Salyu、“声”という存在の偉大さをあらためて教えてくれたライヴ・レポート

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多重録音技術を前提に、一人が複数のパートを歌い最高で8声のハーモニーを奏でる──。

“クロッシング・ハーモニー”という実験的なテーマを掲げ、プロデューサーに小山田圭吾を迎えて完成させたsalyu × salyu名義の初作品『s(o)un(d)beams』。「自分の声の可能性を見い出したい」。オフィシャルサイトのインタビューでSalyuが語っていたその言葉は、このsalyu × salyuというもの自体の存在意義をそのまま物語る。人間の声という、最もシンプルで、最も崇高な楽器の可能性を追求するSalyuの新たなる音楽世界。その醍醐味を生で体験する貴重な機会を、7月2日・六本木ミッドタウンで得ることができた。

その舞台は、salyu × salyuがCMイメージソングを担当するスマートフォン「INFOBAR A01」の発表を記念した<iida INFOBAR A01 DEBUT EVENT>。吹き抜けの天井が頭上に広がる六本木ミッドタウンのアトリウムに響いた幕開けの音色は、“salyu × salyu sisters”が打ち鳴らすハンド・クラップ。Salyuを中心に、揃いのショートカットと、天使をイメージした純白のコスチュームに身を包んだ4人の手拍子に、メンバー一人ひとりの声が重なり合う。

salyu × salyuが担当した「INFOBAR A01」のCMソングをイントロダクションに、4人混声によるメロディが奏でたのはゾルターン・コダーイ作曲の合唱曲「天使と羊飼い」。Salyuの歌声を中心に、3人の声が重なりハーモニーを作り、リズムを刻む。高音域、中音域、そして低音域、4人の異なる声質をフィーチャーしたその演奏は、厳か、かつ壮大。六本木ミッドタウンの吹き抜けの天井へ舞い上がっていく美しい歌声に引き込まれ、聞き惚れる……。そして、salyu × salyu sistersの木村圭見が爪弾くハープの調べが加わったのは、アルバム『s(o)un(d)beams』収録曲「Hostile To Me」。弦の繊細な響きに背を支えられながら、3人のハミングが広がり、メロディを奏でていく。

「あらためまして、salyu × salyuです。ようこそ、ありがとうございます。ビックリした、すごいたくさんの人が来てくれて。こんなに来て下さると思わなかったのでとっても嬉しいです」

夏の日差しが差し込むアトリウムに、Salyuの笑顔と言葉がきらめく。そして、salyu × salyu sistersの山口裕子がアコースティック・ギターを奏でた「Hammond Song」は、清涼感を携えた声のハーモニーがきらめく。その響きは、耳をフワッと包み込むような優しい感触でありながら、心の真ん中を貫く強さが宿っている。左手を宙にかざし、その手が上下するとともに声のトーンを変化させるSalyuの歌声からは、心地よいテンポ感の中でも感情が強くこもっていることが伝わってくる。癒しとエモーショナルさが同居するような、まさに彼女にしか奏でることができない“声の力”がそこには確かにあった。

さらに「Sailing Days」は、salyu × salyuとして開催した全国ツアーでもバンド・メンバーを務めた高井康生がアコースティック・ギターに加わった。アコギがボッサを思わせるリズムを刻み、ハープ、ハンドベルがきらきらときらめくような音色をそこへ添える。そしてSalyuは、目を閉じながら歌声を大きく広げ、その声に宿るエモーショナルさはどんどん増していく。オーロラのように美しく、雄大に広がるハーモニーからその音と声一つひとつがフェードアウトし、最後はSalyuの歌声が途切れる……。あまりにもドラマティックなエンディングに、大きな歓声と拍手が舞った。

そして、この日のラストナンバーは「続きを」。Salyuのピアニカを幕開けに、歌詞一つひとつが鮮やかに奏でられる。ただの空、ただの雲、ただの見慣れた町、全てがなぜかまぶしい──。そんな歌詞は、まさに今この瞬間の景色と一緒だ。楽器、声、それを見守る人達の表情……。salyu × salyuの歌声に包まれたものすべてが、まぶしく輝いている。

Bye Bye、Bye Bye、Bye Bye、See You──

美しいハーモニーによるお別れの挨拶に、この日一番の歓声が会場を包み込んだ。様々な楽器に彩られながら、“声”という人間が持つ最高の楽器で、新たな可能性を見い出す──。約30分弱という短い時間ではあったが、Salyuが演出する心地よくも鮮烈な音楽空間は、“声”という存在の偉大さをあらためて教えてくれた。

◆Salyuオフィシャルサイト
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