【BARKS編集部レビュー】ギタリストにお勧めしたいデジタル・レコーダー内蔵のモバイル・シンセサイザーJUNO-Gi

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ローランドから発売されているJUNO-Gi。これはピアノやエレピ、オルガンなどの基本音色はもちろん、ストリングスやブラス、シンセ・サウンドなど、高品位な音色を1,300種類以上内蔵しているうえ、5.7Kgと超軽量、しかも簡単という大人気シンセサイザーなのだ。今回、このJUNO-Giをギタリストに勧めたいと思う。鍵盤が全く弾けなくても、ギタリストがバッチリ楽しめる使いこなし術があるのだ。

まずギタリストに注目してもらいたい点として、JUNO-Giが装備している8トラックのデジタル・レコーダーを紹介したい。ギターやマイクをJUNO-Giに直接つないでマルチ・トラック録音ができ、しかもリズム専用トラックも装備していて、一台で気軽に曲づくりが可能。記録媒体はSDカード、製品には2GBのカードが付属しており、32GBのSDHCカード使用時には最大192時間もの長時間録音に対応する。

シンセサイザーで曲作りというと、機能満載のワークステーションでの“打ち込み”を想像してしまうが、このJUNO-Giに搭載されているのは、デジタル・レコーダー。特別な打ちこみの知識、例えばMIDIの知識など無くても、レコーダー部に音を“録音”していけば曲が完成する。それがシンセ1台で、なおかつ感覚的に作り上げていくことができるのだ。だいたい、シンセサイザーにギターをつないで内蔵されたエフェクターを使って録音、さらにマイクでヴォーカルまで録れるとは、JUNO-Giの登場までは考えることもできなかった。


▲ここがJUNO-Giのデジタル・レコーダー部。合計8トラックの他に、リズム専用のトラックがある。赤く点滅させたら録音開始だ。
■パターンを組み合わせるだけでリズムトラックが完成

では早速、このデジタル・レコーダーを使って、簡単な曲作りに挑戦してみる。まずはリズム・トラックだ。

JUNO-Giは、曲を“ソング”と呼ぶ。新しいソングを用意し、そこにリズムを入れていく。といっても、鍵盤を駆使してハイハット、スネア、バスドラムなどをステップで入力するという面倒な打ち込み作業は一切いらない。JUNO-Giは8トラックとは別にリズム専用のチャンネルを持っており、そこにリズム・パターンを組み合わせていくだけでOKなのだ。パターンには、イントロ、バース1・2、フィルイン1・2、エンディングなどがあり、それぞれに多彩なバリエーションを持つ。一つずつ聴きながらリズムを組み立てていく。これは簡単! ハードロックで使えそうなパターンを選んで組み立ててみる。プリセットだけでも400種類近い数を揃えているので、その組み合わせだけでも十分なバリエーションになる。もちろん、編集して自分だけのリズムパターンを作ることもできるので、凝ったドラムパートを作る事も可能だ。

■ギターをJUNO-Giにインプットすればレコーディングできる

次に各トラックにギターやヴォーカルを録音してみる。ギターを背面のインプット端子につなぎ、入力切替スイッチを[GUITAR]に合わせる。そして本体トップパネルの[REC SOURCE SELECT]で[AUDIO INPUT]を選び、画面上で[GUITAR]をセレクト。実際にギターを鳴らしながら、入力レベルを調整すれば準備は完了。さて、好みのギターサウンドをいよいよ作ってみる。


▲[REC SOURCE SELECT]で[AUDIO INPUT]を選び、画面上で[GUITAR]をセレクト。.入力レベルとリバーブを設定すれば準備は完了。

▲こちらが背面パネル。ギターをつないで、入力切替スイッチを[GUITAR]に合わせる。他にもコンデンサー・マイク、ダイナミック・マイクも使用可能。

JUNO-Giはレコーダー部に多彩かつ高品位なエフェクトを搭載。まず、インサート・エフェクトにはプロからも定評があるBOSSマルチエフェクターの最高峰「GT-10」クラスのエフェクトを内蔵、入力する楽器に合わせてギター用、マイク用、ライン用から選んで使う。エフェクトの種類は豊富で、これらを組み合わせて使う事ができる。


▲インサート・エフェクトでGUITARカテゴリーに入り、[アンプ・モデリング]から[HI-GAIN]タイプの[BOSS DRIVE]を選んでみた。
さて、ギターの音作りだ。GUITARカテゴリーではエフェクトだけでなく、なんとプリアンプとスピーカー・モデリングを使用したアンプサウンドが得られる。ローランド独自のCOSM(Composite Object Sound Modeling)技術の素晴らしさを実感する。COSMとは、楽器の素材や回路、さらに電気的、電子的な影響、そして空間特性も含め、考えられる様々な要素をDSP処理し再現する技術で、先月紹介したBR-80などローランド/ボスの様々な機種に搭載されている。クリーン系、クランチ系、ディストーション系、メタル系まで42のバリエーションを有する。これらは細かくパラメータをいじって自分だけのサウンドを得ることもできるが、プリセットでも十分。クリアなアルペジオを入れるなら[JC CLEAN]タイプ、粘っこいサウンドの[CRUNCH]タイプ、70年代ロックには最適な[MS CLASSIC]タイプ、そして激しい歪みの[METAL]タイプなどなどバリエーションを多数内蔵している。どれをとってもサウンド・クオリティは素晴らしい。ここでは、音の丸みと歪みのバランスが心地良い[HI-GAIN]タイプの[BOSS DRIVE]を選んで、バッキングを入れていく。

8トラックあるので、バッキング、アルペジオ、ソロとギターで3トラックを使っても、まだ5トラックある。ベースに1トラック、キーボードに2トラック使っても、まだヴォーカル用に2トラックあるので、コーラスを入れることもできる。もちろん、ギターやマイクをステレオ・トラックで録音すると、それだけで2トラックを使ってしまうので、ここは注意が必要。ギターにディレイを使って左右にパンで振りたい時などは2トラックを使ったステレオ録音がお勧めだ。

ギターサウンドは、この他にイコライザー、ノイズ・サプレッサー、FX、ディレイ、コーラス、リバーブを設定することができる。ここを詳しく説明していくと長大な原稿になってしまうので、それぞれの好みのエフェクトを選んでいってほしい。LCD画面の大きさがここに生きていて、細かいパラメータの設定が実にやりやすい。音を出しながら、サウンドメイクに没頭してほしい。

ギターの録音でも頭を悩ませることは無い。録音したいトラックを選び、レベルをある程度合わせるだけ。細かい調整は後でできるので、ここでは次々に録音を進めていけばよい。バッキング、アルペジオに続いてはギターソロを入れていく。

いろいろ弾きたおした結果、特に気に入ったサウンドは[METAL LEAD]だ。最高のテクニックを駆使して、弾きまくりのギターソロを入れてみる。ここでV-Track(バーチャルトラック)が実に役に立つ。JUNO-Giには8トラックにそれぞれ8つのV-trackがあり、そのどれか一つを録音もしくは再生に使うことが可能。最大で8×8=64トラックが存在するのだ。つまり、バーチャルトラックを駆使すると、8テイクの録音をすることができる! だからガンガン弾いて、それを保持、また違うバージョンのソロを保持と録音を重ね、その中から気に入ったものを使うことができるというわけ。これは便利。気が済むまでギターソロを弾くことができる。

■キーボードの録音もコードメモリーで簡単に

さて、ギタリストにとっての難関はキーボードの録音だ。従来は打ち込みを駆使して完璧なキーボードを入れてしまうか、必死に練習するしかないのだが、JUNO-Giに搭載のコードメモリー機能がここで威力を発揮する。これは鍵盤を1つ弾くだけで、あらかじめ登録されているコード・フォームに従って和音を鳴らすことができる機能。Pop、Jazz、Bluesなどなど、プリセットでも雰囲気のあるコードが鳴るので、聴きながら自分の曲に合いそうなものを選んで入れることができる。


▲これが魔法の[PREVIEW]ボタン。音色に合ったフレーズを奏でてくれる。
ベースの録音をすっ飛ばしたことに気づいている人も多かろう。ベースの録音にはベースを接続してギター同様に録音する手もあるのだが、ここで面白いのがプレビュー機能。シンセサイザーセクションの[PREVIEW]ボタンを押すと、その音色に合ったデモフレーズを鳴らしてくれるという、なんだか気の効いた機能なのだ。フレーズが思いつかない時のネタとして、はたまたこれを録音することも可能なので、何かしら活用できそう。思わぬ発見があったりする。それと同じく興味深いのがアルペジオ機能。これもシンセサイザーセクションの[ARPEGGIO]ボタンを押すだけ。和音を弾けばその分散和音を自動で演奏してくれる。分散パターンも多彩なので、あとはテンポを合わせれば鍵盤が苦手なギタリストでもそれらしいフレーズを録音することが可能。これを上手く使わない手はない。

さて、ここまでの録音ができたら、あとはヴォーカルの録音だ。こればっかりは自宅ではできないので、リハーサル・スタジオを使う。でも持って行くのはJUNO-Gi 1台だけでいい。これまでなら、スタジオのミキサーを使って、エフェクトも持参して調整し、レコーダーの細かい設定をしながら、なんて面倒なことがあったが、JUNO-Giがあれば、そういうことは全く不要。しかもとにかく軽い!!コンデンサー・マイク、ダイナミック・マイクのどちらも使えるので、JUNO-Giにマイクをつないだらその種類に合わせて、[PHANTOM]のON/OFFを選ぶ。そして入力レベルを調整すれば、すぐに録音を開始することができる。とにかくセッティングが楽。さらにエフェクトも使えるので、サウンドメイキングもバッチリだ。


▲マイクをつないで入力レベルを調整し、ライブ・セットに[PRESET 621 VOCODER Ens]を選ぶ。鍵盤を弾きながらマイクに向かって声を出せば、ボコーダーとしての利用ができる。
また、マイクでは面白い使い方もできる。それがボコーダーだ。JUNO-Giではエフェクトを使ってボコーダーを再現。シンセサイザーセクションのライブ・セット[PRESET 621 VOCODER Ens]を選び、鍵盤を弾きながらマイクに向かって歌えば良い。これを使えば、Perfumeっぽい効果も思うまま。一度は試してみたい機能だ。

たったこれだけで、全パートの録音は完了。あとは、JUNO-Giで作ったドラム、ベース、キーボードのパートをバンドのメンバーに差し替えてもらうのも良い。自宅でデモを作り、さらにバンドで曲を仕上げていくという手法。ここでJUNO-Giのレコーダーを使うことで、最小限の機材と手間でできる。JUNO-Giはとにかく軽く、また電池駆動もOK。エネループなどのニッケル水素電池(単3形)8本で5時間の使用ができる。だから、自宅からスタジオに持ち歩いたり、ストリートでのパフォーマンスにももってこいで「モバイル」と銘打っているのもうなずける。

■マスタリングまでJUNO-Giでできる

出来上がった楽曲は、[BOUNCE]モードで2トラックに集約し、[MASTERING]モードでマスタリング、そしてCDを制作することになる。BOUNCE録音の時にリバーブやインサート・エフェクトをかけることができるので、最終的なサウンド作りはココでやってもよい。そしてそれを2トラックのVトラックにトラックダウンしたら、次はマスタリング。ここではマスタリング・ツール・キットが用意されているので、最適化された音量にしオーディオファイルに落とし込む。エクスポートするのは、44.1kHz/16bitのWAVデータ。つまりCDと同レベルの高音質なオーディオファイルを作ることができる。あとはファイルをPCにエクスポートして、CD作成が可能となるわけだ。

この原稿では、鍵盤を弾けないギタリストにJUNO-Giを使ってもらうためのアイデアを読んでもらった。だから、JUNO-Giの持つシンセサイザーとしての機能については説明はしていないので、そこらへんは了解していただきたい。

とにかく、この1台で本格的なレコーディングがすべてできる、それもワークステーションを使うような専門的な知識や煩雑な操作無しで、ということを分かってもらえたら幸いである。

追記として、PCとの連携については少々紹介しておきたい。JUNO-GiはUSB端子を装備。USB MIDI/AUDIOに対応しているので、DAWソフトと組み合わせたPCでの音楽制作にもバッチリ。また、「Cakewalk Production Plus Pack」を同梱。CakewalkのDAWソフト「SONAR 8.5」をベースにした「SONAR LE」をはじめ、多彩なサウンドを内蔵したソフト・シンセ「Cakewalk Sound Center」、リアルなドラム・サウンドによるリズム作成が行える「Studio Instruments Drums」、複雑な音色エディットもできる「Rapture LE」など、さまざまなアプリケーション/プラグイン・ソフトとJUNO-Giを組み合わせて本格的な音楽制作も可能だ。

text by BARKS編集部 森本

◆JUNO-Gi
価格:オープン (予想実売価格 11万円前後)
発売中

◆JUNO-Gi 製品詳細ページ
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