ビーチ・ボーイズ、50年を経て変わらないその魅力の深淵に迫る

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ブライアン・ウィルソンが復帰し8月に来日公演が決定、そして6月4日には最新アルバムもリリースされる、ザ・ビーチ・ボーイズ。いまなお全世界から注目を集めるザ・ビーチ・ボーイズの魅力の根源とは? その真相に迫るべく、ザ・ビーチ・ボーイズの歴史を総括してみよう。彼らの奏でるサウンドが心に響くわけが分かってもらえるはずだ。

1942年に設立されたキャピトル・レコードは、アメリカ西海岸における最初のメジャー・レーベルだった。いうまでもなく、音楽ファンなら知らない人はいない世界的に有名なレーベルである。そして、そのキャピトル・レコードから1962年にシングル「サーフィン・サファリ」でデビューしたのが、カリフォルニア州ホーソーン出身のザ・ビーチ・ボーイズ。そう、地域は同じで、こちらは初めて世界的に有名になった西海岸出身のバンドというわけである。

一般的にキャピトル・レコードというと、ザ・ビートルズが1964年のアメリカ進出の際に契約したレーベルとして有名だけれども、正確に、それと業界的なアングルでいうならば、あのザ・ビーチ・ボーイズがいるレーベルとザ・ビートルズは契約した、ということになる。なぜならその時点でザ・ビーチ・ボーイズは「サーフィン・U.S.A.」や「サーファー・ガール」など、すでにヒット曲を連発する超人気バンドだったからで、そしてこのバンドは現在に至るまで、アメリカのトップ40に36曲もチャートインさせ、ワールドワイドにおけるアルバムのセールスをいうと、総計1億枚以上もの数字を記録している。

ザ・ビーチ・ボーイズの楽曲はほとんどが3分以内のもので、それはフルコーラスでラジオ局にオンエアさせるための戦略だった。その回数がヒットのカギを握る重要な要素となるからであって、とはいえ、コンパクトにまとめられているということだけでヘヴィ・ローテーションになるわけでもなければ、多くの人たちに親しまれる歌になるわけでもない。つまり、ザ・ビーチ・ボーイズの楽曲は徹底的にキャッチーなのである。一度聴いただけでしっかりと耳に残るメロディのすばらしさは天才的としかいいようがないし、美しいハーモニーも圧倒的。それはまるで、聴いた人を絶対的に楽しませる、喜ばせる、感動させるためだけに存在しているかのようである。

しかし、それが、それこそが、ポップ・ミュージックとしての理想であって、だから、ザ・ビーチ・ボーイズとは理想を見事に体現する稀有なバンドということになる。このことは、6月4日(月)にリリースされるニュー・アルバム『ゴッド・メイド・ザ・ラジオ ~神の創りしラジオ』においてもまったく変わらない。収録曲のどれを、どこを、どう聴いても、まったくザ・ビーチ・ボーイズだからである。

バンドのリユニオンにおける新作制作において、それまで試みたことのないアプローチで駄作を生むパターンは圧倒的に多いけれど、ザ・ビーチ・ボーイズは忠実。自分たちが創造したブランドのイメージをまったく損ねることなく、忠実にニュー・アルバムを完成させている。それこそがファンを楽しませる、喜ばせる、感動させるものになるとわかっているからで、やっぱりこのバンドはポップ・ミュージックの理想なのである。

それから楽曲についてもう一ついうと、歌詞。このバンドは1966年発表のアルバム『ペット・サウンズ』の以前と以後で語られることが多い。以前とは、「カリフォルニア・ガールズ」や「ファン・ファン・ファン」や「アイ・ゲット・アラウンド」など、女性や海やサーフィンや車などを題材にした作品を量産していた時期のことで、以後とは、「グッド・ヴァイブレーション」のように、当時としては画期的だった多重録音など、新しいレコーディング技術を駆使した作風へと変わった時期のことをいう。これもちろん、おおよその分け方であって、ならば、単純にザ・ビーチ・ボーイズの楽曲カラーを二つに分けるのであれば、サウンド・プロダクトというよりは、歌詞のほうがよりクリアでわかりやすい。

いかにもカリフォルニアの陽光が目に浮かぶポジティヴィティなものと、カリフォルニアというよりはアメリカという大国の陰や人間の内面をシリアスに表現したものと、歌詞は対照的な内容のものになっているからである。しかも、そこからデビュー当初の徹底的に明るかったバンドのムードや当時の時代性を感じることもできれば、バンドのブレインであるブライアン・ウィルソンが1960年代半ばという、振り返ればキャリアのずいぶんと初期に精神的に病んでしまったことで生じた彼の孤独や苦悩も感じ取ることができる。

レコード・デビュー50周年を記念した展開中のアニヴァーサリー・ツアーは、ザ・ビーチ・ボーイズの長い歴史をヒット曲と代表曲だけで伝えるシンプルかつストレートなポップ・コンサートになっていて、同時にそれが大変に濃密なものとなっているのは、披露される名曲の数々が結果的に、このバンドの歩みとメンバーの生き様を浮かび上がらせているからである。それが「ライヴ」というものであり、8月にはそのアニヴァーサリー・ツアーの一環として来日することが決定している。ザ・ビーチ・ボーイズを生で観ることができる、あの曲この曲を生で聴くことができる、ということを想像しただけでも十分に楽しいし、喜ばしいことだけれども、歴史的バンドの「重さ」も体感できるとあれば、想像より何倍もの感動を味わうことになるのではないだろうか。

文・島田 諭

『ゴッド・メイド・ザ・ラジオ ~神の創りしラジオ』
2012/06/4発売 TOCP-71311 ¥2,500(tax in)
日本語解説、歌詞・対訳つき
★ブライアン・ウィルソンが参加するビーチ・ボーイズとしては23年振りの最新アルバム
★ビーチ・ボーイズが、2012年、バンド結成50周年を祝って再結成。メンバーは、ブライアン・ウィルソン、マイク・ラヴ、アル・ジャーディン、ブルース・ジョンストン、デヴィッド・マークス。
★アルバムのプロデュースはブライアン・ウィルソン、エグゼクティヴ・プロデューサーとしてマイク・ラヴが名を連ねている。
1.Think About The Days / あの頃に…
2.That's Why God Made The Radio / ゴッド・メイド・ザ・ラジオ ~神の創りしラジオ
3.Isn't It Time / 今がその時
4.Spring Vacation / スプリング・ヴァケーション
5.The Private Life Of Bill And Sue / ビルとスーの私生活
6.Shelter / シェルター
7.Daybreak Over The Ocean / 海に輝く夜明け
8.Beaches In Mind / 心のビーチ
9.Strange World / ストレンジ・ワールド
10.From There To Back Again / バック・アゲイン
11.Pacific Coast Highway / パシフィック・コースト・ハイウェイ
12.Summer's Gone / 過ぎゆく夏
Do It Again (2012 Version) / 恋のリバイバル(2012ヴァージョン)※日本盤ボーナス・トラック

<来日公演>
8月16日(木)QVCマリンフィールド
[問]クリエイティブマン TEL:03-3462-6969
http://www.creativeman.co.jp/artist/2012/08beach/
8月17日(金)大阪市中央体育館
[問]キョドーインフォメーション TEL:06-7732-8888
http://www.kyodo-osaka.co.jp/
8月19日(日)日本ガイシホール
[問]サンデーフォーク TEL:052-320-9100
http://www.sundayfolk.com/


◆日本語オフィシャルサイト
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