妥協のない人選と選曲による<Over The Edge>が残したもの

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21世紀のヴィジュアル・シーンを牽引するバンドたちが数多く出演する、恒例の年越しライヴ・イベント<Over The Edge>。例年、大晦日1日だけの開催だったが、4年目となる今回は30日と31日の2日間にわたって開催。総勢19アーティスト+8セッションという濃厚なボリュームで、年の瀬に集まったオーディエンスをノンストップで沸かせ続けた。

◆<Over The Edge>画像

まず、「仕事納め編」と銘打たれた30日は、<Over The Edge>常連組を中心にキャリア豊かな面々が集結。特効の爆発と共に、一大イベントの幕を切って落としたのはギルガメッシュだ。高いライヴ経験値にモノを言わせた強靭なラウド・サウンドで客席をガッチリ温めると、2番手kαinを率いるYUKIYAが「俺はバンギャルのお父さんだから!」と面白トークを繰り出して場内は笑いの渦に。が、「今年のヴィジュアル系は悲しいことがたくさんあって、ここに出るべきヤツが出れてなかったりする。だから代わりに何かを伝えられたらいい」と前置いて歌われた新曲群では、しっかりと古き良きヴィジュアル系の空気を醸し出してゆく。

ここで初参戦として強烈なインパクトを与えたのが、サクライアヲ、コバヤシシャラク、ササブチヒロシという10年選手たちで2010年に結成されたカッコー。“生麦生米生卵!”と連呼&ファニーなダンスをしたり、「次の曲は仮タイトルが「大嫌い」なんですが、ムックの曲と被るので「大大嫌い」にします!」と宣言するフリーダムさ加減は、さすが「30代前後をターゲットにしたヴィジュアル系バンド」を自称するだけはある(笑)。加えてトークに負けぬナンセンスでマニアックでアングラな楽曲たちで、ニューカマーの新鮮な衝撃を与えてくれた。

さらなる衝撃だったのが、3年前の本イベントでデビューを飾ったboogieman。この日、新ヴォーカリストのお披露目がされることが告知されていた彼らのステージの幕が開き、センターのお立ち台に現れたのは、なんと黒人男性!?  オーディエンスは騒然となるが、一瞬の暗転のうちに新ヴォーカリスト・柊にすり変わるという粋な演出に、場内は一気に沸騰。甘く澄んだ歌声で定番曲と新曲を聴かせながら荒々しく煽り立てる、その堂々たるパフォーマンスで瞠目させてくれた彼から、2011年は目が離せそうにない。

以降は再び常連組が活躍することに。まずは、前日に新木場STUDIO COASTでツアー・ファイナルを終えたばかりのSadieが、連戦をものともしない“攻め”のライヴを展開。分厚いサウンドに心の深層部にまで届くメロディを刻み付けて、“ここはライヴハウスか!?”と思うような熱気を生み出す。メンバー6人が踊りながらマイクを握る「シンデレラ」で幕開けたMix Speaker’s,Inc.も、ハッピーとアグレッシヴを取り混ぜた彼らにしかできないオモチャ箱のようなステージで、観客全員を笑顔に。2011年のメジャー進出が決定しているlynch.は、多彩なフレーズで彩られたスタイリッシュなへヴィ・チューンを完璧にコントロールされ切った演奏と歌で魅せ、名古屋の重鎮にふさわしい不動の存在感を見せつける。

対照的に、この日にしか出来ないステージで驚かせてくれたのがheidi.。頭から上機嫌の義彦が「とにかく気持ちがいい!」と繰り返し、客席に自分の名前を呼ばせて「愛してるぜ!」と叫ぶ姿など、普段の謙虚な彼からは想像もつかないもの。そのハイテンションはメンバーとオーディエンスの双方に伝わって、会場全体を上昇気流に乗せてゆく。結果、場内はホールとは思えぬモッシュの海に。一瞬一瞬の気持ちを歌とパフォーマンスに表す、まさに“これぞライヴ!”である。

さらに、ポジティヴなパワーをポップ・チューンに乗せ、“誰でもWELCOME”なライヴで初心者をも巻き込んでくれたLM.Cを挟み、大トリを飾ったのは、今や<Over The Edge>には欠かせない存在となったムックだ。デジタル色の強い最新アルバム『カルマ』中心のセットリストを、血肉を感じるエモーショナルなものへと変容させたライヴ・バンドとしての手腕は、実に見事。極彩色の着物を翻し、踊る逹瑯のインパクトは凄まじいものだった。

「仕事納め」に特化させた1日だけに、各バンドとも年忘れイベントならではの楽しさやラフさを持ちつつも、自分たちの個性をキッチリと見せつけたのが初日の特徴。グッと締まったステージで、それぞれが現在のシーンの顔に足る風格を示してくれたと言えるだろう。

その分、年越しのお祭り騒ぎな側面は、翌31日の「忘年会編」へと持ち越されることに。この日は前日に出演した常連組によるセッション+<Over The Edge>に初めて参加するバンドが多数参戦して、よりバラエティにあふれたステージで楽しませてくれた。

トップバッターは“ヴィジュアル系エアーバンド”として、今や飛ぶ鳥を落とす勢いのゴールデンボンバー。某大物ミュージシャンに扮した喜屋武豊が消火器を客席に噴射したり、樽美酒研二が年越しソバならぬ年越しうどんを打ったり、まだ午後2時のくせに勝手にカウントダウンをしたりと、もうやりたい放題だ。そんな爆笑の余韻が残る中、Daizy Stripperは夕霧の突き抜ける歌声を核にビビッドな煌めきを放って、その対比にヴィジュアル系の幅広さを改めて感じ入ってしまう。

そして、序盤のクライマックスとなったのがSadieの真緒セッション。なお&風弥を迎えたDaizy Stripperから真緒が「ダンデライオン」を歌い始めると、場内からは驚きの声が! 続いて龍兎&リョヲ丞を招いた少女-ロリイタ-23区の「螺子時計リビドゥー」、Sadieの「迷彩」をプレイするが、どの曲も完全“本気(マジ)”モード。ジャンルの違う3バンドの曲を全力投球で畳み掛け、セッションを超えた完成度で沸かせてくれた。

初参戦組の個性が新たな刺激を投入してくれたのも、この日の大きな見所だろう。幻想的な楽曲に、時おり曲中に台詞を入れるHitomiの詩的なパフォーマンスで独特の香りを醸すMoranは、一方で激しいライヴ曲も共存させるミステリアスな魅力が光るバンド。AYABIEも、ヴォーカリストに転向したばかりと思えないほどハツラツとした夢人のパフォーマンス+サイバーな楽曲で高速をカッ飛ばすような勢いを生んで、我々の目を奪う。また、heidi.の義彦セッションでは、SOPHIAの豊田“ジル”和貴、PENICILLINのO-JIROを招き、「Believe」(SOPHIA)と「DEAD or ALIVE」(PENICILLIN)をプレイ。憧れの先輩との共演に最初は緊張気味だった義彦も、同じくheidi.のコースケ、lynch.の悠介の力を借りて、最後は気持ちよさそうに歌い上げてくれた。

続くDOG inTheパラレルワールドオーケストラは、初登場&初ホールということで気合が全開。頭からオーディエンスを煽りまくり、晴れやかでキャッチーなシングル5曲を畳みかけるステージには、現在人気急上昇中なのも頷けるパワフルさがある。同じく初ホールのアヲイは、とにかく轟音攻め! 高い演奏力もさることながら、ほぼシャウトで暴れ倒しながらも放たれる美メロが印象的に刻まれて、客席全員の拳を振り上げさせる。12月にメジャー進出したばかりの摩天楼オペラも、シンフォニックな世界観と正統派メタル・サウンドで圧倒。ハイ・クオリティな演奏と苑のハイトーン・ボーカルに場内の高揚感はダダ上がりだ。

さらに、ここからお楽しみのセッションが立て続けに登場し、まずMix Speaker’s,Inc.のYUKIは敬愛するL’Arc~en~Cielから、「Drink it down」「the Fourth Avenue Cafe」「stay away」をセレクト。しかも、VersaillesのTERU、ヴィドールのラメ、Ra:INのDIE、heidi.の桐を含めた全員が、「stay away」のPVにちなみ白シャツにタイという出で立ちで、ダンサーと共にYUKIがキレのいいダンスも魅せるのだからたまらない。

中でも、特に忘れられない場面となったのが、ムックの逹瑯セッションだ。長い黒髪をなびかせて「悪の華」(BUCK-TICK)を色気たっぷりに。また、ドラムの樫山圭が活動していたMOON CHILDの「エスケープ」を笑顔で歌い終え、最後に用意されていたのは蜉蝣の「縄」。昨年、一昨年と本イベントに出演しながら、7月に急逝した親友・大佑への追悼を込めた選曲に、涙をこぼすオーディエンスも数多く見られた。実際、歌う逹瑯自身が声を詰まらすシーンも。大佑と共に活動したthe studsのaieに加え、MERRYの結生、Mix Speaker’s,Inc.のseekという彼と縁の深いメンバーが贈る想いの籠った演奏に、きっと天上の彼も喜んでいるだろうことを願ってやまない。

続くMERRYのネロによるセッションも意義深いもの。彼いわく「俺が大尊敬しているバンド」からkyo(D’ERLANGER)を招聘し、Creature CreatureのHIRO、lynch.の玲央、ムックのYUKKEという布陣は、音も貫禄も重量級だ。ハノイロックスの「TRAGEDY」をシンプルながらとてつもなくクールに届けた次の曲は、hideの「TELL ME」。誰もが知る先人の名ナンバーに客席からは一斉に腕があがり、去り際にkyoは天に向かって投げキス。一足先に旅立った盟友への想い――。それは13年前も、今も、変わることはないのだ。

45分の休憩を挟んだlynch.葉月のセッションでは、名古屋の偉大なる先輩・ROUAGEの「endless loop」「JESUS PHOBIA」「白い闇」を、オリジナルの艶やかさを継承してリスペクトたっぷりに披露。ギルガメッシュの弐、Sadieの美月、宇宙戦隊NOIZの叫、Sel’mのMANJ”という気心の知れたメンツも魅力的で、最後には葉月と美月が抱き合うシーンも! そして、これまた初登場のthe bulletが、どこか懐かしいメロディを混ぜ込んだタフなアッパー・チューンで休みなく攻め立て、ヴォーカルのKENZyは客席にまで降りて開演から9時間を経た場内に喝を入れてゆく。結果、2010年のラスト・アクトとなったドレミ團が現れてもオーディエンスは元気いっぱい。2011年で結成9周年というキャリアならではの熟練パフォーマンスで、独特の哀愁ワールドに人々を巻き込んでくれた。

と、もう時刻は0時目前。YUKIYA、seek、逹瑯がマイクを握って現れれば、aieに付き添われて大佑も写真パネルで登場する。もちろん、その他の出演者たちも舞台に上り(なぜか出演していないSHUSEの姿も!)、seekが酒を一気したり、弐が腕立て伏せをしたりとカオスなうちに、銀テープの噴射と共に2011年が到来! 早くも“今年の年末もよろしくね!”と次回の開催を約束して一同が去ったあと、2011年最初のステージを飾ったのはYUKIYAセッションだ。「新年の1曲目なんで楽しげな曲を歌います」と「Can’t take my eyes off of you」のメロディに乗って場内全員で大きく手を振って新たなる年を祝ったあとは、「男ばっかりでムサイので」と招かれた黒色すみれの二人+TANZANのチェロがファンタジックな異世界へとご招待。続いて「いつか死んでいなくなっても、曲だけは残る」という想いをYUKIYAが書いたという「証」の優しくも力強い響きが、激動の2010年を経た人々の心の傷を癒してくれる。

そして、遂に迎えたファイナル・アクト。「2011年は、みんなと一緒に笑顔の時間をたくさん持てたらいいと思います」と、seekがムックのSATOち、heidi.のナオ、ギルガメッシュの左迅を呼び込み、届けられたのはPlastic Treeの「May Day」に「サイコガーデン」だった。<Over The Edge>皆勤賞ながら、現在、病気療養中の有村竜太朗へのエールとも言える締めくくりに、オーディエンスの誰もが飛び跳ねる。そんなステージに、他の出演者も乱入するが、午前2時ともなればアルコールですっかり出来上がった面々も多数。逹瑯がSATOちのドラム・セットを破壊しにかかったのを始め、互いに抱きついたり、お姫様だっこをしてみたり、口移しで酒を飲ませたり。別現場から帰還したゴールデンボンバーに到っては、ガチャ●ンのコスプレをしたり、“あけおめ”と書かれたパンツを脱がされてみたりと、さんざんな有様だ。互いの身体を支え合いながら、なんとか全員が退場して拍手の嵐のうちに宴は終了……したかと思いきや、下手の2階張り出しにYUKKEが登場! 客席に向かって拍手を返し、深々とお辞儀をして、ようやく2日間、計20時間にも及ぶ一大イベントの幕を閉じたのだった。

特に大晦日の13時間に関して特筆すべきは、2011年のシーンを占ううえでの重要バンドとして選ばれた初参戦組のポテンシャルが非常に高く、シーンの新たなる潮流を垣間見せてくれたこと。そして「仕事納め」として本職バンドでのライヴを前日に終えていたため、セッションが例年にも増して力の入ったものになっていたことである。それぞれの想いが込められた妥協のない人選と選曲は、結果、非常に贅沢かつ有意義な時間を生み、単に“楽しい”に留まらないさまざまな感情を、我々に与えてくれた。その意味は大きい。

2日間を通して何人もが繰り返しMCで語ったように、ヴィジュアル・シーンにとって、2010年は本当に悲しいことの多い1年であった。今回の2日間は、ひょっとするとその事実を再確認させる、ある意味で辛さも伴うものだったのかもしれない。しかし、人は悲しみを乗り越えることで、また一つ強くなれるもの。そうしてシーンを活性化させてゆくことが、悲しみに報いる唯一の道なのだ。それはアーティストだけではなく、彼らを支え、また、彼らに支えられている私たちファンの責務でもある。そのことを実感させてくれた今回の2日間は、この先も続く<Over The Edge>の歴史の中で、きっと特別なものとなるに違いない。

取材・文●清水素子
写真●平沼久奈、釘野孝宏

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