中しまりん、人と人を繋ぐ環を感じる<CLASSICS LOUNGE vol.10>

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2011年4月9日、代官山「晴れたら空に豆まいて」にて、東風 中しまりんが、2005年10月10日にスタートさせた<CLASSICS LOUNGE>のvol.10が開催された。当初は、Anniversaryとして行なう予定だったが、震災があり今この時期に開催するかどうかを悩んだ末、Anniversaryをはずし、vol.10としての開催。彼女のなかに葛藤があった分、思いが深く、生きていること、これまで生きてきたことを強く感じるライブとなった。

◆<CLASSICS LOUNGE>vol.10画像

この日、会場には、とても多くの人が集まった。通常、テーブルが用意される場所だが、テーブルなしの椅子オンリー。今、音楽が求められていると実感する。

客電が落ちると、着物姿の中しまりんが登場。挨拶をして演奏に入る。1曲目は、純邦楽曲「鳥のように」を一人で。力強い演奏に冒頭から気持ちを持っていかれる。そして思う。「鳥たちは今、日本をどんな目で見ているんだろう?」と。もし翼があったなら、もっとできることがあるんじゃないかと。しかしそれ以上に、地に足をつけて行けと言われているような気がする。

演奏後、「TONFU HISTORY Re Born」という映像が流れるとアナウンスが入る。中しまりんの音楽との関わりと<CLASSICS LOUNGE>の歴史を収めた映像だ。「TONFU HISTORY Re Born」には、中しまりんが、箏での演奏をスタートさせる前に、ギターを抱えてJ-POPのシンガーソングライターとして活動をしていたこと、中国古箏奏者、伍芳(ウーファン)のコンサートを観て、再び箏を始めたことなど、これまで知らなかったことが収められていた。また、東風になる前に結成した箏と十七弦と尺八の4人編成のバンド「CLASSICS BAND」のこと、箏と尺八のふたり東風時代、そうして、ひとり東風になってからの話など、中しまりんの音楽の歴史がそこにあった。途中、可愛いイラストが入り、笑いを取る場面も。

映像途中から、箏で初めて創った曲「風ぐるま」を箏と十七弦と尺八という「CLASSICS BAND」時代の編成で演奏。風の思うままくるくるとまわる風ぐるまは、決して風にあらがうことはできない。でも、それと同じくらい風は躊躇する人の背中を押す。この曲は、確かに中しまりんの背中を押し続けてきたのではないかと思う。

続く「游」は、東風バンドとピッコロの近藤孝憲。ピッコロの音はとても可愛らしく、心が温かくなる。春を全身に感じて公園をスキップしたくなるようだ。「游」には、およぐ、あそぶという意味がある、まさしく曲から感じる印象のままだ。

今回のライブは10回目ということで、これまで中しまりんに縁がある多くのゲストが登場する。曲ごとに入れ替わる出演者。先の読めないドラマのようでとても楽しい。

「游」で、ワクワクしたあとは、昭和の名曲「蘇州夜曲」。1コーラス目は箏がメロディを歌い、始まると一気に「蘇州夜曲」という曲の世界に連れていかれる。そして、2コーラス目はチェロが歌う。和と洋のそれぞれの音色。そしてダイナミックに盛り上がる。名曲はどんな形でも心に響くが、楽器が歌う今夜の「蘇州夜曲」は一段と心に迫ってくる。

一部ラストは「歩」。十七弦を意識して創られた曲。十七弦の太い音で始まる。洋楽器でいえば、ウッドベースのような低音が無性に心地良い。厳かで厚くて、暖かい。曲は、十七弦から箏に引き継がれ、パーカッションが絡んでいく。まる、本当に歩いているよう。ちなみに十七弦は、弦が17本あるもので、お正月の定番曲である「春の海」の作曲者、宮城道雄が考案した楽器だ。

ここで休憩をはさむ。

休憩明けに目にしたのは今までにない光景!そう、着物を着た中しまりんが、ギターを抱えている。「TONFU HISTORY Re Born」で、中しまりんが、かつてJ-POPのシンガーソングライターだったと語られていたことを証明するかのよう。当時の曲、3曲を披露。ギターを弾きながら歌う。ピアノには酒井ミキオを迎え、J-POP時代が再現される。

MCでは、自分のことをオンナ版ギター侍と揶揄した。とても緊張していると言いながら「All by myself」と「yesterday&tomorrow」を披露。当時、模索しながら書いた詞に今も励まされることがあるという言葉も。

続いては、ギターで始まる「梅ノ花」。この曲は箏でも演奏している曲。かつて「梅ノ花」について、JAZZっぽさを感じさせてくれると書いたことがあるが、その意味が分かった。そう、元々は歌詞がついていた曲だったのだ。曲の途中で、ギターから箏に移動。ギターから箏に楽器を変える奏者は、世界に彼女一人かもしれない。そんな斬新なことを当たり前にしてしまう。さすが、オンナ版ギター侍は、半端じゃない!

箏の前にくるとやはり安心する、と言いながら新曲へ。タイトルは「流るる」。この曲には二胡が使われている。そして、この日の出演者に二胡を弾くことができる人がいるとうことで、Grand Noirのバイオリン:武内いづみが二胡を持って登場。

「流るる」は、とても清らかな曲と言いたいけれど、おそらく単なる清らかさではなく、何かを超えて、いったん底を見たからこそ、表現できる清らかさだと感じる。二胡の音が奥行きを出し、繰り返されるフレーズが、ためらいであり、同時に流れでもある。

そして、「会いたい人を探して」と勝手に歌いたくなるような「Point of Blue~蒼の世界~」。また、起きたことがすべて夢だったならと、叶わぬことを願いたくなるような「永遠なるもの」。

こうやってレビューを書いていて思うことがある。東風のライブには、何度も足を運んでいるが、曲に対しての解釈が毎回変わる。それは、言葉がないぶん、縛られることがないからだろう。その時々の自分の感情や状況が、そのまま自分に返ってくる。それは、自分の弱さと対面する瞬間にもなるが、良い意味で自分に足りないもの、自分がこれから手にいれたいものを知る瞬間にもなる。

本編最後は、愛する人に「さよなら」を言えないまま永遠の別れをすることになってしまったことを思って書いた曲。悲しいことに、今、その思いを抱えている人は、とても多い。突然の別れを、人は誰も想像して生きていない。そして、それを想像して生きるほど人は強くはない。しかし、きっと今多くの人が空を見上げ、もう会えない大切な人を思っているのだろう。人生は、凪のように静かなときもあるが、突然嵐が起こることもある。人生の抑揚を表現するこの曲。人が信じることができるのは、今この瞬間しかないのかもしれない。未来はかりそめ。でも信じたいし、信じることでしか人は前には進めない。

アンコールは、新曲「環-WA-」。今回、初めて披露される曲だ。環、それは繋がり結ばれるもの。この時期に、10回目を迎えた<CLASSICS LOUNGE>は、人と人を結ぶことや繋がることを教えてくれるライブとなった。「環-WA-」では、出演者全員が舞台にあがり、曲に載せられた言葉を歌う<明日へと続く道を 手と手 結び 歩いてゆこう 心つなぐ どんな時も一人じゃないと信じて>と。真っ直ぐな歌詞が、直球で迫ってくる。歌には、子どもたちも参加し、よりピュアな印象になる。

2011年4月9日は、東風 中しまりんにとってだけでなく、この場に居た全員の心に刻まれる日になった。

笑いあり、涙ありのライブ。初めてみるギター姿と初めて聴く歌声、そして、彼女の今。何かを超えなければいけないこの時期に観た、彼女の挑戦と演奏。生きていることにもっと必死になりたいと感じ、なんとなく今日を過ごし明日を待つのは、もしかしたら自分に対して失礼なのかもしれない、と思った。そんな多くのことを身体いっぱいに感じ、気付けば涙がこぼれていた。

「継続は力」。10回を迎え、すでに次回11回目を見据えている彼女。次は、どんなステージを見せてくれるのか、とても楽しみだ。

<CLASSICS LOUNGE vol.10 2011年4月9日>
ゲストミュージシャン
・17絃:磯貝真紀
・13絃:三浦可栄
・尺八:櫻井咲山
・ピッコロ:近藤孝憲
・蝦馬(ピアノ:本間敏之、チェロ:佐藤舞希子)
・ピアノ:酒井ミキオ
・Grand Noir(バイオリン:武内いづみ、ビオラ:田口厚子、チェロ:平松由衣子)
サポートメンバー
・ギター:高井城治、ピアノ:後藤魂、パーカッション:渡辺純也
1.鳥のように
~映像~
2.風ぐるま
3.游
4.蘇州夜曲
5.My Favorite Things
6.歩
~休憩~
7.All by myself
8.yesterday&tomorrow
9.梅ノ花
10.流るる
11.Oriental Wind
12.Point of Blue~蒼の世界~
13.永遠なるもの
14.天を仰ぎて君想ふ
En.1 環-WA-

<琴語り~山本周五郎著「鼓くらべ」~>
2011年4月30日(土)
@日本民家園 原家(川崎市多摩区枡形7-1-1)
11時30分~ / 13時30分~(40分入れ替え制)
出演:東風(箏:中しまりん、ギター:高井城治)、景山聖子(語り)
無料(但し日本民家園への入場料がかかります)
内容:東風とナレーター景山聖子による“琴語り”。名作の朗読に箏とギターの音色が乗っていく、語り&音楽エンターテイメント。
※山本周五郎著「鼓くらべ」
絹問屋の娘のお留伊は金沢城でやる鼓くらべの稽古に打ち込んでいた。ある日、旅をしている絵師と名乗る老人と出会うが、老人の余命は少なくなっていた。お留伊が鼓を聞かせたり、老人から様々な話を聞いたりと交流していく中で、老人がお留伊に伝えたかった言葉とは?そして衝撃の事実をお留伊は知る事となる。芸術の真髄を伝える感動の物語。

◆東風-TONFU-オフィシャルサイト
◆中しまりんBlog「My life as a cat」

伊藤緑 http://www.midoriito.jp/
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