映画『BECK』千葉:桐谷健太「弱さを知ってる強さは優しさに繋がる」

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映画音楽にかける想いと熱い青春が、観た者の心を再び熱くしてくれる必見の音楽映画『BECK』。ここでは、桐谷健太のオフィシャルインタビューをお届けしよう。喧嘩早く曲がったことが大嫌いな、バンドのムードメーカーでもありライブでは人を惹きつける魅力を発揮するラッパー・千葉恒美を演じた桐谷健太は、『BECK』に何を想い、何を重ねたのか。

◆「EVOLUTION」特別映像

──『ソラニン』に続き音楽映画が続きましたが、撮影はどちらが先だったんですか?

桐谷健太:『ソラニン』の方が先でした。『ソラニン』がクランクアップした2ヶ月後に『BECK』の撮影が始まったのですが、『ソラニン』の後でよかったです。『ソラニン』ではドラムをやっていたので、ラップもリズムが大事になってくるという部分では、やりやすかったと思います。この前サンボマスターさんのPVに出演させていただいたとき、『ソラニン』に出演していたメンバーの近藤さんの前でドラムを叩いたら「前と違うね」と言われたんです。リズムの刻み方がラップっぽくなっていたようです。

──音楽映画に出演する楽しさは?

桐谷健太:こうやって音楽をやらせてもらえることは好きですし、とても嬉しいです。『BECK』の場合は、フジロックのステージをお借りして撮影が出来たので、役者冥利に尽きますね。普通はフジロックのステージになんて立てないじゃないですか。エキストラの皆さんも盛り上がってくれましたし、すごく楽しかったです。『BECK』で千葉を演じてみて、改めて「役者って、こういうこともできるんだ。ありがたいなぁ」と感動しました。

──影響を受けたアーティストはいらっしゃいますか?

桐谷健太:高校生の時とかはロックが大好きで聞いていました。ニルヴァーナとかレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンとか。あとは日本人だと、THE BOOMとかですかね。

──今、桐谷さんは役者をされていますが、どこかで音楽をやりたいなという気持ちはありますか?

桐谷健太:音楽は好きだからプライベートでも絶対身近にあるんですよね。それこそ、CDをかけながら歌ったり。表現をするという部分では、ミュージシャンと役者は似ているけど、音楽はポータルな感じがしますよね。音楽は耳で聴くだけで様々な情景が出てくるし、それを自分が今見ている景色と混ぜ合わせることもできる。仕事と言っちゃいけないかもしれませんが、「なんて素晴らしい仕事なんだろう」と思ってます。それに、役者は映像を見てもらって、ようやくその1つに集中してもらえますが、音楽は何気ないシーンでも自然に耳に入ってきて、いつでも情景が浮かぶんですよね。僕は元々高校の時にバンドもやっていましたし。

──ラップは昔からやっていらしたんですか?

桐谷健太:いや、高校の頃はやっていませんでした。でも、何年か前に、役者なんですが、ストリートでラップバトルをやってる友人がいて、いきなり僕の耳にイヤホンを着けてきて、流れてくる音楽に併せてラップをやり出したんです。それでいきなり、「次、健太いってみな!」と振られて、ノリでやってみたら、「お前うまいよ!」と言われて。それから酔っ払ったときに、フリースタイルでラップをやり始めるようになったんです。遊びで(笑)。

──これまで人に見せるためにラップをやったことはあったんですか?

桐谷健太:酔っ払った時に一方的にやってました(笑)。でも、ある時、「やりすぎると嫌われるんじゃないか?」と思ったんですよ。すごくその人を褒めるので、すごく喜んでくれる人もいるんですが、人によっては「うっとおしい」と思われてしまうと思いまして(笑)。でも、自分でも鳥肌が立つくらい上手くできるときもあるんですよね。どちらかというと、僕は韻を踏むというより、「自分から何を出すか」ということを大事にしていて、『BECK』の撮影中なんかは、10分くらいで1つのリリックができていました。

──ラップバトルのシーンは自分で歌詞を書いたんですか?台本には?

桐谷健太:台本にはト書きだけしかありませんでした。なので「どうするんだろ?」と思っていて、「僕に書かせてください」と堤監督に相談をしてみたら、「じゃあ書いたものを持ってきて」と言われ、書いて見せに行ったら、「いいじゃん!これで行こう!」ということになったんです。もう、その時は完全に千葉の気分でしたね。千葉なら絶対にディスらずに、「どちらかというと自分と向き合うような言葉になるだろうな」と思って書きました。

──「自分の中にあるものを出さないといいものが出ない」という部分は役者とも共通していますか?

桐谷健太:そうですね。僕に限らず、それさえあれば誰にも負けないと思います。でも、その人にしか出せない部分が出せたなら、既にもう勝ち負けじゃない気もしますね。その人だけが持っている、ただ1つの、世界に1つのものなんですから。役者というのは、もちろん色々な人物を演じますが、「まるで別人だったね」とか言われたら嬉しいです。でも、やっぱり結局は演じているのは自分なんですよね。全く違う人物を演じながらも、生々しい部分などを出すためには、色々な人に会ったり、音楽を聴くのもそうですし、そういう様々な経験や感情がとても大事なんだと思います。そして、自分を通して演技の中でそれらを出す瞬間は、芝居であって芝居じゃないので、全神経を注いでやりたいですし、小手先ではなく演じる役の人となりを考えた上で出すようにしています。

──なるほど。

桐谷健太:でも、それらを出すためにはテクニックも大事。持っていても出せないと意味がないですからね。だから、どんな役でも、一つでも役者さんの人となりが見えたら、ずっとファンになりますね。僕はジャック・ニコルソンが大好きなんですが、『カッコーの巣の上で』という映画を見たときに、打ちのめされました。芝居をしているのですが、その向こう側のジャック本人も見えたんですよね。そうやって、1作品でも人の心にがっつり印象を残すためには、普段からプライベートなどで芝居をしたらだめだと僕は思ってます。それに人間嘘をつきすぎると、どれが生々しい感情か分からなくなってしまうし、だからこそ、自分に嘘をつかずに生きたい。極端に言えば、死ぬときに自分が自分であればそれでいいし、それほど最高なことはないと思ってます。だからこそ、瞬間瞬間で爆発していたいし、千葉がそうですが、一生懸命やって「自分は自分だ」と気付いて爆発した瞬間、天才を超えるんだと思っています。

──今回の千葉役はピッタリだったと思うのですが、何か原作を元に役作りなどはされましたか?

桐谷健太:色々な人から「似てる、合う」と言われていたので、ものすごく自信を持って、似せる気マンマンでいきました(笑)。原作と姿形を変える場合もありますが、千葉の場合は、そのままの方がいいと思ったので。あとはラップを歌うシーンですよね。動きとかは指導の方に教えていただいてやっていったのですが、オマージュとして、原作にあった千葉のポーズや動きなども使わせていただいてます。引きなのであんまり写ってないかもしれませんが(笑)。早く皆さんに観てほしいですね。

──旬のいい男揃いの俳優陣が出演している本作ですが、桐谷さんにとってのいい男の条件は?

桐谷健太:ちゃんと弱さも知っている強い男になれたらいいなと僕は思ってます。ただの強さは鈍感さと似てるけど、弱さを知ってる強さは優しさに繋がる。だから、中途半端な優しさはいらないと思ってます。よく、「そいつにしかないものを持ってる奴がいい男なんだ」と言うことが多いですが、たぶん「そいつにしかないもの」という部分はみんな持っているだろうし、身体つきだって違う。だから、いい男とはそういうことではなくて、「弱さを知っている強い男」だと思います。

──千葉は劇中でも、何度も壁にぶつかって成長していっているように感じられましたが、桐谷さんご自身は今まで壁にぶつかったことはありますか?また、どのように回避していましたか?

桐谷健太:ありますよ。21歳の時とか本当に辛い時期がありました。でも、回避できないですよね(笑)。なので、僕はとことん戦います。目をそらしても追いかけてきて、怖いけど向き合うしかないんですよね。でも、ずっとそうやっていると、だんだん面倒くさくなって「いいや!」と思って、それで解決してしまうこともありますね(笑)。それにしても、逃げるための手段とかがあったなら、みんな逃げまくりですよ。まぁでも、追いかけてこれないくらいダッシュで逃げ続けたら分からないですけど(笑)。基本的には、戦うしかないですよね。

──辛い時期や壁にぶつかってきて、それでも今のお仕事を続けられたのは何故だと思いますか?

桐谷健太:1番かどうかは分かりませんが、家族と友人のおかげだと思っています。あとは、絶望を感じながらも、どこか自分の中で根拠のない自信だけはあったんですよね(笑)。どんなことがあっても、小さくなってしまってもその火は消えなかったんです。でも、その時、「こうして、ほとんどの人は諦めて実家に帰っていくんだろうな」と思ったんです。僕が何で続けられたか、おそらくアホだったんじゃないかなとも思いますね(笑)。役者は才能も大事だけどパワーも大事で、「とったる!」という強い思いがありましたね。「夢は叶う」と信じてるだけでは無理で、「とったる!」というギラギラしたパワーがあれば、続けていけるものだと思っています。

映画『BECK』
原作:ハロルド作石「BECK」(講談社コミックス所載)
監督:堤幸彦『20世紀少年』『トリック』
出演:水嶋ヒロ 佐藤健 桐谷健太 忽那汐里 中村蒼 向井理
製作:2010『BECK』製作委員会
配給:松竹
丸の内ピカデリーほかにて大ヒット公開中
(C)ハロルド作石/講談社
(C)2010『BECK』製作委員会
◆映画『BECK』オフィシャルサイト
◆映画『BECK』公式Twitter
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