ウィーン・フィルのニューイヤー・コンサート、視聴率64%

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2012年も1月1日にウィーン・フィルハーモニー管弦楽団によるニューイヤー・コンサートが行われた。1939年に始まり70年以上の歴史を誇るこのコンサートは、音楽の都ウィーンを象徴するシュトラウス一家のワルツやポルカが演奏される華やかなイベントで、高額のチケットは世界一入手困難と言われているものだ。

◆ニューイヤー・コンサート画像

ウィーンが誇る黄金のムジークフェラインザールというホールからTVとラジオを通じて世界70カ国以上に放送され、4億人が視聴するクラシック界最大のイベントであり、2012年は地元オーストリアで瞬間TV視聴率がなんと64%を記録した。これは、2003年の以降最高の視聴率でありオーストリア国内だけで350万人が見たことになる。2011年大みそかに最高48.2%を記録した「第62回NHK紅白歌合戦」と比較してみても、その数字は抜きんでている。

2012年の指揮者はラトヴィア出身の巨匠マリス・ヤンソンスだ。1992年4月に初めてウィーン・フィルを指揮して以来、ウィ-ン・フィルにとって最も重要な指揮者のひとりであり、2012年のニューイヤー・コンサートは両者の共演20周年を記念する形で実現した。ヤンソンスは2006年に初めてニューイヤー・コンサートを指揮しており、その時すでに非常に高い評価を得ていた。2012年は定番の「トリッチ・トラッチ・ポルカ」、ポルカ「騎士」、「ピツィカート・ポルカ」、「美しく青きドナウ」、「ラコッツィ行進曲」などに加えて、チャイコフスキーの「眠りの森の美女」~ワルツとパノラマなど、ニューイヤー・コンサート史上初めて登場する作品6曲も演奏された。また、ウィーン少年合唱団も1998年以来となる久しぶりの登場を果たし、幸せな空間を創出した。視聴率が示すように、全体を通して大成功といえる内容であった。

以下、現地の音楽評論家・山田亜希子によるレポートを紹介しよう。

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音楽の殿堂として世界に君臨するウィーン楽友協会黄金のホール。2012年1月1日午前11時、ニューイヤー・コンサートの開演を前に、赤と白の花に彩られた豪華絢爛なギリシャ様式による美しいホールは、期待に胸を膨らませた聴衆の熱気に包まれていた。

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団が全世界へ贈るニューイヤー・コンサートは、すでに72回の歴史を持つ。今年の指揮者はマリス・ヤンソンス、2006年に続き2度目の登場となる。ヤンソンスがウィーン・フィルを初めて振ったのは1992年4月、2012年に両者の関係は20周年を迎える。

ヤンソンスが颯爽と指揮台に現れた。タクトが動き出すと、心地良いシュトラウス一家の音楽がホールに広がる。ニューイヤー・コンサートの定番、ヨハン・シュトラウス1世作曲「ラデツキー行進曲」の一節を引用して、二人の息子ヨハン・シュトラウス2世とヨーゼフ・シュトラウスが合作した「祖国行進曲」である。愛国心を揺さぶるこの曲にはハイドンの「皇帝讃歌」も引用され、さまざまな要素が入り交じっている。ヤンソンスはオーケストラの反応の良さを見事に扱い、秀逸な音楽を導きだす。どのフレーズも程が良く、その洗練された物腰はシュトラウスの音楽をより一層魅力的にする。ゼクエンツが連なる局面ではデュナーミクや様式美の違いを用いて、さまざまな薫りを醸し出す。一瞬も飽きさせることのない極上のシュトラウスがここにある。そしてウィーン・フィルは彼らの実力を存分に発揮していく。ヴァイオリンによる優美でのびやかなメロディは推進力のあるバスに支えられ、チェロはウィンナ・オーボエとともに哀愁を帯びた旋律を情感込めて表現する。ウィンナ・ホルンは重厚にモチーフを奏でて存在感をアピール、鮮やかな印象を与えるトランペットが移り変わりをさっと促したかと思えば、軽妙に絡み合うクラリネットはファゴットと手を組んで次のフレーズを誘い出す。ピッコロの冴えた合いの手は常にすがすがしく、そこへ鞭が景気よく鳴りシンバルが高揚する気分を盛り立てて、ド迫力で響く大太鼓のそばに小太鼓が爽快なリズムを刻む。ホールを舞う妙なる音色に聴衆は心を躍らせ、かつ心和ませる。

演奏会は快調にスタートし、4曲目の「トリッチ・トラッチ・ポルカ」になったところで、ウィーン少年合唱団がオルガン前のバルコニーに姿を現した。ニューイヤー・コンサートには1998年以来の登場となる。前半はこの「トリッチ・トラッチ・ポルカ」、後半には「鍛冶屋のポルカ」を歌い、難しいシュトラウスの2曲を鮮やかに聴かせて大きな拍手を得た。晴れの舞台に立った少年たちの感想はさまざまで、速いテンポの「トリッチ・トラッチ・ポルカ」がお気に入りという子もいれば、「鍛冶屋のポルカ」が面白いという子もいる。その訳は「指揮者が2本の金槌を持って金敷を叩くのだけど、そのうちの一本で指揮をしているんだ」とのこと。「どちらの曲もうきうきしているので、楽しまなくてはいけません。このようにして良い年が始まります」と愛らしい少年たちは、幸せな気分をプレゼントしてくれた。

今回のプログラムにはヤンソンスの「思い出がたくさん詰まった曲」が取り上げられている。聴きどころはまずツィーラー作曲「ウィーンの市民」。レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団の高名な指揮者であったヤンソンスの父アルヴィド1)はこの曲をこよなく愛し、毎年ジルヴェスター・コンサートで演奏していたという。続いてビゼーのオペラ「カルメン」を基にした「カルメン・カドリーユ」も見逃せない。ヤンソンスの母イライダ2)はメゾ・ソプラノ歌手で、彼が生まれた頃ラトビア共和国首都リガの歌劇場に活躍していた。カルメンは母が歌っていたレパートリーのひとつである。5歳の時客席に座っていたマリスは、カルメンがラストシーンにナイフで襲われるのを目の当たりにして「僕のお母さんにひどいことをしないでください!」と叫んだ。錯乱状態に陥ったマリスを、父は会場から急いで連れ出さなければならなかった。またニューイヤー・コンサートに初登場したチャイコフスキーのバレエ「眠りの森の美女」からの2曲では、ワルツを多く手がけたロシアの巨匠の逸品を味わうことができる。「チャイコフスキーほどエモーションに溢れる作曲家はいない」というヤンソンスの言葉には、ロシア・サンクトペテルブルクで青少年時代を過ごし、この都を第二の故郷とする彼の実感がこめられている。

2011年12月28日に行なわれた記者会見でヤンソンスは「新年の始まりに音楽の殿堂で、ウィーン・フィルという素晴らしいオーケストラが信じられないほど美しい音楽を演奏することは、この上ないポジティブなエネルギーの発信であり、世界へ希望をもたらします。私にとってシュトラウスの作品は娯楽音楽ではありません。ワルツは人生の中の出来事のようであり、音によるポエムです。どの曲もいろいろなことを連想させてくれます。これらを指揮するのはとても大きな喜びです」と語った。さらに「私は世界中の人々がこのコンサートを楽しめること、そして2006年よりも悪くないコンサートになることを願っています」とはにかみながらコメントした。演奏会はその言葉以上に運び大歓声が巻き起こった。熱狂の渦の中、「美しき青きドナウ」「ラデツキー行進曲」が披露され、会場の盛り上がりは頂点に達した。スタンディング・オベーションにヤンソンスは笑顔で応え、聴衆はブラボーを叫び続けた。

在ウィーン 音楽評論家 山田亜希子

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なお、2012年もこのニューイヤー・コンサートの内容は、CD、DVD、そして国内盤では初となるBlu-ray Discで発売となる。今回は例年以上の成功を収めている上、小型の空中カメラ使用したダイナミックな映像が用いられ、大いに期待できる内容になるとのこと。世界中のクラシック・ファンの憧れといえるニューイヤー・コンサートは、今年もヒット商品になることあろう。

『ウィーン・フィル ニューイヤー・コンサート2012 マリス・ヤンソンス指揮』
●CD:2枚組 SICC-1478~79 ¥3,000  2012年1月25日発売予定
●Blu-ray Disc:SIXC-1 ¥5,985 2012年2月15日発売予定
●DVD:SIBC-158 ¥4,935 2012年2月15日発売予定
※Blu-ray DiscおよびDVDは特典映像付き
・ウィーンの街探訪
・ワルツ「楽しめ人生を」、ポルカ「燃える恋」、ワルツ「美しく青きドナウ」(バレエ・シーン)[DISC 1]
1.祖国行進曲★(ヨハン・シュトラウス2世/ヨーゼフ・シュトラウス)
2.ワルツ「市庁舎舞踏会」作品438★
(ヨハン・シュトラウス2世)
3.ポルカ「あれか、これか」作品403★(ヨハン・シュトラウス2世)
4.トリッチ・トラッチ・ポルカ作品214(ヨハン・シュトラウス2世)
5.ワルツ「ウィーンの市民」作品419(カール・ミヒャエル・ツィーラー)
6.アルビオン・ポルカ作品102(ヨハン・シュトラウス2世)
7.ポルカ「騎手」作品278(ヨーゼフ・シュトラウス)
8.悪魔的ダンス(ヨーゼフ・ヘルメスベルガー2世)
9.フランス風ポルカ「芸術家の挨拶」作品274
(ヨーゼフ・シュトラウス)
10.ワルツ「楽しめ人生を」作品340(ヨハン・シュトラウス2世)
11.シュペール・ギャロップ作品42(ヨハン・シュトラウス)
[DISC 2]
1.コペンハーゲンの蒸気機関車のギャロップ★
(ハンス・クリスティアン・ロンビー)
2.鍛冶屋のポルカ作品269(ヨーゼフ・シュトラウス)
3.カルメン・カドリーユ作品134(エドゥアルト・シュトラウス)
4.バレエ「眠りの森の美女」から「パノラマ」★
(ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー)
5.バレエ「眠りの森の美女」から「ワルツ」★
(ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー)
6.ピツィカート・ポルカ
(ヨハン・シュトラウス2世/ヨーゼフ・シュトラウス)
7.ペルシャ行進曲作品289(ヨハン・シュトラウス2世)
8.ポルカ「燃える恋」作品129(ヨーゼフ・シュトラウス)
9.ワルツ「うわごと」作品212(ヨーゼフ・シュトラウス)
10.ポルカ「雷鳴と電光」作品324(ヨハン・シュトラウス2世)
11.チック・タック・ポルカ作品365(ヨハン・シュトラウス2世)
12.ワルツ「美しく青きドナウ」作品314(ヨハン・シュトラウス2世)
13.ラデツキー行進曲作品228(ヨハン・シュトラウス1世)

★ニューイヤー・コンサート初登場の作品
ウィーン少年合唱団(DISC 1[4]、DISC 2[1])
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
指揮:マリス・ヤンソンス

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