増田勇一の全方位無差別インタビュー【1】ブラッド・レッド・シューズ「変則的2人組バンドがこだわった「パーフェクトな曲」の意味」

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◆「変化は要求に応じてするものじゃなく、自然に生じてくるものであるべき」

――あなた方の音楽には空間がとても多いけども、そこを埋め尽くしてしまいたい欲求にかられることも、ときにはあるんじゃないですか?

スティーヴン:それはないな。実際、前作と今作を比べたときの最大の違いは、今回のほうがもっと空間が多いってことだったりするし。ローラも僕も、サウンドにスペースがあるのが好きなんだ。それが自分たちの空気感みたいなものを作り、音楽にパワーをもたらす。静寂の瞬間すらも濃いものになるというか。せっかくそうやって空間があるのを埋め尽くしてしまうなんて嫌だね。いつかローラのギターが埋め尽くしてしまうことがあるかもしれないけど(笑)。

ローラ:あはは! ないない。

――スペースといえば、ステージという空間についても、2人には広すぎると感じることもあるのでは?

ローラ:面白いのよね、そこが。確かにフェスなんかの大きなステージに上がっていくときは少しばかり心細さをおぼえることもあるんだけど、実際に上がってみるとそれが心地いいの。人数が多いほどパワフルになれるというわけじゃないと思うし、なにしろ私たちは2人だけですべての視線を独占することになるわけだから。

スティーヴン:うん。こんなちっぽけな人間が2人だけ現れて、でっかいノイズを出す。背後にたくさん余分なメンバーを従えてるよりも、そのほうがずっとクールだと思う。

――しかも、なんだか2人だけでやるほうが、心臓も強くなりそう。

スティーヴン:そうだね。まさに後ろ盾のない状態で演奏することになるわけだから。つまり、自信がないとできないってこと。

――今作を、さらに空間の多いものにすることができたのも、その自信ゆえということ?

ローラ:うん。間違いないわ。曲そのものに自信があるからこそ、余計なことをせずに済んだんだと思う。あれこれ付け加える必要がまったくなかった。

スティーヴン:そうやって無駄を省くことが音楽自体を印象的なものにする、と僕は思っている。今のイギリスではむしろ要素過剰な音楽がトレンドになってる気がするけど、本当にいい曲が作れたなら、本来はそこにあれこれと装飾なんか要らないはずなんだ。実際、僕らにとって今回のアルバムで最大のチャレンジだったのは、「それぞれの楽曲そのものを際立たせる」ということだった。仕掛けも特殊効果も要らない。曲自体にエモーションがあれば、それがすべてを語ってくれる。自分たちの作品はそういうものであるべきだと思ってるし、その点にはとことんこだわったよ。

――逆の言い方をすると、それくらい自信のある曲が揃わないかぎり、アルバム作りには臨めないということでもあるわけですか?

スティーヴン:そうだね。今回、曲については厳選したよ。1stアルバムのときは「いい感じじゃん!クール!完成!」みたいな単純なノリで曲を作ってたところがあるけど(笑)、今回はすごく真剣に取り組んだ。ひとつひとつの曲を、その曲にとっての正しいカタチで完成できるようにね。

ローラ:うん。曲がどうあるべきか、ということをすごく考えた。

スティーヴン:とにかく僕らは、パーフェクトな曲が欲しかったんだ。

――2人の考える“完璧な曲”というのは、どんなものを指すんでしょうか?

スティーヴン:んー。たとえば…クイーンの「ボヘミアン・ラプソディ」かな。

ローラ:あはは!

スティーヴン:今のは冗談だから(笑)。

ローラ:でも実際、どういう条件を満たしていれば完璧とか、そういう問題じゃない気がするな。

スティーヴン:うん。「こういう条件を満たしていれば、現在の自分たちにとって完璧な曲だ」とか、そういう定義みたいなものはない。定型があるわけじゃないよ。いろんな曲があっていいし、どの曲にとってもそれ自体にとってのベストなカタチがある。それを探すことが重要だと思うんだ。

――なるほど。ところで「ギタリストとドラマーの2人組で、双方が歌う」という変則的な成り立ちについては、過去にもウンザリするほど訊かれてきたはずだと思いますけど、これからもこの形態にはこだわっていくつもりなんですか?

スティーヴン:もちろん。

――僕が興味を惹かれるのは、ドラムがメロディ楽器の役割を果たしたり、逆にギターがリズム面を担っていたりすることがこのバンドには多々ある、ということなんですけど。

スティーヴン:歌について考える前に、まず楽器だけで曲を作ってるんだ。つまり、ギターとドラムだけで作ったメロディというのが最初にある。“楽器が歌ってる”のは、そのせいじゃないかな。いかにもな感じのソロ・パートなんかなくても、ギターは常に歌ってるし。

――同時に2人の歌声が、とても楽器的な役割を果たすこともある。

ローラ:そうそう。2人とも歌う理由も、そこにある。お互いまったく違う声をしているし、それが絡むことで違った手触りが生まれてくることになる。

スティーヴン:音色の違いで楽器を選ぶのと同じ感覚で、声の違いを利用してるというか。普通だったらギター・ソロが出てくるような箇所にヴォーカルを入れてしまうこともあるし。

――2人の声のブレンド具合が、このバンドを特徴づけているとも思うんですよ。仮にスティーヴンがもっと男っぽい低い声だったら、全然この感触は違っていただろうし。

スティーヴン:確かに(笑)。だって実際、ローラのほうが声が低かったりするし。

ローラ:あはは!

スティーヴン:そこが面白いんだよな。僕がちょっとでも高いキーで歌おうと努めてるのに対して、ローラのキーはどんどん低くなってきてる。

ローラ:無理に高い声を出そうとすることは、もう止めたの。自分の声というのがわかってきたし。

――過去、このバンドの音楽性についてはさまざまな形容がなされてきましたけど、僕がいちばんしっくりきたのは「P.J.ハーヴェイmeetsニルヴァーナ」という表現。

ローラ:それ、好き。どっちも大好きだし。

――逆にこれまで、いちばん的外れだと感じたのはどんな形容ですか?

スティーヴン:僕は知らなかったんだけど、ローラによるとどこかで「ザ・キラーズに似てる」とか書かれてたらしくて。変だよね、こっちはキーボードなんか使ってないのに。

ローラ:今回のアルバムのレビューが出始めた頃には、プラシーボとも比較されてた。

スティーヴン:うん。「おいおい、ちょっと待てよ!」って感じ。

ローラ:正直、ワタシもちょっとイラついた(笑)。

スティーヴン:しかも初期のプラシーボと似てるとか言われてて。そんなこと絶対ないのにね。あんな歌い方、絶対にしないし。(と、いきなりここで2人によるプラシーボの物真似が始まる)

――今の歌声を文字にできないのが残念。ラジオの取材だったら良かったのに(笑)。正直に言うんだけども、僕は、“わざとらしく変則的”な音楽というのが好きじゃないんです。個性的であろうとするために意図的に何かを削除したり、変形させたりというのが。でも、このバンドの変則さというのには、すごく必然を感じるし、単純に「ああ、この形態が好きでやっているんだな」と思えるんです。

スティーヴン:ああ、わかるわかる。確かに僕らは通常の成り立ちをしていないバンドだけど、それはギミックではないんだ。レコード会社からも、いつも「前作との違いはどこなんだ?」と変化を求められる。そういった要求に応えようとするあまり、本来は変えなくていいはずのところを変えてしまったりする人たちも多いんだろうね。もちろん僕らも変化を欲してはいるよ。だけど、人々に変化に気付いてもらうために変わるなんて馬鹿げてる。「今回のアルバムではエレクトロに挑戦!」みたいな、そういうスタンスではありたくないんだ。僕らが集中したいのは、いい曲を作ること。それだけ。もしかしたら今回のアルバムは、前作とさほど掛け離れたものにはなっていないかもしれない。だけどそこで仮に「変化がまるでない」と言われたとしても、僕は気にしない。だって、前作よりもずっといい曲が詰まってることを自分たちで理解できてるんだから。

ローラ:うん。それがいちばん重要なことだもの。

スティーヴン:進化というのは、誰かから強いられるべきものじゃない。

ローラ:どっちにしても同じままではあれないし、かならず変化はあるんだから。

スティーヴン:前作から2年も時間が経っていれば、何かしら変わっていて当然なんだ。人間は成長するものだし。でも、変化は要求に応じてするものじゃなく、自然に生じてくるもの。僕らはそう考えてるんだ。

文・撮影:増田勇一
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