レナード・コーエン『オールド・アイディア』、その深遠な作品の和訳

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2月22日に発売となったレナード・コーエン(77歳)の新作『オールド・アイディア』は、16カ国でiTunes/Amazon/アルバムチャートのいずれかの1位を獲得し、40年を超える音楽活動を通して最高記録を更新している。「史上最高の名作」との呼び声が高い作品だが、日本盤に封入された歌詞の対訳には、非常に苦労したのだという。

◆レナード・コーエン画像

詩人、小説家としても知られるレナード・コーエンの深くて難解な「言葉」を訳すことの難しさは誰もが認めるところだが、今までにもレナード・コーエンのアルバムの対訳を数多く手がけてきた三浦久氏は「レナード・コーエンの作品はライブ盤も含めて10枚ほど訳させてもらったが、どれも難しかった。中でも今回のアルバムは特に難しかった」と述べている。

例えば1曲目の「ゴーイング・ホーム」の中に<But the brief elaboration of a tube>というフレーズがあるが、このtubeという単語の意味を確定するだけで数日を要したという。

tubeには管/テレビ/地下鉄といった意味があるが、三浦氏はブックレットにコーエン自身が描いた裸婦と、その股間近くに置かれた髑髏の絵に注目し、「人の誕生と死」を象徴していると判断し、tube は fallopian tube(卵管)ではないかと思うようになった。一方で、この歌詞には使われていないものの、同じページに印刷されているa televised invention(テレビに映し出された虚像)というフレーズから、ブラウン管の可能性も捨てがたく、最初は「細い管」と訳していたものを、テレビのイメージも残したいと<狭い管から出て増殖した儚い幻に過ぎない>と訳している。

因みに、この歌の歌詞を紹介した『ニューヨーカー』の「カルチャー・デスク」というブログでは、tubeの解釈についてさまざまな意見が戦われている。

このように、「ゴーイング・ホーム」を含む全10曲の国内盤の対訳は、考え抜かれ悩み抜かれて作成されたものだという。詩や歌の解釈はひとつとは限らないが、レナード・コーエンの言葉を、対訳を元に2カ国語でアプローチできるのは、外国語圏だけの特権でもある。深遠な作品は、最大の敬意と深慮をもって味わうといいだろう。

photo : Dominique Issermann

『オールド・アイディア』
2012年2月22日発売
¥2,520(税込) 歌詞対訳付

◆レナード・コーエン・オフィシャルサイト
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