テイ・トウワが“ハレの日”にしか創らなかった初コンセプト盤『SUNNY』

ポスト
【テイ・トウワ 『SUNNY』 インタビュー】

テイ・トウワが、前作『BIG FUN』以来2年ぶりとなるオリジナル・アルバム『SUNNY』をリリースする。これまで『Future Listening!』(1994)にはじまり、リリースの度に音楽の新らしい発見を提供し続けてきた彼だが、今回は、なんと自身初となる“コンセプト・アルバム”であるという。

「これまで僕の作品って、コンセプト・アルバムだって言われることが多かったんです。『Future Listening!』であれば、“ボサとインドによるラウンジ”ってフォーカスされたから、わからないこともないけど、でも実は出来上がった曲を並べ、後でその時の気分を言葉にしただけで、決してコンセプトありきで作ったわけじゃないんですよ。でも今回は初めて意識しましたね。初のコンセプトアルバムと言っていいと思う。コンセプトは“ハレの日にしか作らない”!もうハレじゃナイ日に曲を創りだすのはやめよう!と。曲ってやっぱり閃きから生まれてくるものでしょ。だから、無理に創るのはもうやめよう、ハレた日を待ち、自分をいい状態にする。意識的に閃くまで待とうと。だからタイトルも『SUNNY』です。前2作『FLASH』(2005)『BIG FUN』(2009)でも、自分の気分が乗った時だけ曲を作る、楽しい気分の時だけ作るってやり方にしたんだけど、今回はそれをさらにもう一歩、踏み込んだ感じ。3部作の完結編とも言えますね。それにしても…『FLASH』って言葉としてはある種『人口太陽』でしょ。それが今回は『SUNNY』~太陽光だから。思えば遠くに来たもんだなって思いますね」

「ハレの日限定」とは言え、もちろんただ待っていたわけではない。前作では音を鳴らしていない時こそ重要!と、気分を上げる試みがなされたが、今回もまたそうした目に見えない制作活動が行われている。

「温泉に入ったり、おいしいものを食べたり、映画を見たり、古本を探しに出かけたりといった自分で自分を楽しませるようなことは今回も可能な限りやりましたね。それも音楽制作ですから(笑)。あとはMacBookを、移動中やどこかへ滞在した時に持っていき、その場で曲を作ったり。山の上ホテルに出かけて連泊して、部屋にこもって飽きたら近所を歩き、気分が乗ったら曲を作ったりとか。ホテルライフ。レコードが一万枚もある軽井沢のスタジオとは違うし、機材もパソコンのソフトシンセだけど、制約によって逆にモチベーションが上がったりして。いずれにせよ、生活に密着しながら、無理に曲を作らず、湧き上がってきた楽しい気分を音にしたわけで、それだけにこのアルバムは制作に費やした約1年間の自分の気分が表れているとも思いますね」

こうした日常の閃きから生まれた本作には高橋幸宏、水原希子、ハトリミホ(cibo matto)、小池光子(Beautiful Humming Bird)、Taprikk Sweezee、YURICO、バクバクドキン、細野晴臣、高野寛、森 俊二、小山田圭吾、砂原良徳、高田漣、DJ FUMIYA、が参加。ハウス、ヒップホップ、R&B、ダブ、ファンク、エレクトロ、エキゾチックといったバラエティを咀嚼したユニークなサウンドがそうした世代を越えたアーティストたちとともに、作り上げられている。

「キャスティングに関しては、これまではその妙みたいなところを狙ったこともあったけど、今回は音の仕上がりを意識しつつ、なりゆきでお願いしましたね。『The Burning Plain』は鼻歌でメロディを作ってたら、高橋幸宏さんの歌声を思いついたんで頼みましたね。幸宏さん自身、決してやらなそうな、ニュージャックスイングみたくハネる下品なリズムだったんでどうかな、と思ったけど快諾してもらって、詞も共作させてもらった。改めて幸宏さんのヴォーカルが自分の中で血肉化してるんだなって思うくらい自分ではしっくりときました。同曲で一緒にボーカルをとる水原希子ちゃんは以前、何かで見た時アーティスト的なものを感じて、こういう人が歌ってくれたらなと思ってたんで、彼女自身初となるレコーディングをお願いしました。『Ruffles』は、このアルバムとしては最初に出来た曲。シンガポールのラッフルズホテルに行った時に散歩中に作ったんだけど、ホッとするような感じにできたかな。NaturalCalamityの森さんにギターを弾いてもらってコーラスも一緒に入れてもらいました。『Cloud』では、唄うようなベースが欲しかったんで、細野晴臣さんに。『TeenageMutants』『Get Myself Together』などは前作からの流れでハトリミホちゃんとTaprikkにも声をかけさせてもらった。Taprikkは、僕と黒っぽい曲をやりたがってたんでPファンクと現代版Go Goを合わせたような『Alpha』って曲も一緒に。最後の『Sunny Side of The Moon』って曲では、昨年スタートした『HOTEL H』というパーティで小山田くんと砂原くんにDJをやってもらって、3人でO/S/Tってユニットを一緒に組もうって話をしていたんです。今回は最初ジングルを砂原くんと作ろうと始めたのが、結果的にO/S/Tとして、勝手にNHK番組みたいなアルバム中一番チルな曲を一緒に作りました」

ちなみに、クレジットを見て気づくのは、これまでの「Featuring」表記ではなく「With」の4文字。個性的なアーティストたちとの共同作業の中で、テイ自身、楽曲制作へのモチベーションは上がっていったようだ。

「クレジットに関しては、正直に言うと『もう、どっちでもええやん』って感じかな(笑)。今までみたいなこだわりがなくなったってことと、いまが『with』って気分、一緒に作ってるって意識がより強くあったんでしょうね。実際のところ、ノンマーケティングで作ってるから、最初の頃は全部インストになったら、それはそれでいいやと思ったりもしたんだけど、やはり歌ものが好きだし、独りでコツコツ曲を作るのも楽しいんだけど、誰かと一緒にやることで生まれる音楽の楽しさは何ものにも得がたいからね。特に『The Burning Plain』では、大先輩と共作させてもらったけど、それって自分の中では思い切って“ハッテン場”へ行っちゃったくらいの達成感がありますよね(笑)」

一方、今回の制作過程の中で、意識的な変化ははあったのだろうか。「う~ん。作ってる意識としてはないですね。今回はMacBook一台で作っていく中で発見はあったかな。例えば『Exterior』って曲は、全くサンプラーを使わず完璧にカットアップだけで下地を作ってるんですよ。レコードをエンコードして、デジタルにしてったものをドラッグ&ドロップで作っていった。するとファッション誌と男性誌を切り貼りするくらい、音のコラージュ感が出てくるんだけど、大きなスタジオじゃなくても、こういう曲が作れるのがわかったのは面白かったですね。またしても『遠くに来たもんだな~』って思う(笑)」

『SUNNY』に収録された全12曲は、聞く度に異なる印象を受けるほどに、さまざまな音楽的要素が入り混じる。ただタイトルだけを聞いて、思い描く印象とはかなり違う印象を受ける人は多いはずだ。しかし、そこには彼自身の音楽へのビジョンが記されている。

「10年くらい前に軽井沢に引っ越した時、『なぜ軽井沢に?』って質問と同時に『テイさんは仙人みたくなっていくんでしょうか?』みたいによく言われたんだけど(笑)、多少、人間的に丸くはなったとはいえ、決してそんな風にはなってないと思うんだよね。ヒーリング目的だったら自然音でも十分なわけだしさ。やっぱり僕は、音楽って根本的に『スティミュレーション』(刺激)でありたいなって思ってるから。もちろんエッジィな音や尖った音が『スティミュレーション』に思われることもあるんだろうけど、僕自身はもうそんな風には思えない年頃だからね。だからこそ、いままで以上にマーケティングとかセールスポイントとかを気にしないで、自分なりに刺激的な音楽をやっていきたいと思うんですよね。『SUNNY』と題された今回のアルバムはその意味で、僕の日々のスティミュレーションが詰まったものになったと思う」
この記事をポスト

この記事の関連情報