the HIATUS、3rdアルバム『A World Of Pandemonium』に見えるバンドの進化の証である大きな変化

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たぶん多くのファンが彼ららしい作品だと思いながらも、バンドの進化の証である大きな変化に少なからず驚いているにちがいない。the HIATUSが前作『ANOMALY』から1年半ぶりにリリースした最新3rdアルバム『A World Of Pandemonium』。

実際のレコーディングは今年3月に始められた。しかし、曲作りにまで遡れば、ほぼ1年という長い時間をかけ、細美武士のブログによると、途中、ひょっとしたら完成しないんじゃないかという局面を迎えながらも一歩ずつ作業を進め、ていねいに、じっくりと作りあげていったようだ。

想像の域を出るものではないけれど、前作発表後のツアーを通して、同じ志を持ったバンドにしか起こりえないケミストリーを改めて感じながら、一つの完結したアート作品として、曲作りからアレンジ、演奏まで、これまで以上に、とことんディテールと完成度を追求してみようという意識が強かったんじゃないだろうか? それが具体的にどんな楽曲に実を結んだか、それについては後述するが、彼らが新作で成し遂げた進化は冒頭に書いたとおり、ファンを驚かせる一方で、イマジネーションをさまざまに刺激する変化となって表れたようだ。

収録曲のミックスを依頼した4人のサウンド・エンジニアの顔ぶれも、彼らが今回、どんな作品を作ろうとしたかを考える手掛かりになるだろう。

アコースティック・サウンドをアヴァンギャルドに響かせ、巧みにメインストリームのロック・サウンドに溶けこませてきたチャド・ブレイク(エルヴィス・コステロ他)、ポスト・ロックの生みの親とも言えるエディットの魔術師、ジョン・マッケンタイア(トータス他)、アイスランドのポスト・ロック・バンド、シガー・ロスのレコーディング・エンジニアとして知られるビルイェル・ヨン・バーギッソン、そしてハードコア/ポスト・ハードコア・シーンの生き字引として、ディスメンバメント・プラン他、多くのインディ・ロック・バンドを手掛けてきたJ.ロビンズ。作るサウンドはそれぞれに違っても、全員が表現の一つとして、彼らにしかできない音作りに取り組んでいる一流のサウンド・クリエイター達だ。

彼ら4人によるミックス、さらにはテッド・ジェンセン(シガー・ロス、コールド・プレイ、グリーン・デイ他)によるマスタリングは楽曲が持つ魅力やサウンドのおもしろさを、より際立たせることになったにちがいない。

それにしても、なんて穏やかな作品なんだろう。

アコースティック・ギターの爪弾きに導かれるように始まる冒頭の「Deerhounds」以下、これまでエレクトリック・ギターをかき鳴らしながら激情を迸らせていたthe HIATUSは、ここにはいない(もちろん、彼らの表現は、それだけに止まるものではなかったけれど)。ほぼ全曲でエレクトリック・ギターよりも前で鳴っているアコースティック・ギターの音色が新境地を印象づける。そこが聴きどころと言うこともできるだろう。しかし、だからと言って、アコースティック路線と言ってしまえるほど単純な作品ではない。

そこは数々のバンドでプレイした経験を持つ歴戦のミュージシャン集団だ。

ジャズ風味とクラブ・ミュージックが一つに溶けこんだようなM2「Superblock」、リズムにラテン・ミュージックの影響が窺えるM3「The Tower and The Snake」、レンタルズの女性シンガー、ジェイミー・ブレイクと細美武士がメロディーと詞を共作、デュエットしたアイリッシュ・フォーキーなM4「Souls」、アダルト・コンテンポラリーな風情を装いながら演奏陣のせめぎあいが熱いthe HIATUS流のジャズとも思えるようなM7「Flyleaf」、オーケストラをフィーチュアしたエモーショナルな楽団風フォークのM8「Shimmer」…アコースティックの質感と、さまざまなフォーク・ミュージック(民謡)の影響を、ポスト・ロック的な解釈でthe HITUASのサウンドに取り入れることもテーマの一つとしてあったんじゃないか。そんなことまでも連想させる閃きに満ちた楽曲の数々は、大音量とか攻撃的とかとはまた違った意味でスリル満点だ。

エモーショナルなフレーズをたたみかけるように歌い上げる細美武士のヴォーカルは、彼らしいナイーヴさを感じさせるものながら、曲によってはファルセットも聴かせるなど、今回はシンガーとしても一段の成長を感じさせる。

タイトルどおり「大混乱の世界」を歌いながら、(歌詞の内容はともかく)どこかほのかな明るさも感じさせるこういう穏やかな作品になったところが興味深い。

だからこそ、ゴツゴツしたサウンドが印象的なポスト・ハードコア・ナンバーM6「Broccoli」、ラストを飾るポップかつパワフルなロック・ナンバーM10「On Your Way Home」の2曲も逆に映えるわけだけれど、そんな穏やかさは、アーティストとしての現時点での志向によるところが大きいのかもしれないが、その一方では、「大混乱」の、その後の世界を見据え、その新しい世界に思いを馳せるメンバーの願いがこういう作品を作らせたんじゃないか。そんなふうにも思えるのだ。

the HIATUSはアルバムのリリース日の翌日から全国ツアーをスタートさせた。新曲の数々がライヴでどう表現されるかが今から楽しみだ。

文●山口智男



3rd Album
『A World Of Pandemonium』
2011年11月23日発売
FLCF-4406 ¥2,520(tax in)
1. Deerhounds
2. Superblock
3. The Tower and The Snake
4. Souls feat. Jamie Blake
5. Bittersweet / Hatching Mayflies
6. Broccoli
7. Flyleaf
8. Shimmer
9. Snowflakes
10. On Your Way Home

<A World Of Pandemonium Tour 2011-2012>
11月24日(木)千葉LOOK
11月27日(日)Zepp Fukuoka
11月29日(火)熊本DRUM Be-9 V1
12月1日(木)鹿児島CAPARVO HALL
12月5日(月)郡山HIP SHOT JAPAN
12月7日(水)Zepp Sendai
12月8日(木)山形ミュージック昭和Session
12月10日(土)盛岡CLUB CHANGE WAVE
12月11日(日)青森QUARTER
12月14日(水)京都KYOTO MUSE
12月15日(木)神戸WYNTERLAND
12月20日(火)横浜BLITZ
12月26日(月)岐阜club-G
12月27日(火)松阪M'AXA
【2012年】
1月15日(日)広島クラブクアトロ
1月16日(月)岡山CRAZYMAMA KINGDOM
1月18日(水)山口 周南TIKI-TA
1月21日(土)福島 いわきclub SONIC
1月22日(日)茨城 水戸LIGHT HOUSE
1月24日(火)Zepp Tokyo
1月25日(水)Zepp Tokyo
1月28日(土)Zepp Osaka
1月29日(日)Zepp Osaka
2月4日(土)金沢EIGHT HALL
2月6日(月)新潟LOTS
2月7日(火)長野CLUB JUNK BOX
2月11日(土)Zepp Nagoya
2月12日(日)Zepp Nagoya
2月17日(金)Zepp Sapporo
2月21日(火)徳島club GRINDHOUSE
2月22日(水)愛媛 松山SALONKITTY
2月24日(金)高松Olive Hall
2月29日(水)新木場スタジオコースト
3月1日(木)新木場スタジオコースト

<FM802 ROCK FESTIVAL「RADIO CRAZY」>
12月30日(金)インテックス大阪

<COUNTDOWN JAPAN 11/12>
12月31日(土)幕張メッセ

<DEVILOCK NIGHT THE FINAL -Thank you and Good bye->
2月25日(土)・26 日(日)幕張メッセ
※出演日後日発表

◆the HIATUSオフィシャル・サイト
◆細美武士オフィシャル・サイト
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