井上 侑、片寄明人&石井マサユキを迎えてのロング座談会 PART.3

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井上侑の『LOVEBIRD』の全体のプロデュースは、片寄明人(Great3、Chocolat & Akito)と石井マサユキ(TICA、gabby&lopez)の2人だけではなかった。今までの井上のヴィジュアルを知る者だったら誰しも衝撃的であろう今作のジャケットも、一種のプロデュース作品だからである。さらに井上のキャラとミュージシャンシップを片寄と石井が分析。鋭い洞察力にうならされるばかりだ。

◆「タピオカミルクティー」PV

──ジャケットなどのアートワークは、片寄さんの奥さんのショコラさんが手掛けていますね。

片寄:はい。ぼくは彼女が今までやってきたアートワークのセンスが、ちょっとわからなかったんですよ…ゴメンね(笑)。ぼくらが作る音楽の雰囲気ともちょっと違うから、今まで彼女がやってきたヴィジュアルイメージじゃ音とうまくマッチしないし、どうしようかなと思ってたんです。そしたら彼女自身もヴィジュアルに対しては、変えたいっていう気持ちがあって。具体的にそういうことに関して“もしアイデアがあれば色々聞かせてもらいたい”という、開かれた姿勢だったから。

──なるほど。

片寄:といっても、こちらの方の予算もかなり限られていたんで。だけども音同様にね、けっして安っぽくないプロダクトが作れる…仲間に声掛ければできるかなあと、ちょっと思って。まあショコラは自分のアートワークもそうだし、けっこう他人のものであるとかアクセサリーや洋服のデザインとかもして、アイデア豊富だから、彼女にディレクションを任せて。あと、ぼくら夫婦の友達でカメラマンのかくたみほちゃんっていう…ソフトバンクのCMの犬のカイくんの写真展とかもやっている子と、あとデザイナーの石森康子ちゃんっていう…全員女の子なんですけど。井上 侑ちゃんの音楽を聴かせたら、みんな気に入ってくれたし。“なんか仲間うちで面白いことができたらいいじゃん”ってことで。衣装もショコラの友達でLOKITHO(ロキト)っていう素敵なブランドがあるんですけど、そこのデザイナーに声掛けたら「ぜひ使って!」っていう。ほんとにそういう、身内の優しさに助けられ、仲間でアイデアを出し合って創ったのが、このヴィジュアルなわけですね。もちろん彼女も交えて話して。

井上:はい。

片寄:下北沢のモナ・レコード(ライブハウス)を、店長の行さんの御厚意でお借りして撮影したんですよ。素敵なアップライトピアノもあったしね。写真もビデオもスタジオ使ってないんですよ(笑)。カメラだけ持っていって撮ったっていう流れなんですけど。でもほんとに、いいアートワークになったなと思いますね。満足してますよ。

井上:うんうん(ひたすらうなずく)。

──侑さん、ヴィジュアルを変えたいという気持ちがあったんですか?

井上:そうですね。ヴィジュアルも、音に関しても“この人すごい、かっこいいな”って思う人っているじゃないですか。でも自分に何が合うか、自分がどんな服を毎日着たいのかっていうのが、わからなくて。学生時代もそうだったんですけど、真っ黒な服ばかり着ているかと思えば、次の日はカラフルだったりとか。ハイヒールみたいな高い靴を履いているかと思えば、次の日はスニーカーとか。コロッコロッ変わっちゃって、自分でもどこか見えなかったんですよね。

──侑さんの今までのCDなどに対する、片寄さんの第一印象と同じですね。

片寄:だから面白いタイプですよね。歌の世界にはブレがないんだけど、逆に言うとブレがないのは歌と声とメロディっていう部分だけで、それ以外に関しては日常生活もブレブレな状態ですよ(笑)。

井上:ブレブレです(笑)。

片寄:この人、なんなんだろー!っていう(笑)。不思議な人っていうか。よく友達とかに「何考えてるかわかんない」って言われたりするでしょ?

井上:言われますよ。すごく仲のいい人以外からは、言われますね。

片寄:パッと見、つかみどころがないわけじゃなくて、つかみどころがありすぎてわからないっていうタイプかもしれないですよね。

──ということは今回のアルバムに対してのヴィジュアル・イメージも、もともと侑さんの中にはあまりなかった感じですかね。

井上:そうですね。ただ、子供っぽい感じからは脱却したいなとは、漠然と思ってたんで。それぐらいですかね。

──以前の作品のジャケットが子供っぽい感じなのは、意図したところもあったんですか?

片寄:セカンド(2009年の『Hello!!』)なんかはちょっと子供っぽい感じはあったけどね。“若々しい”っていう言葉の方がいいかもしれない。

井上:そうですね。

──ライヴ会場限定販売手作りCD『ゆうのたね』シリーズなどのイラストのジャケットも、楽しいといえば楽しくていいですけど。NHKの『みんなのうた』っぽい雰囲気で。

井上:まあ、そうですね。うんうん。でも、綺麗な服とか大人っぽい服を着たいと思っても…リュックに熊のぬいぐるみを付けちゃったりとか、したくなる。すごく子供っぽいところもずっとあるんですけどね。とはいえとにかく脱却したいっていう、どうにかしたい!っていう思いだけが先にあって。どうとしたらいいのかはわからなかったので、お願いしたという感じですね。

──そうでしたらピッタリのタイミングで。

片寄:そうですね。そういう感性って、たとえば本物のアートに接したりとか、色んなものに触れていくことでわかってくる。相対的なものじゃないですか、自分の個性を認識するっていうのも。世界を知らないと、自分がどういう存在かわからないわけだから…っていう意味で彼女は、今までどこか外に対して閉じてるところがあった人なんだよね、人間的に。

井上:うんうん。

片寄:それが彼女の音楽の面白さにもつながってるんだけど。ただそれを今回、色々な人の手に届けていかなくてはいけないってときに、じゃあ社会とこの子をどう接点を取っていこうかってときに考えるのも、プロデューサーの仕事でもあるんでしょうね。だから、これは一つの、ぼくが提案した彼女の世界との接点の取り方っていうことであって(笑)。彼女の一部分かもしれないけども、今回はここに重点を当てさせてもらったという感じかな。

──片寄さんが今言われた「閉じているところがある」って話で思いましたが、手で顔を半分隠すアイデアはどなたが?

井上:顔を隠すのも、ショコラさんのアイデアだったんですけど。

──CDのアートワークでは未使用ですが、腕で顔を全部隠す写真と、隠していた手を顔から完全に横にずらした写真も撮られていますね。前者だと自分自身を隠しているような、後者だと自分自身をさらけだしているような。でもその中間の侑さんがジャケットを飾るというのも、今回のアルバムにふさわしいです。

井上:言われてみればそうですね(笑)。そういう意味でも、今の自分が表されていると思います。

片寄:アートワークの評判はいいですか?(笑)

井上:もう、ものすごい…男女問わず、老若男女。ホントに。ホメられたことのない、事務所の大先輩の女性とかにも。

片寄:ショコラもガーリーなイメージが強いと思うんだけど、ああ見えて実際は女性を売りにするタイプじゃないんだよね。どちらかと言えば中性的な人なんですけど。

井上:そうですよね。

片寄:異性に対してじゃなくて、女性から女性への視点っていうかな、女の子が好きなものとか、かわいいと思ったり、いいと思うものへのアンテナがすごい子だから、それは僕みたいな異性から見ると面白いよね。自分たちのChocolat & Akitoでは一緒にデザインも考えるけど、他人の作品で夫婦で仕事するっていうのは初めてだったんですよ。

井上:あ。すごくよくやってらっしゃるのかと思いました。

片寄:全然。夫婦揃って楽しかったなーという感じです(笑)。こういう機会があったら、またやりたいなと思うぐらい。

井上:だからこそ、これだけ曲とヴィジュアルとがマッチして。

片寄:うん、そこはやっぱりブレない。お金を積めばさ、一流のクリエイターは集まってくれますけど、かといってそれだけで素晴らしいものができるかっていうとやっぱりそうではないと思うし。お互いの意思疎通というか、最終的な聴きどころ、見せどころっていうのが、どれだけ一致しているのか、何を表現したいのかっていう部分で。今回そういう意味ではすごく仲間内での仕事だったから、みんなが見ているところが一緒だったからね。

──いい意味でアットホームなムードも漂っています。それにしてもまさにトータル・プロデュースですね。プロデュースの真髄というか。

片寄:真髄かどうかはわからないけど(笑)。別にアーティストに限らず、自分をどう社会に見せていくのかっていうことはプロデュースだと思うんですよね、何事にもそういうことだと。でも逆にね、ここまでやらせてもらうのは、なかなかないんで。まあ色々大変だったけど実現できたっていうのは…自分にとっては、いい経験にはなりましたけどね。ジャケットもここまで納得がいくものになるとは失礼ながら思ってもいなかったんですよね。

井上:衝撃でした(笑)。

片寄:色んな制限があったから、ほんとに。予算の関係でブックレットが作れないとか(笑)。だけど六つ折りの、こういう紙一枚の歌詞カードもいいでしょ?

──二つ折りの紙一枚のジャケットだけのCDとかだと寂しいですからね。

片寄:歌詞カードの写真で彼女が二重にされているのとかは、ニコ(ヴェルヴェット・アンダーグラウンドとも絡んだ女性)のファーストの『チェルシー・ガール』のイメージだったんですよ、実はね(笑)。

──そうでしたか…さすが今回の座談会の前にもディスクユニオンで中古レコードを漁っていた片寄さんならでは! ネタがいっぱいありますね~。

井上:すごい昔のジャケットなんですよね?

片寄:60年代後半…69年ぐらいのものかな。

井上:いやぁ…すごい…(ひたすら感心)。

──ところで、今まで片寄さんは色々な人をプロデュースされていますが、侑さんはあまり色々言ってこないタイプでしたかね。

片寄:そうですね。曲と歌詞と歌ってとこにはすごく彼女自身のこだわりがあるけど。たとえば『こういう音にしたい』『こういうのにしたい』っていうところに対しては、わりと柔軟なタイプだから。それはそれで…それぞれのアーティストの姿勢は、色々あってしかるべきだと思うし。むしろその分こっちは、こういう言い方はアレかもしれないけど好きなことができて、それを受け入れてもらったから、結果的に良かったと思いますよ。

──侑さんは無色に近いですかね。

片寄:そうだね。わりとそうだね。音楽的にはそうかな。ただ、出てくるものは相当個性的ですけどね。

──歌詞にしろ曲にしろ?

片寄:うん。ただ、色んな音楽を今後聴いていく中で、彼女の音楽がどう変わっていくのかなっていうのは興味ありますけどね。それにしても、根底には自分だけの世界っていうのがあって、その中で生まれてくるものがすべてなタイプの人だと思うんだ。

石井:無色だって意見には全然賛成っていうか…まあ、専門的な言葉を知らないからなのか、特に、強い意見は出なかったですね。でも意見がないわけではないと思うんですけど。彼女なりの推敲を重ねた結果が、歌とピアノの形に既に最終段階で決定している部分があると思うんで。そういう意味では“楽曲原理主義者”ですよね。「イントロの音がそれじゃ絶対イヤだ!」とかこだわる人とかいるけど、それはどうでもいい、みたいな。そういう意味では、純粋な意味でのシンガーソングライターですね。

片寄:でも、わりとそうだなあ、すごく…まあ変わった子だと思うんですよ(笑)。

──どういう点でそう思いました?

片寄:とぼけた人だな~って感じですよね(笑)。育ちはわかんないですけど、お嬢さんなのかなんなのか、わかんないですけど。

井上:全然そんなことない(笑)。

片寄:世間知らず(笑)…って感じがします。いい意味でも悪い意味でも世間知らずな、とぼけた子っていう印象ですね、ぼくの中では。

井上:はぁ~(笑)。

──天然ってやつですかね。

片寄:そうかもね。

──侑さん、今回お二人にプロデュースされてどうでした?

井上:どうだったか? いやぁ…。

片寄:たぶん俺らほどこだわりのある人は、なかなか珍しいと思うので(笑)。でも僕の場合、プロデュースするアーティストによって対応は千差万別なんです。バンドの場合はリクエストが無い限り、下手に口出しはしない主義だったりもするし。

──たとえば先ほどの話で、歌うときの感情の込め方とか言われたりして「えーっ!?」と思ったりとかは?

井上:それ…逆に、お訊きしたかったっていうか。客観的に。ヴォイス・トレーニングとか受けているわけでもないので。まあライヴの映像を後で見たりはしますけれど。でも歌い方について客観的に言っていただくことはなかったんで、訊いてみたかったというのもありましたね。どんなもんですかねえって。けっこう私、がんばろうと思っちゃうと、“アタマっから120%がんばらないといけないんだよ”って感じもあるので。それをこらえて淡々と行った方がここでグッとくるということとか。

片寄:新鮮だったと。

井上:そうですね。

片寄:サウンドの面だと、たとえばレゲエの要素とか、ちょっとワールド・ミュージック的な要素だったりとか、色々入れていくんだけど、それがレゲエってこともわからなかったりするので。「なんなんですか、このリズムは」みたいな、けっこうそういうのありましたよね。ジャマイカにはそういう音楽があってね」って(笑)。

井上:はい。ただかっこいい、みたいな。石井さんはギタリストだと思ってましたけど、パッ!とベースも弾いちゃうんだ、すごい、みたいな(笑)。

──なるほど(笑)。

井上:音楽用語的な会話があまりできないので、今回どんなアレンジになるんだろうなって、わからなかったんですね。一番最初にお二人が会話されてても想像がつかなかったんですけど。曲のアレンジが上がってきたときに…素直に言ってしまうと…「なんて良い曲なんだろう」…というような感覚ですかね。
一同:(微笑)

井上:サビで、たとえば「君のシチュー」が“チャララッ、チャララッ、チャララッ♪”って入ってくるところとか、「たね」のベースの“ズズズン♪”とか、すべてが…なんですかね…。

片寄:石井くんは、いちいちセンスいいんですよ(笑)。

井上:いちいち素敵なんですよね(笑)。素敵なアレンジ、リフだったりが、その曲を、まったくもちろん邪魔なんかすることもなく、いい曲にグウーッ!としてくださっていて。ただ感動…しましたね。はぁ~…こんなことができるのかって。わからないからといって自分で色々やったり、この先どうやっていったらいいんだろうと、このアルバムができるまですごく思ってたので…すぐには自分ではできなかったことですし。それなのにここまで私の曲を…こんなふうにしていただけるのかと。もう、感動しました。はい。

石井:そう思ってもらえたなら、良かったね。ユーザーに届いてナンボとはいえ、まずは一段階をクリアできたかなって感じはありますけどね。でも楽曲ができた段階で、ほとんど勝負は決まってますよ。一番大事なのは曲作ることだと思うんですよね。いい感じのギター、ドラムが最高っていうのは、正直上手い人を集めればできるから(笑)。お金積んでも、元になる楽曲がダメだとダメ。「先輩、恋してます」。そういう曲をいったい誰が作るんだ?って話です(笑)。やっぱり、それを作ることが大仕事だと思うんで。“もうめんどくさくなっちゃったな”とはならないで、彼女がいつまでも、ある種無邪気にというか、楽しくね、また曲を書きたいなみたいな気持ちになる原動力というか、そういう気持ちをキープするきっかけになれるような作品になってれば、うれしいわけですね、参加した意味でも。

──ところで一昨年126本、昨年は147本という数の、超精力的なライヴ活動も展開していますが、6月11日の川崎ラ・チッタデッラ噴水広場でのレコ発イベントを皮切りに、東京、神奈川、千葉、埼玉、群馬、静岡、栃木、山梨、愛知、大阪、松山、宮城…と単身演奏してまわる<井上 侑 弾き語りライブ2011~BIRDCALL~>を年内いっぱい、90本程度実施する予定らしいですね。

井上:はい。今までは東京と神奈川がほとんどで、あとは生まれ故郷の愛媛の松山ぐらいだったんです。でもこんな素敵なアルバムが作れたんで、色々な人に聴いていただきたいんです。

──8月9日の、侑さんの24回目の誕生日を目前にした7日(日)には、一夜限りの特別ワンマン・ライヴを渋谷gee-ge.でやるそうですが、お2人もステージで演奏するんですか?

片寄:ぼくは観に行くだけです(笑)。

石井:やります。アルバムでドラムを叩いた大ちゃん(榊原大祐)と一緒に。まあ侑ちゃんと心中するつもりでステージに立てば、あまり怖いものはないです。

というわけで、ピアノ弾き語りの歌が好きな方はもちろんのこと、マニアックな音楽ファンも一度観たら何か残るのが井上 侑のライヴ。普段激しいロックを中心に聴くぼく自身も、たまたま観たライヴ一発でヤられた。初のサーキットということで本人もやる気まんまん。期待していい。

文:行川和彦 Kazuhiko Namekawa


<弾き語りライブ2011~BIRDCALL~>
7月23日(土)@千葉・イオン八千代緑が丘
7月24日(日)@神奈川・相模大野ステーションプラザ
7月30日(土)@神奈川・文教堂厚木R412店
7月31日(日)@山梨・ラザウォーク甲斐双葉
8月19日(日)@神奈川・川崎アゼリア地下街
8月25日(木)@埼玉・ららぽーと新三郷
8月28日(日)@千葉・ららぽーと柏の葉 and more!

<YU INOUE ONE NIGHT SPECIAL LOVEPOTION>
8月7日(日)@渋谷gee-ge.
OPEN18:30 START 19:00
ADV 2,500YEN DOOR 3,000YEN(+one drink)

7月31日(日)@山梨・根津記念館
「夕涼みコンサート」
9月3日(土)@愛媛・伊予市
「夕焼けプラットホームコンサート」

◆井上侑オフィシャルサイト
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