BOOM BOOM SATELLITES、メンタルなイマジネーションを強く刺激する最新アルバム『TO THE LOVELESS』リリース大特集

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BOOM BOOM SATELLITES

最新アルバム『TO THE LOVELESS』2010.5.26 リリース

革新的なビート
美しく浮遊感あふれるメロディと歌
メンタルなイマジネーションを強く刺激する

INTERVIEW

――ブンブンといえば、これまで「ロックとダンスミュージックとの融合」という文脈で語られることが多かったと思います。その文脈で言うと、今はどのへんに位置すると思ってますか。

中野:いや、何も考えてないですね、そういうことに関しては。いくつかのジャンルがミックスされていることに関してはまったく無意識で、自然に作曲しているということに尽きると思います。それを意識していたのはデビューの頃ぐらいで…。「意識していた」というのは、「革新的に何かをやってやろう」ということですけど。デス・イン・ヴェガス、ケミカル・ブラザーズとか、あの頃出てきたものに対して、「自分だったらもっと面白いことができる」と思ったので。若者だったし、多少イキがって勢いに乗ってやってるところもあったと思うんですけど、自分は日本で暮らしていて、クラブで遊んで、子供の頃からロックが好きで、新しい音楽としてビッグ・ビートが台頭してきた時に、「それを東京発信でやればカッコいいじゃないか」と。そしてこのバンド自体は、川島と知り合って一緒に音楽を作り始めてから20年経ってるんですよ。僕は10代の学生で、一緒にレコードを聴いてただ遊んでるところから、サンプラーをいじりだして、川島が一人暮らししている部屋でビートを作って遊んだりとか。その頃にはEMF、ビッグ・オーディオ・ダイナマイトとか、ロックの要素とハウスの影響を受けたバンドがいくつかあって、「僕らもそんなことをやってみよう」というのは当時からすでにあって。そこから何年か経つと、テクノがよりハードになって、プロディジー、ケミカル・ブラザーズが出てきて、その一方でもっとスモーキーなインストゥルメンタルのヒップホップが出てきたり、そういうものを僕らは遊んでいるうちに全部吸収していたので、デビューの頃にはもう音楽性がかなり熟していたんですよ。「今まで遊んできたものを全部出しちゃおう」みたいな感じで。

――はい。なるほど。

中野:「何かと何かを足して新しい音楽」みたいなことは、僕らがデビューする頃にはだいたい片付いちゃってる話だと僕は感じていて、「ハイブリッドなものは結局本当にクリエイティヴなものじゃない」という思いがあるんですよ。今もアメリカのヒップホップではそういうことが起きているけども、実際そんなに大したことが起きているとは思わないですね。もっとそんなことよりも、ある1曲にものすごい愛情を注ぎこんで作り上げて、ギター1本で奏でられるほうがよっぽど価値があるものとして僕には響いてきたりするから。それが、デビューして10何年たった今の僕らが感じていることで、それを実現するために必要な楽器を、自分のたちのスタジオを構えて揃えることで、完全に自由にできるようになっているので。今はそういうところに来ているので、ロックとダンスミュージックの要素をどうこうとか、そういう意識は皆無です。ただ僕らは、オールナイトのクラブ・イベントやダンスミュージック系のフェスティバルに呼ばれることもあるし、そういう時はその場で求められるものに応えて、フィジカルに楽しませることは意識しますけどね。そうかと思えば、SUMMER SONICやFUJI ROCK FESTIVALのような、エクストリームな野外フェスティバルに呼ばれることも同時にあるので、場所によって音楽に求めるものが違う人たちと触れ合うことが、ストレスになったりもするんですよ。自分の感覚を切り替えなきゃいけないから。でも、どっちも出てどっちも沸かせられるバンドというのはなかないないと思うので、ストレスにはなりますけど、同時にすごく誇りにも思ってます。

――よくわかりました。川島さん、何か付け加えることがあれば。

川島:いや、完璧な答えだと思います(笑)。あとは、ミックスまで全部二人きりで完結させて、そこまでが表現の域にあるバンドは他にいないと思う。その姿勢と思いが、この作品には特に盛り込まれているので、このアルバムがこのバンドの音楽性を最も顕著に表していると思います。今年はこれからツアーでライブハウスを回るんですけど、僕らはアマチュアの頃からライブハウス・ツアーをしたことが一回もなくて、ライブハウスという場所で鍛えられていくバンド感や音楽そのものがあるんじゃないかと思っていて。このアルバムとそのツアーで、これまでの僕らに加えた新しい形が生まれるんじゃないかと期待してます。まだ成長過程の一部だと思ってます。

――アルバム・タイトル『TO THE LOVELESS』はどんな思いを込めてつけたものですか。

川島:いくつかの候補の中に「LOVELESS」があって、何度か話し合って。記号性の高いものでありつつ、表しているものが濃いものがいいということで、これに落ち着きました。

中野:「LOVELESS○○」のあとには、ありとあらゆるものが付くんじゃないかと思うんですね、今の世界を見渡していれば。いろんなものの価値観がドラスティックに変わってゆく中で、失ってきたものが多すぎると思って、それは価値観とコミュニケーションに尽きると思うんですよ。たとえば今インターネットで行われていることは、数年前まではすべてフィジカルに行われていたもので、それがデータに置き換わった時に失われたものがあると思うんですよね。そこに「情が足りないな」と思うことがすごく多くて、そこに感じる淋しさや、どうすればそれを取り戻せるのかとか、そういう思いがあるんです。今はすべてがクリーンで、システム化されて、人々がピース(PIECE)にしか見えなくて、無気力な世代が増えている気がする。それが当たり前だと思っている世代に対して、メッセージを送りたいという思いもあります。

――最後に、スタジオの機材の話を少し聞かせてください。楽器やコンピューターのほかに、電源ケーブルにも非常にこだわりがあるとか?


中野:当時はロンドンにプライベート・スタジオがあったんですが、ギター・テックの人がオヤイデ電気の電源ケーブルを1本持って来て、それをギターアンプやシンセサイザーにつないでみたんです。そうするとびっくりするぐらい音が変わるので、「電源ケーブルでこんなに音が変わるんだ」ということを衝撃的に知ってしまったのが10年ぐらい前です。それからいろいろ試してみて、「まぁこのぐらいでいいかな」というものに落ち着いてたんですけど、1年ちょっと前にオヤイデの電源ケーブルの新しいものを試してみたら、それが一番理想的だったんですよ。高いケーブルがいいわけではなくて、どこかがエンハンスされることでいい音に聴かせるものもあって、それは作り手にとってはきついんです。そこでフラットなバランスでクオリティの高い音を提供してくれるものは意外と少なくて、やっとそういうケーブルに出会えたので、ここ1年ぐらいはデジタル周りはほとんどオヤイデのケーブルになってます。最適なケーブルを選ぶのは本当に難しくて、楽器を選ぶよりもうんと難しいんですけど、そこで理想的なものをコスト・パフォーマンスよく出してくれるので、今は落ち着いた感じです。余計なことを考えないで音楽に集中できる、というのが肝ですね。いい音がするというよりも、フラットな状態を作り出してくれること。いつもいいバランスで鳴ってくれるから、それがキャンバスになって自由に絵を描くことができるという、そこに尽きると思います。


BOOM BOOM SATELLITESのプレイベートスタジオ全景

オヤイデ電気

オヤイデ電気 http://oyaide.com/

neo http://www.neo-w.com/

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