Kenichiro Nishihara、JAZZYの新時代を切り拓く最新アルバム・スペシャルインタビュー

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Nujabes、INO hidefumiに続く逸材として、注目を集めているKenichiro Nishiharaが、国内外で反響を呼んだアルバム『Humming Jazz』『LIFE』に続く、3枚目のアルバム『Rugged Mystic Jazz For TALISKER』を12月15日にリリースする。

今作は、シングルモルトウイスキー「TALISKER」にインスパイアされたコンセプトアルバム。ジャズ等のジャンルの垣根を取り払い、幅広い音楽ファンに受け入れられるべき作品だ。JAZZYの新時代を切り拓くメロウ・グル―ヴな最新アルバム『Rugged Mystic Jazz For TALISKER』はどのように生み出されたのか。Kenichiro Nishiharaにじっくりと迫るインタビューをお届けしよう。

――今作はシングルモルトウイスキー「TALISKER」にインスパイアされたとのことですが、どういういきさつで「TALISKER」なんですか?

Kenichiro Nishihara(以下、Nishihara):もともと若い頃からビールばっか飲んでたんですけど、年をとるにつれてウイスキーっていうのも良いなって思えてきたんですね。シングルモルトを夜、家に帰ってから飲んだりしてたんですけど、調べてみると、いろいろ面白いんですよね。その中でも気に入っていたのがTALISKERで。イギリス北西部のスカイ島っていう、1人よりも羊の数が多いような島で黙々と作られている様が非常に面白いなぁと。スカイ島ってケルトの文化圏でもあるんですよ。ケルト神話って面白いんですけど、妖精が出て来るんですね。日本に置き換えると妖怪みたいな存在なんですけど、すごく面白い世界がそこには広がっていて、インスパイアされるところがあるんです。そこが最初のきっかけですね。

――「TALISKER」という名前自体も神秘的ですよね。

Nishihara:“TALISKER”という名前はゲール語とヴァイキングの言葉を融合させた言葉で“傾いた岩”という意味なんですね。僕らの文化圏とはかけ離れたところからTALISKERはやってくるわけで、それも面白いですよね。10年、18年って熟成させて醸造するわけですけど、18年モノなんて、生まれた子供が高校を卒業してしまう。1本1万円くらいするので、一瞬高いって思いますけど、実際、それだけの時間をかけて作ったものの値段がそんなものでいいんだって思ったら安い!って。ちょっと話が逸れましたけど。

――いや、ロマンがあります。制作のはじまりは、ジャズとTALISKERがある風景みたいなイメージだったんですか?

Nishihara:厳密に言うと、これはジャズではないんです。今までの音源でも僕がやりたかったことっていうのは、ウイスキーとかジャズっていうのは凄く強いイメージがありますよね。“大人の男”っていう印象で入りにくい。ウイスキーっていうのも、なかなか飲まないですよね。ジャズとかウイスキーとか、よくわからないものの入り口を作りたいというのが思いとしてあって。ジャズにしろ、本当は凄くメロディアスで聴きやすいジャズがいっぱいあるにもかかわらず、難解っていうイメージもあると思うんです。一番最初に聴くCDによっても変わるだろうけど。フリージャズを最初に聴いちゃうと、“ジャズってこんなに難しいの?”って二度と聴かなくなる人もいると思うんです。そういう意味で入り口を作りたいというのもコンセプトだと思います。

――資料に書いてある「Kenichiro Nishiharaが提案する、新しいジャズのカタチ」というのが、そういうことなんですか?

Nishihara:そうですね。実は僕の母はジャズピアニストの山下洋輔さんの弟子なんですね。母が山下さんに、“どういう人を尊敬しますか?”って質問をしたときに、“物を作っている人を全員尊敬します”とおっしゃったそうなんです。そこにジャズの匂いをすごく感じたんですよ。ジャズというのは今も、狭い界隈で、あいつは本物だとか、そうじゃないとか、そういう議論がよくあるんです。ある意味、そういうのはナンセンスだと思っていて。僕は、すべて受け止められる土壌というのがジャジーな感じがするんですよ。そういう意味で、“新しいジャズのカタチ”っていうのは、色んな物を受け入れて、飲み込めて、さらにそれが真のジャズなんじゃないかなっていう思いもあったりしますね。

――もともとジャズというのは、色んな物を受け入れる懐の深さのある音楽ですもんね。

Nishihara:そうですよね。移民の音楽というか。アフリカから奴隷として連れてこられた人たちが楽器を持ってはじめたもので、形式が重要視されるようなものでは元々なかったと思うんです。

――元の音楽があっても、そのミュージシャンのスタイルでどんどん変わって行くようなサウンドですもんね。

Nishihara:そう。言葉のように。この言葉をしゃべるからカッコ良いとか、かっこ悪いとかってないように、その人がしゃべる事がその人のキャラクターになっていったり、会話とかコミュニケーションと同じようなものなんじゃないかと思うんです。その裏側では、オーソドックスなジャズに対する憧れというのもあるんですよ。
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