鈴木祥子、一人多重録音ライブでレコーディングを公開

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2012年2月18日、渋谷のライブハウスSARAVAH東京で<祥子のマルチ・レコーディング講座―なぜ一人多重録音を続けるか―>が行われた。このライブは通常のライブとは違い、公開レコーディング。公開レコーディングというと歌録りのイメージがあるが、今回はゼロからの制作。作詞・作曲・アレンジされた楽曲は、彼女の頭のなかにしかない。そして、譜面もない。その状況で、ライブはスタート。

とその前に、ライブ告知文には、「★一人多重録音の現場を初公開~ 鈴木祥子の“一人多重レコーディング”の模様をそのままライブハウスのステージに持ち込み、曲が完成するまでのドキュメントを最初から最後まで御見せしてしまおう、という非常に実験的なライブです。」と書かれている。2度目があるか分からないこのライブ、チケットは早々にSOLD OUT。ライブハウスは満席だった。

ブレザーにスカート、メガネという女教師のイメージで登場した彼女は、「講座」に合わせて新しいキャラを作ってみたとコメント。レコーディングに入る前に、最近歌謡曲が好きということで、倉田まり子の「HOW!ワンダフル」とSam Cookeの「Wonderful World」、LOUIS ARMSTRONGの「What a wonderful world」をワンダフル繋がりで演奏。

さっそく、レコーディングへ。

「最初にドラムを録ります」ということで、赤いドラムの前へ。録音エンジニアは、ドラマーでもある夏秋文尚氏。これまで、何度も一緒に仕事をしているそう。さてドラム。ここで、彼女ならではの録音方法が。彼女は、ドラムの録音のときにクリック(テンポキープのための、メトロノームようなガイド音)を聞かずに、頭のなかで歌いながら録るとのこと。以前は聞いていたけれど、必要ないなと思って。そんなこともレコーディングライブだから分かること。

レコーディングはとっても地味な作業である。今は、パソコンで音を作ってしまうことも可能だけれど、生音で録るときは何度も何度も同じフレーズを演奏することもある。ゴールは、本人が納得するとき。正直、見ている側が退屈になってしまわないかと心配もあった。しかし、ドラムは、なんと一発OK。少し引っかかるところもあったようだが、進めることに決定。一発OKといえど、演奏後、タオルを取りに行くほど汗をかいていた彼女。かなり本気です。

レコーディングなので、送風音がうるさいステージのエアコンは切られている。その上、集中しての演奏。「一人多重録音の現場を初公開」は、どこまで実際に使う音を録るのか気になったが、相当、力が入っていることに気づく。マイクの録音では見ている側も息をのむ。

続いて鍵盤へ。まずはピアノ。こちらは何度もやり直しが。マイクで音を録る楽器については、見ている私たちには演奏している音しか聞こえない。ドラムの音がなく、ピアノの音のみ。ただ、コードがつくことによって、曲の概要が明らかになっていくのが楽しい。彼女はその場でメモをしながら、音を調整している。だんだんレコーディングモードになってきていた。多少時間がかかったもののピアノ無事終了。楽器が変わる間に短いMC。「みなさん、大丈夫ですか? 楽しいですか?」とやや心配そう。

続いて、ウーリッツアーへ。これは、ラインで録るので、ドラムとピアノの音を聞きながら音を録っていく。ピアノのあたりから「もう一回、すみません」が連呼され、彼女には、私たちが見えていないのかもと思うことしばしば。エンターテインメントでありながら、エンターテインメントではないドキュメント。このライブには、きっといくつか解釈があって、エンターテインメント性を高めるのであれば、いくらでも事前に音を作っておいて、部分的に録音して、楽しませる方法もある。しかし、彼女はその方法を選ばず、ゼロから創り始めた。それによって、彼女の素の部分が見えることも覚悟で。通常は密閉されたブースで楽器を演奏し、その場に居るのはエンジニアやスタッフのみ。しかし、今日は約100名(くらいだと思う)の観客に全公開なのだ。

ウーリッツアーを録り終えたとき、「見られている意識がなかった」とコメント。やはり音に集中しているということ。個人的には2度と見ることがないだろう、このライブに来ることができてとても良かったと思った瞬間。それにしても譜面なしでここまでできるって、どれだけ頭に入っているんだろう。

あまりの暑さに、録った音を聞いている間だけエアコンをいれる。開始から1時間半20:30になっていた。これを長いと思うか短いと思うかは人それぞれだけれど、実際のレコーディングでは、おそらくあり得ないほどのハイスピード。受け取ったチラシには、終演予定時間は22:30と書かれているから、それまでに、まったく何もなかったところから歌をいれて完成まで持っていかねばならないのだ。

「ギターを録ったら休憩にします」と言って、アコースティック・ギターの録音に入る。ギターもマイクで録っているので、ギターの音しか私たちには聞こえない。そして、マイクで録っているときに、息を潜める習慣がいつの間にかついてきた。椅子を動かす音さえない。そして、ふいに彼女が「チューニング下がった?」と。日頃チューニングに敏感ではないらしいが、公開レコーディングという環境で、神経が研ぎ澄ませているのが微妙な音の違いに気づいたよう。実際、チューニングは下がっていた。さすが!

ラフにとってあとで差し替えれば、と思っていたけれど、本気になってしまうというコメントもあった。4本いれる予定のギターは時間の関係で2本のみ。転調のある曲なので、転調前まで録って、休憩へ。

休憩後、ブレザー&スカートからシャツ&パンツに着替えて登場。ギターより先に、プロフェット600へ。音を入れる部分だけ録っていく。イントロ、イントロ2、サビ、2サビ、アウトロといった具合に。そして、転調後のギターをいれてギター完成。ここまで聴いていて、どんな曲の構成なんだろう?と思っていた。Aが長い、Bがない。さて、どうなのか?

この時点で21:35。歌録りです。体力的に相当疲れていると思うけれど、歌ってしまう彼女。曲のタイトルを発表。「愛と幻想の旅立ち」。夢を見続けていたいけれど、夢を抱きしめていたら前に進めない。痛みを伴うけれど、夢を手放して前へ進むという内容だと解説。

そして、歌録り。マイクで録るので、聞こえてくるのは彼女の声のみ。アカペラというより裸歌だ。歌詞の言葉がそのまま入ってくる。歌詞の最後は“なんて痛い旅立ち”。

21:55、歌も入りました。聴いてみましょう~。ということで、初めて全貌が明らかに。聴きながら、タンバリンをたたく彼女。そこで、タンバリンの録音を。そして、最後に私たち観客による、ハンドクラップ(手拍子)をほぼ一発録りで。

22:15くらいだったかな。今日録った状態の「愛と幻想の旅立ち」を全員で聴いて、ライブは終了。まさにドキュメントライブ。個人的には、身を乗り出すほどの勢いで見入っていた。この地道な作業を公開する、彼女の勇気と覚悟に本当に拍手。

「愛と幻想の旅立ち」は、コーラスやギターをいれて、「BEARFOREST HANDMADE vol.3」としてライブに来た人で、申し込んだ人に、3月上旬に直筆サイン付きで発送予定だそうです。もちろん、申し込んで来ました。1枚、1500円。

セットリストのないライブ。おそらく最初で最後のライブ。貴重な経験をさせていただきました。

[寄稿] 伊藤 緑:http://www.midoriito.jp/

◆鈴木祥子オフィシャルサイト
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