ザ・バード・アンド・ザ・ビー、ホール&オーツをリスペクト(後編)

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◆ザ・バード・アンド・ザ・ビー、ホール&オーツをリスペクト(前編)より続き

──聴かせていただいたのですが、基本的に原曲のアレンジのよさをなるべく生かしてますよね?極端にアレンジを変えた曲はないようですが、それは意識してのことですか?

イナラ・ジョージ:そうね。もちろん自分達なりの色は出してはいきたかったけど、テンポを遅くしたり、曲の意味合いをまったく変えてしまうことはしたくなかった。曲のテンポ、キーは全ての曲で変えていないし、曲によっては、歌い方、フレーズとかがまったくダリル・ホールと一緒だったりするのよね。それは意識的なことだった。あまり、曲をいじったりして、トリビュートとしての意味合いを損ないたくなかったの。

──ほかにアレンジ面で意識したことはありますか?

イナラ・ジョージ:うーん、もちろん女性が歌っているわけだから、ちょっと変わってはくるとは思うのね。私たちのヴァージョンにはしてはいきたかったわけだけど、オリジナル曲の方向性みたいなものは、重視はしたかった。

──ヴォーカルに関して意識したことは?ダリル・ホールの歌い方からなるべく遠くならないようにといったことは心がけたりしましたか?それとも自分らしい歌い方というものを意識しましたか?

イナラ・ジョージ:ほとんどの曲は意識的にダリル・ホールの歌い方から遠くならないようには心掛けたんだけど、一曲だけちょっと変えて歌っているのが、「アイ・キャント・ゴー・フォー・ザット」なのよね。カヴァー曲をやろうと決める前にレコーディングした曲だったから。これは、ヴォーカル的な解釈がちょっと違うと思うんだけど、レコーディングを始めてからは、1フレーズごとに分析していった。彼等の歌をなるべく真似るようにはしていたけど、すべての曲で思った通りには果たせてはいないと思うけど。曲を分解してったりすることをしていたから、キーを変えたりするのは、ちょっと難しかったかも。キーを変えた曲はなかったんじゃないかしら。ダリル・ホールは私と同じような音域で歌うから。

──そうですね。男性として、とても高い声で歌いますよね?先ほど、レコーディングしてみて彼等の曲のよさみたいなものに改めて気づかされた、みたいなことを言っていましたが…

イナラ・ジョージ:いや、前から彼等の曲はいいことはわかってはいたんだけどね。レコーディングしてみて、よりその価値がわかったという感じかな。

──歌ってみて、ホール&オーツの曲の構造に関しての発見などはありましたか?

イナラ・ジョージ:この質問に関しては、グレッグの方が、コード進行とか、曲構成に関してちゃんと答えられると思うけど、曲構成とかをいろいろ分析していて、彼的にはかなり楽しかったみたい。昔の曲の構成の仕方なのよね。コードのヴォイシングとかハーモニーであらゆる面白いことをやっているの。どんなものも当たり前のこととして彼等はアプローチしてはいなかった。時間をかけて、曲の構成とかを考え、作っていたのよね。それぞれの曲をレコーディングするにあたって分析していて、気がついたの。そういった発見をするのがとても楽しかった。曲を全部分解していって、どうしてこういったサウンドになるのか?というのを理解していったわ。

──特に気持ちを込めて歌えた曲とか、特に難しかった曲などありましたら、教えてください。

イナラ・ジョージ:あったわ(苦笑)。「ワン・オン・ワン」がそうだった。グレッグはとても音楽的なので、この曲に関して私よりは少しわかっていたのね。ヴォーカル・スタイル的には私が通常やるものとはすごく違うの。曲は昔からどこかで流れてると一緒に歌ったりしているのに、どういうわけかずっと間違って歌っていて。サビのある部分で、ちゃんと歌えない箇所があったの。ある2音の間のインターバルがあるんだけど、それを私が絶対に把握できなくて、何度やってもずっと間違えていたのよね。だから、冗談で言ってたんだけど、「あの曲のせいでバンドが解散する可能性はあったかもね」って。(笑)グレッグはめったにイライラしないんだけど、私があまりにもできなくて、ちょっとした緊迫感が部屋の中にただよっていたのを感じたのよね(笑)。最終的には、できるようになったんだけど。今では、ヴォーカル・パフォーマンス的に言えば、フェイヴァリットと言えるかも。これができるようになるまで、一生懸命努力したから(笑)。

──その曲ごとの歌詞も、選曲のポイントのひとつにあったりしましたか?

イナラ・ジョージ:うーん、総合的に好きな曲を選んでいったと思う。曲の中には、何度も聴いているのに、歌詞のことをまったく考えたことがなかったものもあるんだけど、実際に歌うことになって歌詞を読んでみたりすると、本当に変なものがある(笑)。「シーズ・ゴーン」という曲は、ものすごく面白い歌詞がついていると思う。面白いフレージングだったりね。彼等にはとてもユニークなものごとの捉え方があったわ。ものによっては、楽しくて、馬鹿げた感じのものも多い。作品によっては、深いものもあったりするけど。歌詞は面白い部分でもあった。「マンイーター」なんて、she cat tamed by the pearl of the the jaguar(彼女はなついてもせいぜい喉を鳴らすジャガーというところ)。とても、クレイジーな歌詞よね。彼らがどんなことを歌っているのかを理解する作業は、とても楽しい発見だったわ。

──このアルバム、どんな聴かれ方をされたら嬉しいですか?

イナラ・ジョージ:うーん、楽しい音楽だと思うのね。あまり深くならないように自分達でも意識して作ったし。一緒に歌えたり、踊ったりできるアルバムなの。私たちはバンドを組んでまだそんなに経っていないけど、曲は結構書いてきた。これは私たちにとって、とても楽しい試みだったの。歌詞とか、メロディーを自分達で書く必要がなく、ただこれらの曲に取りかかっていくことができた。なるべく自分達がベストと思う解釈をしている。それはとても楽しい実験としてとらえてほしいわね。

──アルバム・タイトルが『INTERPRETING THE MASTERS VOLME 1』(原題)となってますが、今後また別のアーティストのトリビュートでVOL2、VOL3とシリーズを続けていく予定なのですか?

イナラ・ジョージ:そういうことをやっていこうということで、はじめたんだけどね(笑)。もう一枚こういった企画をまた出す前に、たぶん自分達のオリジナル・レコードを出していくつもり。レコーディングは大好きなの。私たちはそんなにツアーはしないので、ツアーをしない代わりにできるだけいっぱいリリースしていきたいわね。

──オリジナル・アルバムの予定は? いつぐらいにリリースするんですか?

イナラ・ジョージ:わからないわね。今、次のアルバム用に曲を書いているところなの。実は、もうじき赤ちゃんが生まれるので少し活動のペースを落としていくかもしれない。グレッグも他の制作活動で忙しくしているから、まだわからないけど、いつかは出す予定。

──おめでとうございます。いつぐらいが予定日なんですか?

イナラ・ジョージ:4月の末。

──因みに今後どんなアーティストのトリビュートをやりたいですか?

イナラ・ジョージ:グレッグとはそういった話はしているんだけど、それについてはあまり証さないようにしているの。まあ、実際には、自分達でも誰のをやるのか?っていうのは見当も付かないから。私たちが発言したことが定着したりして、そういう風に認識されてしまうかもしれないでしょう? もしかしたら、気が変わるかもしれないでしょ。

──そうですね。 今日はどうもありがとうございました。

イナラ・ジョージ:こちらこそどうもありがとう。

インタビュアー●内本順一
写真●Brigitte Sire
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