KREVA、「これが俺の哲学だけど、君はどう?」

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8月後半に急病のため、イベント出演をキャンセルしたKREVAからメッセージが到着した。

「腰痛から<ロックのほそ道><THE LIVE>2つのイベントライブとレギュラーのラジオ番組の出演をキャンセルしてしまい、楽しみにしてくれていた皆さん、ライブ出演者の皆さん、そして関係者の皆さんご迷惑をおかけしたことをお詫びします。今は8割5分の回復度ですが、今日から少しづつ仕事復帰していきますので、これからもよろしくお願いします。」──KREVA

そんなKREVAの最新ミニアルバム『OASYS』が9月15日(水)にリリースとなる。「日々の生活に閉塞感があるのなら「OASYS」にはそれを突き破るヒントがあるかも」とKREVAがオフィシャル・インタビューをお届けしよう。

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自らの音楽性の核心として長らく標榜してきた“ビートの利いたセンチメンタル”をシンボリックなまでに極めた、自他ともに認める最高傑作『心臓』から1年。いよいよ、KREVAが新作をリリースする。それも、初のミニ・アルバムだ。全8曲、『OASYS』というタイトルが冠されたこの作品は、KREVAが“『心臓』以降”に提示する音楽的アプローチへの幕開きとして存在する。まずはKREVA自身が1年経った今『心臓』をどう捉え、そこからどのようにこの『OASYS』というネクスト・フェイズへ着手していったかを追っていこう。

「『心臓』のようなアルバムは、この先そうそう出てこないと思う。それぐらいやり切った実感があるし、基本的に過去を振り返らない性格だけど、『心臓』はある日、ふと思い立って聴いても“やっぱり間違ってなかった”って思える普遍的なアルバムができたと思いますね。ただ、時流的な側面から見ると、サウンドの質感、ラヴソングと大きな愛を描くようなあの世界観は、2009年だからこそリリースできたとものだとも思っていて。というのは、ちょっといまリスナーはラヴソングに対してお腹いっぱいになっているところがあると思うから。『心臓』の曲はそういうものとは明らかに違う性質のラヴソングだという自負があるけど、世間にあふれているのはどれも同じような切り口のラヴソングばかりで。そのことに誰もが気づいているし、“もういいよ”ってなっていると思うから、そことは明らかに一線を画したいという気持ちがありますね」

この1年、『心臓』を携え4つのラウンドに分けた全国ツアーを展開し、その後は将絢(Romancrew)のソロ・アルバム『offutaride』、そして『OASYS』よりひと足先の9月8日にリリースされるSONOMIのニュー・アルバム『S.O.N.O.M』のプロデュースを手がけた。それと並行して、これまでどおりひとつのライフワークとしてトラック制作を続けるなかで、『OASYS』に収録されている楽曲は生まれていったという。それらのサウンド面で共鳴するひとつのキーワードが、シンセサイザーだった。『OASYS』というタイトルも、KREVAが現在使用しているKORG製の同名機種のシンセに由来している。

「『心臓』以降は、トラックの手法としてサンプリングじゃないなとは思っていて。『心臓』でそれまでずっと取っておいたサンプリングのネタを一気に放出したというのもあるんですけど、だんだんシンセの“鳴らし方”がわかってきて、これまでより踏み込んで向き合えるようになった。最近のシンセはかなり親切にできていて、俺みたいに楽器ができない人にも優しい機能性に富んでいるんですよ。ただ、その機能を有効活用するのが意外と難しくて。たとえばボタンを押すと自動で料理をつくれる機能があったとして、それがジャストフィットで“自分の味”になるかといったら微妙なところで。でも、ここをこうすれば醤油の量を変えられるみたいな、自分好みのコントロールができるようになってきたんです。あと、あらためて自分に備わっている能力で大きいと思ったのは、コードを追っていけば自然とメロディが聴こえてくることで。いままではサンプリングから導かれることが多かったんですけど、最近は自分でシンセを弾くことで浮かんだメロディに肉づけすることができる。サンプリングというコラージュで描いてきた絵を自分の手で描いてみるのもいいかな、という感じですね」

『OASYS』という世界ヘの道先案内人となるオープニング・ナンバー「道なき道」。鋭く跳ねるビートとセンチメンタルな音色を帯びたピアノ&シンセが織りなす絶妙なコントラストに、メロディアスな調べをなぞっていくフロウとフックが映える「かも」。シリアスに浮遊するサウンドスケープが印象的なトラックにSONOMIを迎えた「たられば feat SONOMI」。人懐っこいエレクトロ感と叙情的なメロウネスが融合する「最終回」。2002年に解散するまでスカコアからテクノまで幅広い音楽性を行き来したパンク・バンド、YOUNG PUNCH。彼らの後期の名曲とヴォコーダーを通して交信するようにカヴァーした「エレクトロ・アース・トラック」。スペイシーな音像に胸を締めつけるようなフレーズが紡がれていく、インストのミニマル・シンセ「Oasys」。森林に佇むような清涼感に満ちたトラックとタイトなライムが、心地好くも刺激的に交錯する「Changing Same」。そして、ふたたび入り口へと踵を返す「Reprise~道なき道~」。この8曲から体感できる、『心臓』で一度極まったKREVAの“ビートの利いたセンチメンタル”が、また新たな響き方を希求しはじめたということ。そして、さらに特筆したいのは、「フック部分はほとんどメロディと一緒に出てきた」というリリックの切り口だ。全体に貫かれているのは、自らの生き方や主義主張、さらなる高みへ駆け上がろうとする意志を提示することが、そのままリスナーへのメッセージとなるKREVAの“哲学”である。

「自然とそうなっていったんですけど、『心臓』でとことん自分=Iの愛を語ったので。今回はあなた=YOUに向けて“オアシスとは何か?”を問いかけているというか。“これが俺の哲学だけど、君はどう?”みたいな。タイトルの綴りが『OASIS』ではなくて『OASYS』なのは、シンセの機種名だけではなくそういう意味も込めていて。時代に対する閉塞感は誰もが感じているはずだけど、それを打開しようとしている人はあまりいないように思うから。たとえば、いまはネットを使えば何から何まですぐに調べられるような時代で。その代わり必要のない情報も取り込んでしまって、情報デブになって、自分のなかで消化できない人もいっぱいいる。そういうことも閉塞感につながっていると思っていて。やっぱり俺は、あらゆる閉塞感を自分のやり方で突破したいから。だから、曲のなかで自分の哲学を確認しながら、自分自身にも問いかけているような感覚もあるんです」

ついに始動した、KREVAのネクスト・フェイズ。やはりこの男が創造する音楽を追いかけることに、間違いはない。

文●三宅正一

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現在発売中のカルチャー文芸誌「パピルス」では、表紙+巻頭21ページでKREVA特集が掲載されている。ロングインタビューでは、常に新しいことにチャレンジし続けるワーカホリックなKREVAのモチベーションがどこから湧いてくるのか、いかに立ち止まることなく挑戦をし続けてきたのか、その胸の内を明かしている。

<「KREVA CONCERT 2010『意味深3』>
2010年10月13日(水)、14日(木)
@日本武道館
Open 18:00 / Start 19:00
S指定席\6,000 A指定席\5,000 税込
一般発売日:2010年9月18日(土)
[問]ディスクガレージ 03-5436-9600

『OASYS』
2010年09月15日(水)発売
PCCA.03298 1,850円[tax in]
1.道なき道
2.かも
3.たられば feat SONOMI
4.最終回
5.エレクトロ・アース・トラックス
6.Oasys
7.Changing Same
8.Reprise ~道なき道~
◆KREVAオフィシャルサイト
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