサイクルになってた自分にも気づいたというか。そうじゃなくて、積極的にぶつかっていってぶっ壊してかないと衰退していくんだ、って。それは自分自身もそうだし、音楽産業自体もそうだし。

――デジタル配信っていうリリース形態がもっと盛んになっていったり、色々な変化は当然あるでしょうね。そういう現状にいるからこそ、現状維持じゃなくて、色んな挑戦をしていかなきゃいけないっていう。

Furukawa:音楽自体がなくなることは絶対にないけど、CDでのパッケージ販売っていう産業は今後衰退していく可能性があるわけで。でも、例えば……。システム上、いまは無理だけど、僕らが作った音楽をインターネットを介して翌日にブラジルの人たちが聴けたり、逆にあっちの音楽をタイムラグなしに聴けたりっていう。そういう恩恵にすごくあずかれるようになるだろうし、そういうなかでグローバルな活動に挑戦することも身近になってくるかもしれないとか、今後はそういうことがたぶんたくさんあるはずですよね。そういう世界のどこかに、必ず、僕らが生むエネルギーとか音楽を必要とする人はいると思うし。そのためにも、Yutaka Furukawaにしか作れないものを作るっていうかね。自分の“本質”をつかんでさえいればそこは大丈夫じゃないかな、って気はしてます。

取材・文●道明利友

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