この名盤をクラシックで!? クラシック弦楽四重奏団がキング・クリムゾンをジャケ&演奏で完コピ

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▲『21世紀の精神正常者たち』

▲キング・クリムゾン『クリムゾン・キングの宮殿』
まずは、このジャケット写真をご覧いただきたい。“これってもしかしてアレじゃん”と思う人が多いはず。そう、1970年代のプログレッシヴ・ロック(以下、プログレ)の代表的存在であるキング・クリムゾンのアルバム『クリムゾン・キングの宮殿』にそっくりなのである。わからなかった人は、下の写真を見ていただきたい。このアルバムを聴いたことのない人でも、このインパクト満点のジャケット写真は見たことがあるだろう。

ここで紹介するのは、クラシックの弦楽四重奏団がキング・クリムゾンをはじめとするプログレの名曲ばかりを演奏しているアルバム『21世紀の精神正常者たち』だ。

演奏するは、弦楽四重奏団“モルゴーア・クァルテット”。日本のオーケストラのトップ奏者たちが集まって結成された楽団である。弦楽四重奏とはバイオリン×2、ビオラ、チェロで構成される。そしてこの楽団を第一ヴァイオリニストとして率いるのは、東京フィルハーモニー交響楽団ソロ・コンサートマスターの荒井英治。他3名のメンバーも同交響楽団とNHK交響楽団の団員で、まごうことなき純粋なクラシック・アーティストたちだ。

現在放送中のNHK大河ドラマ『平清盛』の重要シーンで流れるオーケストラ版「タルカス(エマーソン・レイク&パーマー)」も、この荒井英治が参加しているといえば、“そういうことか!”と膝を打つ人も多いのではないだろうか。

モルゴーア・クァルテットは、1992年に結成され、ショスタコーヴィッチ作品の演奏で高い評価を得た。その彼らがプログレを“裏レパートリー”として持っているということは、昔からその筋では有名だったという。オーケストラの活動と同時進行でこのプロジェクトを継続し、今回のアルバム・リリースに至った。

さて、説明が長くなってしまった。アルバム『21世紀の精神正常者たち』に話を移そう。このアルバムは、決して“名曲の印象的なメロディをクラシカルなアレンジで心地よく聴かせる”というようなものではない。弦楽四重奏によるロック・アルバムなのだ。

すなわち、完コピ。耳障りの良いものではなく、プログレというかロック特有の音の濁りまでをもコピーしている。完コピといっても、楽器の数も4つでしかもリズム楽器がないので、厳密にいうと完全ではないのかもしれない。しかし、ベース、ギター、キーボード、ヴォーカルなどの主要なパートは、弾きやすく聴きやすいアレンジに直すのではなく、徹底的にオリジナルのフレーズに忠実に演奏。「21世紀のスキッツォイドマン」などは、メインテーマのド迫力の音の分厚さ、エフェクティブなヴォーカルライン、そして危ういテンションを含むギターソロまでをも、“よくぞ4つの楽器だけで!”と思うほどに完コピしている。

白眉な演奏は続く。「悪の経典#9 第一印象・パート1(原曲:EL&P)」でのハモンドとベースのコンビネーションを再現した絶妙さ、「マネー(原曲:Pink Floyd)」での7/8拍子のハネたグルーヴ、「クリムゾン・キングの宮殿(原曲:King Crimson)」ではメロトロンの音をオーケストラ楽器がコピーするという、なんとも本末転倒なことが起こっていて楽しい。そして表現される哀愁は、かなりオリジナルに近いと感じる。さらに「同志~人生の絆、失墜(原曲:Yes)」は、イントロのアコースティックギターのパートで感涙。ギターのカッティングをバイオリンのピチカート奏法で弾いたり、スティールギターの音も聞こえてくるようだ。

とにかく、このアルバムはロックの魂で満たされている。プログレの名曲に潜むアバンギャルドな実験性、スピリチュアルな要素、ロック独自の濁りと音圧感、演奏に通底するアイデンティティと自信。それらが混在して音が構築され、聴く者の心を激しく揺さぶってくれるのだ。

このジャケット写真にも触れておかねばならない。これは、クァルテットのメンバー4人の実写顔写真(パーツ)を合成して作られたという。なんというパロディ精神。実写のほうが妙にリアルで不気味な印象に仕上がっている。

さて、そのモルゴーア・クァルテットが、結成20周年とアルバムリリースを記念して福島、東京、大阪の三か所で演奏会を敢行する。プログレはクラシックに強く影響された音楽であることから、プログレ・ファンにクラシック・ファンは多いはず。ぜひ足を運んで、歴史的名演の体験者となってほしい。

文●編集部・森本


『21世紀の精神正常者たち』
CQCO-84964 \2,940(tax in)
1.21世紀のスキッツォイド・マン(Twenty First Century Schizoid Man/King Crimson)
2.月影の騎士 (Dancing With The Moonlit Knight/Genesis)
3.悪の教典#9 第一印象・パート1 (Karn Evil #9: 1st Impression-Part 1/Emerson,Lake&Palmer)
4.太陽讃歌 (Set The Controls For The Heart Of The Sun/Pink Floyd)
5.マネー(Money/Pink Floyd)
6.メタルマスター(Master Of Puppets/Metallica)
7.アフターグロウ (Afterglow/Genesis)
8.クリムゾン・キングの宮殿 (The Court of the Crimson King/King Crimson)
9.同志~人生の絆、失墜(And You And I ~Cord Of Life, Eclipse/YES)
10.暗黒 (Starless/King Crimson)

<発売記念コンサート>
6月26日(火)福島市音楽堂
6月27日(水)浜離宮朝日ホール
6月29日(金)大阪フェニックスホール

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