【D.W.ニコルズ・健太の『だからオリ盤が好き!』】 第29回「埃だらけのレコード棚から ~ビートルズのオリジナル盤~」

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D.W.ニコルズの鈴木健太です。
もう夏も終わり、秋がやってきますね。秋の夜長にアナログレコード。これもまた秋の楽しみです。

さて、僕は先日、用事があって実家に帰りました。そして、実家の埃だらけのレコード棚を漁ってきました。今回はそのときの話をしようと思います。

連載の第1回でも書きましたが、僕は幸運なことに、恵まれた音楽環境で育ちました(と思っています)。僕の両親は比較的熱心な音楽ファンだったので、その両親の好きな音楽たちが、我家ではよく流れていたのです。その音楽とは、ディランやサイモン&ガーファンクル、PP&Mなどの米国のフォークミュージック、モダン・ジャズ、そしてビートルズ。もちろんそれらは現在の僕の音楽的嗜好に深く影響を与えているし、ミュージシャン、ギタリストとしての音楽性にも多大な影響を与えています。

両親もまたアナログレコードの方がCDよりも絶対的に音が良いとは言っていますが、そこに特別なこだわりはないらしく、CDが主流になってからは、それまでレコードでよく聴いていたアルバムなどは、「手軽でいい」と、CDを買いなおして聴いています。

先日実家に帰った際、ふと、「昔、家でかけていたレコードはどうしているんだろう?」と思いました。CDで買いなおしたものは、レコードの方はまったく聴いていないはずだからもらっていこうかと。それによく考えてみれば、古き良き音楽をリアルタイムで聴いていた世代。もしかしたらオリジナル盤が眠っているかも、なんて淡い期待も寄せつつ、埃だらけのレコード棚を漁ってみました。

実は、実家のレコード棚をちゃんと見てみるのは初めてのことでした。実家を出るまではアナログレコードに興味なんてほとんどなかったし、幼い頃から刷り込みのように聴いて育った音楽たちとちゃんと向き合ったのも、家を出てからだったのです。

そのレコード棚のほとんどはジャズでした。それもそのはず、家でフォークソングやビートルズがよくかかっていたのは事実なのですが、両親が最も詳しいのはジャズで、街で何かジャズが流れていると演奏者を言い当ててしまうほどだったのです。しかし、子どもはジャズなんてあまり好きじゃないもの。おそらく家でかけても良い反応はしなかったのでしょう。両親がジャズを好きだったのはよく知っていますし、ときどきは聴きましたが、よく家で聴いたのはフォークソングやビートルズという印象です。

しかしレコード棚には、サイモン&ガーファンクルやビートルズなどは、ほんの数枚きりしかありませんでした。その少なさに驚いて尋ねると、ジャズ以外のレコードの多くは、ひとにあげてしまったとのことでした。残っているのは、ひとにあげられないような傷んだものばかりなのだそうです。それでもジャズも含め、とりあえず片っ端から見ていきましたが、お宝はありそうにありませんでした。ほとんどのレコードが日本盤。たまに輸入盤のUS盤がちらほらありましたが、再発盤ばかりでした。

でも僕はがっかりするどころか、それらのレコードを見ているうちに胸の奥が熱くなってきていました。

どのレコードも、ほんとうに擦り切れるほど、よく聴きこまれていました。盤面は磨り減って白っぽくなっていますし、ジャケットの傷み方も、何度も何度もレコードを出し入れしてできた傷み方です。レコード・レーベルも、レコードを持つときに指で支えるのに触れる部分の印刷が消えかかっています。また、何枚かのレコードの裏ジャケットには、「No.○」とペンで書き込みがあるものを見つけました。これは何かと訊いてみると、母が、自分のお小遣いで買った○番目のレコードという意味だそうで、最初の10枚くらいまでは書き込んでいたようです。

ケニー・バレルの直筆サインがあったのにも驚きました。若い頃、東京にジャズを観に行ったとき、隣で観ていたいた知らない人に誘われて、楽屋に一緒に押しかけて、サインを貰ったというのです。

同じものが2枚、というジャズのアルバムもいくつかありました。これは、父と母が結婚する前にそれぞれ持っていたものなのだそうです。レコードには、父と母の、青春が詰まっていました。それはどんなお宝レコードなんかよりも尊い、大切な大切なものに思えてなりませんでした。
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