韓国生まれのテノール歌手・フィージンが3月2日、日本デビューアルバム「イルミネーションズ~光満ちる時へ」の発売記念コンサートを東京・銀座山野楽器本店で開いた。大きな拍手に迎えられたフィージンは「みなさんこんにちは。韓国から来ました」と日本語であいさつ。祈るように手を合わせながら、日本でのデビュー曲「ただ愛のために」など5曲をピアノ伴奏で披露。心を包み込むような温かな歌声に目を閉じ聴き入る人の姿もあった。

◆フィージン画像

男女デュオ:シークレット・ガーデンの「10月のある素敵な日に」を韓国語でカバーした曲で始まったステージは、「彼方の光」「ニュー・シネマ・パラダイス」「サムウェア」とアルバム収録曲の中からジャンルを感じさせない選曲で構成。力強く伸びやかに歌う場面では、聴衆をグッと引き寄せ魅了していた。

冒頭に披露した「10月のある素敵な日に」は、2011年秋に情報番組「美の巨人たち」(テレビ東京系)のエンディング曲に起用。同店舗では同曲が流れると「この声は誰?」と来店客がたずねることが多いといい、同店舗でのアルバム売り上げはクラシック・チャートで1位(2月6~12日集計分)を獲得した。

ラストに歌った「ただ愛のために」は、「また君に恋してる」で知られる作詞家の松井五郎が「この声には心を守れる力がある。未来を変える力がある」とフィージンのために書き下ろしたもの。レコーディングの際は、母国語ではない歌唱に不安もあったそうだが、松井から言葉のニュアンスを学び、歌詞を自らのものにしていく作業を重ねた。「心には心を信じる力がある」と一人一人に呼びかけるような歌声は、心の奥深くに沿うような温かみにあふれている。

ステージ後のトークショーでフィージンは「山野楽器は、大学生のころ、担当教授がCDを買うというので、かばん持ちとして来たことがありました。 まさかステージに立つとは夢にも思っていませんでした」とコメント。趣味は「マラソン」。好きな女性のタイプは「心の温かい女性」と照れながら話す姿は、歌唱中の精悍な顔つきから一転、36歳の素顔を見せていた。

2011年の3月11日以後は、現地で歌うなど復興支援に努めてきた。フィージンは「家族を失った子どもが、温かく迎えてくれてとても感激した。現地の子どもたちと「また何度もコンサートを開くからね」と約束をしたので、11日に被災地へ行きます。大変な境遇にある方々の力に少しでもなれるよう、歌っていきたい」と話していた。

フィージン
1977年に韓国生まれ。工業高校に在学していた当時、歌声の素晴らしさから音楽学校への進学を勧められたが、経済的な理由で断念。卒業後は韓国大手の自動車会社に就職したが、音楽への思いを断ち切れず声楽のレッスンを続け、1999年にソウル大学声楽科に合格。イ・インヨン名誉教授の下で経験を積み重ねてきた。2003年から06年まで同国で兵役に服した後、2008年3月にアルバム『face』でデビュー。オペラやポップスなどジャンルを超えたアイデアは同国のメディアで広く取り上げられ絶賛された。日本での活動は2010年5月からチャリティーコンサートなどを中心に展開。2011年に東京・紀尾井ホールで開いたデビューコンサートには、美智子皇后陛下が公式に御臨席した。プロ活動と並行し、母校・ソウル大学声楽科の客員教授も務めている。

テレビ出演 NHK総合「金曜バラエティー」
3月16日(金)12:20~12:43(生放送)

取材・文・写真/西村綾乃